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麗人賢者の薬草箱  作者: 江本マシメサ
第十章 『メディチナ』、やっと再開!
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百五十話

 セレスティーナの指摘した化粧品の変更すべき点を、エリージュを初めとした女性陣で話し合った。

 彼女の意見は的確で、ほとんどの部分を採用し、商品を新たに作った。


 開発会議にはセレスティーナも呼んで、合格を貰うまで作り直すことを繰り返す。


 やっとのことで完成したが、喜んでいる暇はない。


 ここから、生産が始まるのだ。


 ミノル族のノムは、しっかり化粧品のパッケージを準備してくれていた。

 納期を終えたので、これから温泉旅行に出かけると言っていた。

 あとは中の薬や化粧品を作るばかりである。


 その日の夜の定例会議では、嬉しい報告もクレメンテから発表があった。


「船のチケットが、完売したらしいです」

「まあ、すごいじゃない!」

「ええ、みなさんの頑張りの成果ですね」


 百枚売るのも絶望的だったと言われた客船のチケットは、見事に完売。

 リンゼイも身を削りながら、お茶会で宣伝を頑張った甲斐があったと安堵する。


「旦那様、奥様、喜んでいる場合ではありませんよ。明日から忙しくなりますから、気を引き締めて」


 机の上には、ウィオレケが作成した地獄のスケジュールが置いてあった。

 クレメンテとリンゼイは、必死に見ない振りをしていたのだ。


「主な生産は、目玉商品であるおしろいですね」


 ノムはコツを掴んだのか、日に二つ仕上げ、百個のおしろい用コンパクトを完成させていた。

 他にも、口紅の筒、グロスの小瓶、頬紅の缶など、様々な容器を仕上げてくれていた。


「すごいわ。こんなに作っていたなんて」


 その分報酬は弾んだと、シグナルは言う。

 大きな仕事を終えて、収入もあってノムも満足していたという。

 芸術品のような容器を見て、金貨百枚の値段に相当する価値のあるものだと、誰もが思っていた。


「明日は化粧品製作の人員を増やし、集中的に作業を行います。旦那様も、奥様も、ご一緒に」

「ええ、それは分かっている」

「協力させて頂きます」


 クレメンテはイルにも手伝いを頼んだと言っていた。


「あの人、大丈夫なの?」

「ええ、やる気はあるようでしたが」

「あなたが頼んだら、そうなるでしょうね」


 イルは店の看板になる大きな絵を五枚、つい数時間前まで描いていたのだ。

 それはリンゼイの等身大絵画となっているが、まだ本人には見せていない。

 周囲の者達も、話題にあげないようにしていた。


「あ、そうそう。セレスティーナも手伝ってくれるって」

「へえ、意外ですね」

「ええ。私も思ったわ」


 リンゼイが怒涛のスケジュールに戦々恐々としていたら、尊大な物言いで化粧品製作に手を貸すと言ってきたのだ。

 絶望的なまでに人員不足だったので、ありがたく思い、頭を下げてお願いをすることになったと話す。


「旦那様、奥様、そろそろお休みになったほうがよろしいでしょう」


 シグナルの一言で会議はお開きになった。


 私室に戻ろうとするクレメンテを、リンゼイが引き止める。


「ねえ、クレメンテ」

「は、はい!」


 なんとなく声を掛けただけなのに、盛大に構えられてしまった。

 大した用事のないリンゼイは若干後悔する。


「あ、明日、から、頑張りましょうね。それを言いたかっただけ」

「あ、はい! 精一杯、力の続く限り頑張ります」

「まあ、無理をしないようにね」

「はい!」


 用件を伝えたら、二人は見つめ合う形になった。

 熱い眼差しに耐えきれなくなったリンゼイが先に逸らす。


「リンゼイさん」

「な、何!?」

「ゆっくり休んでくださいね。おやすみなさい」

「!」


 にっこりと微笑むクレメンテの顔を見上げ、リンゼイは顔を赤くする。

 笑顔を見たのは久々だったからだ。


「うん、ありがとう。おやすみなさい」


 その言葉だけを交わし、二人は部屋に戻ることになった。


 通路の曲がり角から、夫婦を眺める影が二つ。

 エリージュとシグナルだった。


「ああああああ! どうして、そこで部屋に誘わないの!!」

「エリザベス様、クレメンテ様に多くを望んではなりません。ゆっくりと、気長に見守るのです」

「ゆっくり、気長にですって!? もう一年半以上経っているのに、口付けの一つもしていないなんて!!」


 荒ぶるエリージュをシグナルはなんとか諫めようとするが、最近はだんだん手が付けられなくなっていた。


「媚薬を、地方から取り寄せて……」

「駄目です! クレメンテ様が後悔されますので」

「いいえ、媚薬は手助けをするだけなの! これは、そっと背中を押す行為に過ぎないと」

「……そうですね。検討しておきます。今日はもう、お休みになってください」


 荒ぶるエリージュの背を軽く押しながら、その日は撤退することになった。


 ◇◇◇


 朝。

 『メディチナ』従業員一同は、地下の生産部屋に集められた。

 これから、怒涛の生産体制に移ることを、クレメンテの口から発表される。

 次に、ウィオレケから生産に関する注意を言い渡す時間になった。


 皆の前に立ったウィオレケは、背中に竜の卵を背負っていて、パっと見た感じはほのぼのしていた。


 だが、目付きがいつもと違った。


 彼は、殺し屋のような凄まじい形相で皆の前に立っていたのだ。


 そして、口を開く。


「――ここは、戦場だ」


 従業員一同は、スイッチが入ったなと思う。

 彼は凄まじい殺気のようなものを放っていた。


「一瞬たりとも気を抜くな。質が下がる。半端な気持ちで居る者は不要だ。商品に魂が籠らない。ここから出て行け」


 ウィオレケの熱く厳しい言葉の数々に、従業員達は震えあがる。

 彼は、薬作りの場になれば、人が変わったようになるのだ。


 リンゼイですら、緊張の面持ちでいた。


 そして、作業が個人に振り分けられる。


 大きな仕事を終えて、青い顔をしているイルの姿もあった。

 恋人であるスメラルドが隣に居るので、嬉しそうではあったが。


 リリットは『妖精の鐘フェアリ・クロッシュ』を十回振った。

 十人の筋肉妖精マッスル・フェアリが、地面に咲いた艶やかな花より召喚される。

 彼らも製品作りに協力してくれると言うのだ。

 この妖精おっさんらこそ、『メディチナ』の大きな戦力となっていた。


 それから、ひたすら薬や化粧品を作る作業に移る。


 リンゼイは材料が足りなくなれば、竜に乗って採取に出かけていた。


 この日のために従業員達も手順を学んでいたので、スムーズな生産が続いている。


 検品をするのはリリットのお仕事。

 一つ一つ、品質を調べていた。


 ウィオレケの厳しい目もあり、従業員達は商品を全力で作る。


 昼休憩の時は、体力回復のゼリーが提供された。

 ウィオレケと屋敷の菓子担当が作ったものである。

 上品なお菓子で、力もみなぎると、好評であった。


 飴と鞭の使い方が上手いなと、クレメンテとリンゼイは感心する。


 生産は順調。在庫棚も埋りつつあった。


 そんな中で、突然事件が発生する。


 客船が通る海域に、海賊が出たという話が持ち込まれた。

 航路を調べていた船員が、襲われかけたと言う。


 打ち合わせを重ねていた担当が、申し訳なさそうに、「中止も考えている」と話した。

 豪華客船アインセル号が行く航路は、セレディンティア王国を抜け、他国の海域も走る。

 その国にある商業都市に寄って行う買い物ツアーは、船旅の目玉の一つとされていた。

 しかしながら、残念なことに、そこに海賊が出たのだ。


「話によれば、現れたのは海賊船・レヴィリンガー号であると」

「なッ!」

「あ……」


 リンゼイとクレメンテは同時に反応を示す。

 海賊船・レヴィリンガー号は、以前いろんな意味でお世話になり、新婚旅行の時にも再会を果たした海賊の一味であった。


「……殺す!!」

「え!?」


 リンゼイの物騒な言葉に、豪華客船の担当は驚く。

 クレメンテは「そうですね。怖いですね!」と言って、妻の「殺す」を聞き違いとして処理していた。


 今日のために、リンゼイ達は頑張ってきた。

 それを、海賊船なんかに邪魔されてたまるものかと、怒りを覚える。


「私が、竜を駆って海賊を倒します」

「え!?」


 思いがけないリンゼイの言葉に、担当者は驚くことになった。

 そろそろと、視線をクレメンテに移す。

 彼は、またしても聞き間違いかと思ったのだ。

 クレメンテは安心させるように、柔らかな笑みを浮かべながら言う。


「海賊のことは、私達にお任せください」


 担当者はありえない回答を前に、椅子からひっくり返りそうになった。


アイテム図鑑


メディチナ製造部


部長ウィオレケを筆頭に集められた精鋭部隊。

見事な手さばきで製品を作る。

先日、筋肉妖精部隊の入部が認められた。

もう、誰も勝てない。

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