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帰らずの森最深部に入って大凡一時間が経過し、ワッフルやミラに少しばかり疲労感が見え始めた。
一度休憩を挟む提案をしようとしたその時、ミチルが口を開いた。
『間も無く拙者の御屋敷に到着するでござるよ』
そしてそのすぐ後、突如として土地の拓けた場所に出た。
そこにあったのは正真正銘の屋敷であり、都市で貴族が住んでいるものと遜色のない豪華な建築物だった。
ミチルを疑っているわけではないが、屋敷ってのは正直言って半信半疑だった。
小さな洞窟みたいな所に到着した瞬間「これが拙者の御屋敷でござるよ!」とか言い出すと思っていた。だが違った。だからこそ疑問が残る。
『うわっ!! これマジヤバじゃない!? デカ過ぎるっしょ!? 何これ!?』
『こ、これ、この大きさ噂に聞くドラゴンじゃないよね?』
ミラもワッフルも動揺した様子。
そう。モンスターにとっての御屋敷なら寧ろ洞窟や木の上にある隠れ家的なものこそが正解であり、人間の作る建造物を指し示す事は異常なのだ。
本来、モンスターが都市に攻め入る事はない。何故ならそこは別の種族である人間のテリトリーであり、モンスターは本能的にそれを理解している。だから態々そこへ行こうとはしないのだ。
つまり、ワッフルやミラは人間の作る建造物を見た事がない。だからこの屋敷を近くで見て、驚きが隠せないのだ。
では、この人間の作る建造物に住まうミチルは何者なのか。元々人間なのでミチルの思い描く屋敷がこのタイプなのは理解出来る。だがウイルスバットの身体では扉の開け閉め一つ出来ない。他に協力者がいたとしても、言葉でこの屋敷の形状を説明されても到底理解出来ない。つまり、どうやったとしてもこの屋敷を建造する事は不可能なのだ。
カタン。
触れてもいないのに突然屋敷の扉が開いた。
「あー……」
中から出て来たのは一人の人間。ボロボロのスーツを着た初老の男だ。
男は目を見開いたまま瞬き一つせず立ち尽くしている。瞳に光は無く、肌は全体的に青白い。
ワッフルとミラは咄嗟に戦闘体制に入る。
それをミチルは必死に止めに入った。
『ストップ! ストップ!! こやつは拙者の家来でござる』
『『家来??』』
「あー……」
俺はこの状態の人間に覚えがあった。こいつはゾンビ。人間の死体が変異したモンスターだ。
ゾンビに生前の記憶や人格はない。意思疎通も取れなければ、食事もしない。だが何故か本能で人間を襲い、喰らおうとする習性がある。
死んだ人間の殆どはゾンビにならない。モンスターの生息域で命を落とした人間がごく稀にゾンビとなって発見される事がある。何故人間がゾンビになる事があるのか。それは未だに不明のままだ。
『ミチル。こいつを家来と言ったな? これはお前がやったのか?』
『そうでござる。この男の名は……えーっと何でござったかなぁ。この屋敷の元の主でござる』
ここに来て元人間のゾンビが出て来るのか……。しかもこの屋敷の元主って事は、こんな場所に元々人間が暮らしていた事になる。謎は深まるばかりだ。
『それはお前が死体をゾンビに出来るという認識で良いのか?』
『そうでござるよ。でもまぁまずは奥の部屋へ』
「あー……」「あー」「あー」「あー……」
「あー」「あー」「あー……」「あー……」
案内され廊下を進む。辺りにはスーツやメイド服姿のゾンビ達。何も衣服はかなり劣化している。
恐らくこいつらは元々この屋敷に仕えていた者達なのだろう。
これも全てミチルがやったとは到底信じられない。これがウイルスバット一体の仕業だと言うのか……。
『着きましたぞ』
「あー……」
部屋の扉がゆっくりと開く。
そこには大きなテーブルとそれを取り囲むソファが複数あり、そのうちの一つに腰掛け寛ぐ少女の姿があった。
サラリとした白銀の長髪。青白い肌。左右の瞳はそれぞれ色が違い、鮮血のように鮮やかな赤と宝石のように透き通った青をしている。漆黒のドレスを纏ったその姿はまるで何処かのお姫様。
少女は目が合うなり立ち上がり、駆け寄って来て俺の手を握る。
「グレイル氏、ワッフル嬢、ミラ嬢、お会いしたかったでござるよ!」
理解が追い付かない。モンスターの屋敷にいる人間の女。何故か俺たちの名前を知っている。そしてミチルと同じで語尾に「ござる」という変な言葉を付ける変な喋り方。
『お、お前は誰だ? 何者なんだ?』
『拙者でござるか? …………拙者はミチルでござる』




