2話~やはり、我が家のカレーは旨い。~
今日の夜ご飯はカレーだ。
我が家には、夜ご飯はみんなそれぞれ好きな時に自由に食べて良いという謎のルールがある。
だから、俺はいつも8時くらいに1人でご飯を食べている。
他は、7時くらいに母、父、妹の3人で食べている。=俺以外で食べているということだ。
家族の行事においては、俺以外の3人で行う事が多い。
入学式は家族誰も来ない。ゴールデンウィークは俺以外で旅行。夏休みは俺以外でキャンプ。クリスマスは俺以外でパーティー。
まあ、外出は嫌いだからそこはいいんだけど。息子の入学式くらいは来てほしいよ......
いやまてよ、今回の入学式に家族が来てたら家族まで恥ずかしい目に遭わせてしまう所だったのか。
俺、親孝行してるっ!
まいっか。
どっちにしろ俺は1人が好きだから大丈夫だ。
うん。大丈夫、だから、ほ、ほんとに......
はぁ。
閑話休題。
いつもならば俺は8時くらいまで自分の部屋で過ごすのだが、今日はいろいろと疲れた。
学校といい、放課後といい。
学校では初日から笑われ者にされる。ぼっちは嫌な意味で注目を浴びることがなによりも嫌いなのだ。
そして、放課後はなんかよくわかんない目に合う。人間、難事に合うと疲弊してしまう者なのだ。
特にぼっちなんかはな。情報源としては俺だ。
今日は7時に夜ご飯食べて、とっとと風呂入って早く寝る事にしよう。
ポケットに入っているスマホを取りだし時間を確認する。
まだ6時か。あと1時間は自分の部屋で本読むか。
俺の部屋は2階にある。
階段を上り廊下を歩くと部屋がある。
ここの家に住み始めたのは丁度俺が生まれた年だ。
俺が生まれるのに伴って家を買ったのだ。
この話を聞くと、俺も小さい頃は可愛がられてたのかなぁと思う。
なんでこんな間柄になっちゃったんだろうな。やっぱ幼稚園の時のあの出来事が原因、か......
いや、関係ないか。もうその事は思い出さない事にしたんだ。
ドアを開いて部屋の電気をつける。
心なしか、部屋の電球がいつもより暗く見える。
なにその比喩表現、そんなのあり得るわけないじゃんラノベの主人公じゃねーんだから。
この電球も寿命なのかな。
15年間も使ったらこうなるわな。
なんの本読むかなぁ
棚においてある本を少し背伸びして取る。
中学生の時に買ったライトノベルだ。
この本は有名で、数年前に小説サイトで金賞をとったものだ。
本、か……ふとさっきの事を思い出す。
未だに手に残る、如月真夏の手の暖かさ。
如月の笑顔が頭から離れない。彼女の笑顔はとても綺麗だった。
彼女はさっき、俺が見えなくなるまで俺に手を振ってきていた。
俺が見えなくなったあと、彼女は笑顔のままだっただろうか。きっと否であろう。
笑顔を守りたい。ということではない。御為倒しでしか愛を表せないようじゃ本物の愛ではないのだ。
なんで俺が愛に語ってるんだろうか。
俺はベットの上に座り少し悩む。
俺は彼女の事が好きなのだろうか。俺は彼女に迷惑をかけたのだろうか。
そんな事を考えていると、不意に視界が真っ暗になった。顔に小さくて、少し暖かい手がへばりついている。妹の愛叶の手だ。
いつからいたのだろうか、まったく気がつかなかった。
「お兄ちゃんなーにしてるのー?」
俺の後ろから甲高い声が聞こえてくる。
「本読んでたんだよ。」
「本開いてなかったじゃん。表紙眺めてただけでしょ!」
いや知ってるなら聞くなよ。ってか割りと最初から部屋にいたな?もしや、部屋に元々いたのか......?
「なんでもいいだろ。ってか、手放せよ。なんで部屋にいんだよ。」
ようやく闇から解き放たれた。
目の前に顔を染めた夢叶がいた。
「べ、別に用はないし、なんか部屋綺麗かなって思ったから。部屋にいただけなの......したら、お兄ちゃんが来て。」
あ、先にいたんだ。
「ああ、てっきり俺の後に来たもんだと思ってた。」
すると顔を染めた夢叶がわわっと恥ずかしそうにじたばたする。
「わぁ!知らなかったの!?余計な事言った恥ずかしい......恥ずかしい......」
ぐむむ。可愛い。
なんか変なヲタクみたいな声が出てしまった。
ん?シスコン?聞き間違えか。
「もういいだろ。戻ってくれ。」
俺が言うものの夢叶まだいたままだ。
気を取り直したのか、夢叶はわざとらしく咳き込み、こちらを見てくる。
「で、お兄ちゃんはなんで表紙眺めてたのですかぁ?」
眺めてない。ボーッとしてた。だって悩みがあるんだもん。
だなんて、そんなこと言える訳なかった。
だって愛しい愛叶に兄の心配なんてさせたくないからな。そんな他人事で可愛い笑顔を崩したくない。
あ、俺がシスコンだっていうのバレちゃった。テヘヘ☆
ん?前からバレてたって?何言ってんのあんた。
「表紙のキャラが可愛かったからだよ。」
これは嘘だ。確かに、このキャラは有名だし、可愛いと評判だ。しかも、実際俺も可愛いと思ったからこの本を買ったくらいだ。
でも、なぜか今見てもなんとも思わない。思える余裕がないのかも知れない。
「彼女が出来ないからってとうとう2次元に逃げたか......これだからお兄ちゃんは......」
これだからお兄ちゃんはなんだよ。途中で止めるな途中で。
「まあなんでもいいだろ。俺はとにかく、1人で本読みたいんだよ。」
「1人で」をすごーく強調して言った。そして勿論1人で本を読みたい訳ではなく、1人で考え事をさせてほしいのだ。嘘をついた理由はさっきと同じだ。
すると、愛叶は俺の顔を覗き込んで来た。
「ねえ、なんか今日のお兄ちゃんいつもより素っ気ないけど、なんかあったの?」
おい、いつも素っ気ないのかよ。まあ、自覚してるからいいんだけど。
悟られたか。流石我が妹だ。毎日俺の顔を見てきただけある。
「まーな。でも、1人で考えさせてくれ。俺の可愛い妹を巻き込む訳にはいかないからな。」
「またまたーそんな事言ってー。照れるじゃないか!」
お前、あざといよ。何?お前もしかしてタッチの浅倉南かなんかですか?……お前が妹じゃなかったら惚れてるところだったぞ……
「勝手に照れとけよ。」
なんかもう面倒くさいので適当に返すと、夢叶は頬を膨らませて何か面白くないとか、つまらないとかぶつぶつ言っている。
えっと。もうそろそろ出てってくれねーかな?
「今はそれどころじゃないんだ。」
少し口調が強かったか?と後悔したがもう遅かった。夢叶の表情が少し暗くなった。夢叶はまだ少し笑っている。でも、その笑顔は真実ではなかった。
だが、夢叶も中学生だ。俺の言いたい事をわかってくれたのか、
「あ、ごめんね。1人でいたい時だってあるよね。」
と言ってきた。まあ、俺はいつも1人でいたいと思っているんだけどな。
「でもなんかあったら夢叶、いつでも相談のるからね。」
優しい声で、そしてさっきよりも笑顔で。
それの笑顔はこの部屋の電球よりも少しだけ明るく見えた。
最後にバイバイ、と、夢叶が部屋から出ていく。
バタンと扉を閉まる音が部屋中に響く。
さっきまで騒がしかったこの部屋だが、一瞬で静寂の海に包まれてしまった。
この静寂が、俺に考える猶予を与えているようだった。
俺が何に悩んでいたかを整理する。俺は如月の事が少し気になっている。
俺は如月の笑顔を守りたいと思った。
だが、俺は中学生の時に人に迷惑をかけないようにするために人とそういう関係は作らないと決めていたのだ。
だから、如月に迷惑をかけているんじゃないかと考えている訳だ。それが悩みだった。
でも今は違う。俺は何馬鹿な事を悩んでたんだ。
答えは簡単だったのに。中学生の時に決めたじゃないか。
解決方法がでた。いや、元々出ていたのだ。
好きになった相手に迷惑をかけないようにするには、
俺を取り巻く関係を、すべて取り払えば良い。
§
寝てしまったのだろうか。
スマホで時間を確認すると、2:00とスマホの画面が煌々と表示する。
寝たのが18時半となると、7時間半ほど寝たという計算になる。
7時間半も寝たせいか、すっかり疲れはとれている。こんな中途半端に寝たら明日の学校は授業中地獄になっちゃうじゃねーかよ。
まいっか、その時はその時に考えよう。
他の家族はもう全員寝ているようだ。暗い廊下と階段を皆を起こさないように静かに通る。
1階に降りるとリビングだけが煌々と光っている。
テーブルの上には妹の置き手紙とラップに包まれているカレーがあった。
「__お兄ちゃん、悩んでる事の答えは見つかりましたか?
お兄ちゃんがあまりにも熟睡して体を揺らしても起きないので夢叶達は先に寝ることにしました。
机の上にカレー置いといたのでレンジで温めてからたべてね!
頑張れ!お兄ちゃん!
夢叶より。」
ツッコミどころの多い手紙だったが、可愛い妹が俺の事を気にかけてくれてると言うことなのでスルーしておく。
カレーをレンジでチンって、もっと違う保存方法なかったか?
他の方法があったとしても今解決することじゃないので手紙の通りカレーをレンジで温める事にした。
温めている間テレビをつけて録画してあるアニメを再生する準備をした。
ご飯を食べながらアニメを見る。これ以上に最強の物はない。THEぼっち。
はぁ......悲しい。
軽やかなメロディがレンジから聞こえる。
最近はこういう家電多いよな。
レンジがチン!ってなるとかどんだけ昔だよとか思ったわ。
今日1日長い日だったな。
ん?今日じゃないか。今日はまだ2時間しか過ごしてないか。
いや、細かい。色んな事にマジレスするとか俺は政治家かって。
カレーをスプーンですくう。
スプーンを口まで運ぶ。
甘口のカレーが身体中に染み渡る。
やはり、我が家のカレーは旨いな。我が家のカレーにはジャガイモ、人参、玉葱、肉が入っている。
極々ふつうの、一般的な家庭のカレーだ。
家族全員が甘党なので、カレーは甘口が主流である。
関係ないけど、辛党って辛い食べ物が好きって意味じゃないんだってよ。
ビールの辛いのが好きだって事なんだってよ。だから俺、辛党!とか言ってる子供達は未成年で飲酒してるって事なんだな。
だからマジレスすんなって。俺は丸尾くんかって。
ずばり、私は最強でしょう!ん?あいつそんな中二じみたこと言わねえだろ。
そんなどうでも良いことを考えていると、テレビではアニメの主人公とヒロインが手を繋いでいるのが目に写った。
こんな人生上手くいくわけないのに。なのになぜかアニメは見れるんだよな。
うまいのはカレーだけだ。
ちょっとうまいこと言ったかなと思っていたが。なんかどうでもよくなった。あ?また狙ったかって?なんのことですか?ぼくしーらない。
カレーを平らげると、俺はソファで横になる。
学校の事を思い出す。
友達、彼女、そんなもんいらない。別に1人だって、青春は過ごせる。
そして、俺はまた解決に時間がかかりそうな疑問を浮かべる。
......青春の定義って一体なんだろう。




