百四十話
穴の中を高速で下ること数分。リンゼイ達は地下深い坑道に到着をした。
上の層よりもさらに空気が悪かったので、怪植物が空気浄化能力を発揮し続ける。
「あんまり無理しないでね」
『大丈夫、ダイジョウブ~』
初めこそ邪悪なる魔物の気質をしていた怪植物であったが、クレメンテが捕獲し、リンゼイが魔力の素を与え、さんさんと照り付ける太陽の下、竜達に見守られながら育ったので、すっかり精霊寄りの善き生き物になっていた。
そして、内に秘める魔力も、日々増大している。
リリットは本日、そのことについて気付いた。
『うわ、しばらく視てなかったら、とんでもない存在に……』
植物系魔物の成長速度は他よりも早い。そして、限りがないのだ。
世界最大の魔物に『天空樹』というものが存在する。
天にも届くような高さを持つ魔物であるが、大きすぎるが故に、動くことが出来ない。
樹の中は迷宮となっており、様々な魔物の生息地となっている。が、中の居心地が良すぎて、魔物は外に出て来られなくなる。
魔物収集箱として、密かに人々より感謝をされる存在であった。
一方で、怪植物は他の植物系魔物より恵まれた場所に身を置いている。
成長していないはずがないのだと、リリットは観察していた。
怪植物の言葉の通り、空気の浄化をしても、魔力はほとんど消費していない。
このまま任せておいても大丈夫だと、リンゼイに伝えた。
地下坑道内は酷い粉塵まみれであった。
怪植物のサポートがなかったら、大変なことになっていたと、身震いをさせるリンゼイ。
相変わらず、魔物の気配は多くあった。
だが、リンゼイに挑む力量がない魔物なのだろう。一切近づいて来る様子はなかった。
『そういえば、鉱物ってどうやって採るの?』
「爆破」
『え?』
「坑道の岩壁を火力で壊すの」
『それ、正規の方法? 本当に大丈夫なの?』
「ええ。採掘方法、きちんと読んで来たし」
『……そう。ほどほどにね』
絹雲母はうっすら白く輝く岩の中にある。
鉱物自体が光っているのだ。
「この辺は採掘跡もないし、きっと奥に採れる場所があると思うんだけど」
『なるほどねえ~~』
探索から数時間。
時刻はお昼を過ぎていた。
『お腹空いたけど、流石にここじゃ食欲も湧かないわ』
「さっさと採掘して、出ましょう」
『オ食事ノ場所、作ロウカ?』
「え?」
そんな風に言えば、怪植物はリンゼイ達の周りをスキップしだす。
一体何が始まるのかと眺めていたら、魔法陣が浮かび上がり、地面から草木が生えてきた。
蔓が伸びて岩壁を覆い、豊かな葉が芽吹く。
周囲はあっという間に緑に包まれた。
『コレデ、オベント、食ベラレル?』
「あ、うん。ありがと……」
長時間の探索で、リンゼイは精神的に疲れていた。
怪植物の作ってくれた小さな森を、心からありがたいと思う。
さっそく、草の地面に座り込んだ。
生えたばかりの草は柔らかく、清涼ないい匂いがしていた。
道具箱の中の食事を広げる。
『おおっ、これは素晴らしい』
「また、手の込んだ物を作ってくれたのね」
手掴みで食べられる魚のクリームパイに、揚げ鳥、野菜の煮物、肉の串焼き、肉団子など、色とりどりの食事が詰められていた。
怪植物には、ウィオレケレシピの特製はちみつ水が用意されていた。
皆、時間を掛けてじっくり味わう。
食後、お腹を休ませてから、探索を再開させた。
「……坑道探索って、キツイ」
『だねえ』
管理が面倒だが、一度採掘場まで行ったら、転送陣を敷こうとリンゼイは心に決める。
『あれ、転移陣ってそんなに管理が面倒なの?』
「ええ、まあ。数時間なら平気なんだけどね」
『へえ~。ま、そっか。商品化したら、素材もそれだけ必要になるからねえ』
「ええ、そうね。ここ、何度も挑みたくなるような場所でもないし」
『ですな』
しばらく歩けば、最深部のような広場に辿り着く。
そこは地面も壁も天井も真っ白という、最高の採掘場であった。
だが、ここで問題が生じる。
リンゼイはがっくりと肩を落とし、リリットは同情する。怪植物は悲鳴をあげていた。
「やっぱり、こういうことになるのね」
『お気の毒に……』
『ヒヤアアア!』
地下深くには、巨大な蠍がうごめいていた。
普通の蠍ではない。
周囲の鉱物を摂取していた為か、白い体をしていた。
見上げるほどの大きな体に、後方からは解く長い尾が反り返っている。先端には鋭い針があり、そこから銀色の毒が滴っていた。
触肢ははさみ状になっている。赤く発光する六つの目が、リンゼイを獲物として捉えていた。
前に突き出されたはさみを、リンゼイは杖で弾き返す。
カン! と小気味のいい音がした。
『ヒィ、リンゼイさん、魔術を使ってえええええ!!』
早速の脳筋対応に、リリットは戦慄を覚えながら叫ぶ。
涙をこらえて『鑑定』で魔物についての情報を得る。
毒大蠍
毒を被れば、即死する。はさみにも弱い毒があるので注意。
『――という訳だから、リンゼイ、気を付けてね!!』
「分かった!」
リリットは防御の呪文を可能な限り唱え、リンゼイの身を守る。
毒大蠍は巨体に似合わず、素早い動きを見せていた。
『メルヴモオ手伝イ、スル~』
手先に大きな葉を生やし、鋭くする。
てぽてぽと走りながら魔物に近づいたかと思えば、毒大蠍の脚をスッパリと切り裂いた。
毒大蠍は素早く動くことを可能とするが、案外足の付け根が弱い。
怪植物の一撃は、大打撃を与えていた。
動きが遅くなったので、やっとのことでリンゼイは詠唱の機会を得る。
『お~い、メルヴ、リンゼイが今からやばいの放つからね!』
『ハ~イ!』
左右の脚を計三本、切り裂いた怪植物は、リンゼイの近くに隠れることにする。術者の周囲には、魔術に巻き込まれないような強力な結界が築かれるのだ。
詠唱を終えたリンゼイは、杖を揮って呪文を叫ぶ。
――大爆発!!
巨大な爆炎が上がり、毒大蠍の大きな体は一瞬にして砕かれる。
リリットは想像以上のえげつない一撃に、悲鳴を上げていた。
怪植物は『炎、綺麗ダネ~』と言って嬉しそうにしている。
だが、リンゼイの脳筋魔術は魔物を倒すだけではなく、硬い岩壁をも抉っていた。
おかげで、目的の鉱物が大量に手に入ることに。
『リンゼイ、これ、狙ってた?』
「いいえ」
『だよねえ……』
それから、三人で絹雲母を拾い集める。
品質を守るために、絹雲母は薬草箱の中に保管された。
粉塵で薄汚れていた外套は、今度は絹雲母の輝く白色まみれになっていた。
「……早く帰って、お風呂に入りたい」
『わたしも』
『メルヴも水浴びしたいよ~~』
薄汚れた一同は、早く地上に出たいと願っていた。
地味な収集作業は、一時間後に終わる。
『なんとか採取でしたね。おしろいの他の素材は?』
「他にも顔料につかう鉱物がいくつか。それと『アレクシスの花』を入れようと思って」
『大霊薬の材料の?』
「そう。鉱物の悪い物質を肌に取り込まないようにするためにね」
『なるほどね~』
転移陣を使って、一瞬で地上に戻る。
アレクシスの花は以前穴場ポイントを見つけていたので、帰りがけに寄って摘んで帰った。
翌日も鉱物採取に出掛け、おしろいの材料はあっという間に集まった。
翌日から、試作品作りに移行する。
アイテム図鑑
絹雲母
肌の輝くを際立たせるのに役立つ成分。
とにかくきらきらしている。




