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五話 再談 Ⅲ

 ヤオトが宿から出ると宿の屋根にとまっている一羽のカラスが鳴いた。このカラスは人を見ると鳴くクセがあるヤオトの友人?だ。


「よぉ、ウクシナ。毎日元気だな」

「オハヨー」


 ヤオトがそのカラスに呼びかけるとぎこちない発音で返ってきた。一応カラスは九官鳥きゅうかんちょうの仲間なので言葉を発することができる。


「じゃ、ちょっと行ってくる」

「イテキナー。オハヨー。アーアー。オハヨー」


 カラス、ウクシナは言葉の間にオハヨーを入れながらヤオトを見送った。ちなみに、ヤオト以外の相手とは会話が成立しないため、ただ一人をのぞいてウクシナに話しかける者はいない。


 ヤオトはしばらく歩いていると白銀に輝く髪をポニーにしている少女がうずくまっているのを見つけた。


「おーい。大丈夫か、ヴェシュナ」

「うぅ……」


 ヤオトは名前を呼ぶが返事はない。彼女は彼が言った通りヴェシュナだ。ヴァンパイアの弱点をなくす進化の過程か、日光に当たると白銀に輝く。ちなみに電球や蛍光灯などでは白銀にならない。


「どうした?」

「ヤオトぉ。さっき木の実が落ちててちょうどお腹すいてて食べたらヒットしちゃったみたい。あはは……」


 再び問いかけるとヴェシュナは苦しそうだが無理に笑って冗談のように返した。そして顔を見られたくないのかうずくまったままじっとしている。


「つまり拾い食いして腹こわしたんだな」


 ヤオトは予想が当たって半分あきれ、半分笑いながらヴェシュナに確認した。すると彼女はその場でコクコクとうなずいた。

 拾った木の実が相当体に合わなかったのか息が荒くなっていき、汗がふき出している。いくら自業自得でも一応お客様?なのでヤオトは身体を診ることにした。


「そのままじっとしてろよ」

「うん、悪いわね。あはは……うぅっ」


 相変わらずヴェシュナは無理に笑おうとしている。それをヤオトはやめさせ、背中に手を置き魔力を送り込む。


「ん、こいつはエルシニア菌か?海水中に生息する最近がこんなところに……ってここは島国か」

「へ?」

「エルシニア菌は水、ミルク、魚介類、果物、野菜等に生息していたりする。ま、めったにみない細菌だな。それに当たるなんてな」


 ヤオトは食中毒の原因を一通り説明しその原因の細菌がめずらしいものであったため思わず笑ってしまう。


「ハリーアップ、ハリーアップ」

「わった。てかまだ言葉覚えられないのか?」

「だってさ、あたし人間殺しにバトルフィールド行ってんのよ。あんたに会うまでは人間と話すなんて思ってなかったからね……」


 人間殺しという言葉にヤオトは顔をゆがめる。今ここで人間と魔族がケンカをしながらも一緒に生活しているのにこの宿以外ではみんなお互いを忌み嫌っている。『真相』を知っているだけにいっそう悩む。

 そんなヤオトの様子に気づいたのかヴェシュナも黙り込みあごを胸に引き寄せた。


「ま、ゆっくりでもいいから覚えろよ」

「わかってるって。それより早くこの痛みなんとかして」

「ああ」


 ヤオトはヴェシュナの腹部にある異物、エルシニア菌を送り込んだ魔力で分解し、炎症を起こしている患部を治療した。すると彼女は立ち上がり不思議そうに腹部をなでた。


「痛くなくなってる。あんたの魔法便利ね。さすが最強の魔法使いね」

「最強かどうかは知らねーよ」

「そう?何だっけ、えーとアトモスを操る魔法だっけ?」

「いや、原子や分子レベルの大きさの物質を操る魔法だ。一種のテレキネシスだ」


 ヴェシュナの問いにヤオトはめんどくさそうに答えた。なぜならこれもよくある出来事だからだ。ちなみに、アトモスとはロシア語あたりの原子という意味。英語ではアトムという。日本の古いアニメロボットの名前でもある。

 宿の皆からはよくヤオトを最強の魔法使いと呼んだりするが原子の合成、分解もちろん再構成もできるただそれだけの魔法。また、原子単体で浮遊させることも可能。それ以外に他の魔法は使えないため最強かどうかはヤオト本人もわからない。どこから最強という呼び名が出てきたのかはわからないが、最初に言い出したのはヴェシュナということはわかっている。


「てれきねしす?サイコキネシスじゃないの?」

「それも覚えてないのか……まぁいい。サイコキネシスは自分の意志でエネルギーを発生させて動かすのに対して、テレキネシスは意志でエネルギーを送り込みそれで動かす。つまり、魔力を送って動かす魔法はテレキネシスの方が合ってるんだよ」

「へ?」

「簡単に言うと見えない手で物を動かすのがサイコキネシス。リモコンの電波でテレビをつけるのがテレキネシスだ」

「ふぅーん」


 ヴェシュナに今後一切同じ問いをさせないようにわかりやすく教えたヤオトだが、当の本人はまったくもって説明を聞いていないためヤオトはあきれた。

 ヤオトはため息をつき学校へと向かった。


「レッツファイトっ!」

「あぁ」


 ヴェシュナはヤオトを励まし、ヤオトが返事をしたときにはもういなかった。彼女は人間ではないためもちろん異常なまでの身体能力をもっているのでこの島から戦場まで数分で行けるという。もちろん運動系が苦手な魔族も存在している。


 ヤオトが学校に着くと生徒会室に向かった。授業中の校舎は廊下に誰もいなく、歩けば教室の窓から注目を浴びるなど精神的ダメージが加えられ、さらに生徒指導の先生に見つかれば注意をされるため遅刻はしない方がいいと痛感する。

 しかし、ヤオトは例外。学校の誰もが宿の事情を知っているため先生からの注意などは受けない。ただ、受けるとすれば女子からのアイラブユーな視線ぐらいだ。ヤオトは新聞部が勝手に生徒に美男美女の投票アンケートをとった際に一位を獲得したことがあるためだ。ちなみに美女一位はヤオトの幼馴染のキーナ・リドゥアラと生徒会の書記イォフィ・コートが同票で二人となっている。

 ヤオトが生徒会へ向かう際通った廊下では予想通り女子からアイラブユーな視線を受け、やりづらいと肩をもんだ。


 生徒会室に着くとエフとその妹のミーアの争う声が外まで響いていた。


「何やってんだ兄妹」


 ヤオトが扉を勝手に開けると左目用の片眼鏡別名モノクルをかけた白髪の少年がクリーム色の髪の左側を後頭部の髪と一緒にサイドポニーした少女が言い争っていた。


「どうした弟よ」

「誰が弟だ!」


 エフが兄妹に反応してたのかボケでヤオトに返し、それを即答でヤオトが返す。


「ただの兄妹ケンカだ。早速本題に入るとしよう」


 ヤオトがあきれているとエフが切り出し椅子に座った。それと同時に窓からの日差しを利用してモノクルを器用に光らせ、まだ朝方というのにカラスの騒がしい鳴き声が響く。一瞬驚くヤオトだが音の反響の仕方に違和感を持ち、あたりを見渡してそれがミーアのタッチ式携帯電話から聞こえてくることがわかった。

 エフはたまに奇妙なことをする傾向が最近増えてきている。誰の影響かをすぐにヤオトは察した。


「っ!で、イォフィは来ているのか?」

「ああ、もしいなかったらミーアが大げさにうわさを立てている」

「まぁ、そうだな。今どこにいる?」

「奥で資料の整理をしている。……しかし、なぜ生徒会に三次関数を使う仕事があるのか疑問だ」


 エフは奥の扉を指しながら居場所を伝え、なぜか話をそらした。

 生徒会はこのように一般授業より難しい仕事をしているため授業に出なくても問題はないことになっている。


「……とにかく、今のところ何も変わったことはないんだな」

「ああ、とりあえずイォフィの身体を診てくれ」


 エフはイォフィにこちらに来るように呼びかけながら妹とのケンカで荒れた資料を整理した。


「いや、何も感じねぇし今は問題ないだろ」

「は?」


 エフが間の抜けた声を発し、それを隣で見ていたミーアがツボにはまったのか大笑いしている。


「さっき言ったろ、今のところ何も変わったことはないって」

「あ、ああ。……しかし、魔族や魔法についてはさっぱりわからんな」


 そう言いながらエフは両手をパッと上に挙げすぐに下ろした。

 ヤオトはエフの言った言葉を思い出し、ふと疑問に思い、それは魔族という言葉だと確認した。


「あーそうか……お前は知らなかったか」


 エフはヤオトの不思議そうにしているのを察し、両手を机に置いて立ち上がり、悲しそうな面持ちで語り始めた。


「俺はちょっと前に実家の中国に帰ったことがあってな、ほらあれだ中華思想なんて考えがある国だから戦争に力いれてたんだ。そのおかげで中国は戦争地帯だった。

 俺が実家に着いたときに魔族が攻めてきてなそりゃぁすごかったさ。爆撃やそれで崩れる建造物の騒音。それに子供の耳をふさぎたくなるような悲鳴。

――俺たちは何とか逃げれたが両親は魔族に殺され、ミーアなんて気絶してさ、とにかく大変だった。そのときに左目をやられてなこのさまさ。

 まぁ、話をまとめると俺は逃げ延びた先で魔族について教わったから、学校ここの連中よりは詳しく知ってるだけだ」

「そう、だったのか……」


 ヤオトはエフの壮絶な悲劇を聞いて自分の足元を見つめた、この平和な島と戦争中のそとの国との違いを思い知った。

 基本的に人間は魔族に対して憎しみを抱いているが、この島の人は恐れを抱いている。この認識の違いからだろうか、生徒たちが幽霊など非現実的なものを想像したのは。この島にもそれを魔族のしわざだと言う者もいるが魔族の存在を認めたくない気持ちからも『それ以外の何か』である幽霊に当てはめたのだろうか。

 ヤオトは、『認識の違いだけでも世の中の現実はいともたやすく、雲のように変わってしまう。』と昔誰かが言ったこの言葉を思い出していた。

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