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生前、俺は人間で冒険者をしていた。
大鎌の一振りで複数のモンスターを同時に一刀両断する冒険者でそれなりに立派な二つ名も持っていた。『魔獣殺し』……魔獣殺しのグレイルとは俺のことだ。
ある日、とある依頼を受けた俺は神獣グリフォンを討伐する為、遥か北の山『ノースィア』へと単身赴いた。これでも俺は最高ランクであるS級に認定された数少ない冒険者だ。当然、グリフォンなんかに引けは取らない。勿論討伐は成功した。寧ろ余裕だった。……だが俺はそこで命を落とした。
死後の世界? そんなの信じていない。死んだら無に帰るだけだ。そう思っていた時期が俺にもありました。だが実際は違った。
気が付くと俺は……スライムになっていた。
まさかのスライム。そう、大体何処にでもいるあの最弱モンスター、スライムだ。そして俺は……スライムを死ぬほど憎んでいる。そんな俺がスライムなってしまったのだから笑えない。
……あぁ、死にたい。いや、もう一度死んでるからわかる。死ぬのってめちゃくちゃ痛くて苦しい。あんなのは二度とごめんだ。……あぁ、気持ちでは死にたいけど、やっぱり死にたくねぇなぁ。
さて、これからどうしよう。気が付いた時にはもうスライムになってただ佇んでいた。今生まれたのか。それとも今までスライムとしてブラブラ……いや、プルプルヌルヌル過ごしていて、今この瞬間に前世の記憶を思い出しただけのか。全くわからない。だけど不思議と自分がスライムなのは理解しているんだよなぁ。
……まぁ、どうでもいいか。今までよりこれからを気にしなくては。
辺りを見渡す。草木が生い茂った深い深い森林。時折特徴的な植物が視界に入ってくる。背丈の高い茎の先に幾重にも折り重なった細長い真紅の花弁を持つ植物。美しくも何処か禍々しいこの植物の名は……まぁ、知らんけどこれが咲いているのはあそこしかない。
ここは王都レガリアの南に位置する【帰らずの森】で間違いない。
名前こそ物騒だが最深部まで行かなければ道も複雑ではないし、弱いモンスターしか現れない為、普通に帰って来れる。そんな事もあり、新人冒険者の肩慣らしの場として有名だ。
主に生息しているモンスターはビッグキャタピラー、ホーンラビット、ウイルスバット……そしてスライム。俺もスライム。……何だか嫌な予感しかしない。
「プ、プゥプウー」
『た、助けてー』
聞き覚えのある鳴き声が聞こえた。これはホーンラビットの鳴き声だ。
でも今、声がダブって聞こえたような……。
声がする方を向く。すると視線の先にあった草むらが小さく揺れた。
「プゥゥ……プゥゥ、プゥゥウ」
『誰か……誰か、助けて』
茂みから姿を現したのは身体全体に傷を負い、フラフラの状態のホーンラビットだった。
『大丈夫か!! 今助け……ん?』
あれ? 今俺、何でホーンラビットなんか助けようと……てか今、ホーンラビットが喋った!?
◉
いや、それより今は彼女を助けなきゃ。
可哀想に……角が根本から折れてそこから大量に出血している。他の外傷は浅そうだがこのままでは額からの出血多量で死んでしまう。
『今助けるから茂みの中に隠れて少しだけ待っててくれ』
『わ、わかった……』
ホーンラビットが隠れた場所を確認し、そのまま俺は深部に向かって走った。
この森には薬草が自生している。特に深部の手前に穴場があり、そこでは大量に手に入る。
「おっ!! 見ろよ!! こんなところにスライムがいるぞ」
声が聞こえた。
声のする方を向くとそこには四人の人間がいて、こちらを見下ろしながら怪しい笑みを浮かべていた。身に付けているのはピカピカの鎧と安価で買える鋼の剣。所謂初心者装備。恐らく駆け出し冒険者なのだろう。
丁度よかった。冒険者なら薬草を常備しているはず。助けを……。
◉
ダ、ダメだ。逃げないと殺される。
咄嗟に近くの茂みに飛び込み、草木に身体を嬲られながら道なき道を進む。
「お、おい!? あのスライム逃げやがったぞ!?」
「チッ……ホーンラビットにも逃げられたし、今日はついてねぇぜ」
遠くでそう聞こえた瞬間、動きを止めて息を殺し、そっと身を潜める。追ってくる様子はない。
……そうか。あいつらからしたらそこらにいくらでもいるモンスターの一体に過ぎない。態々追いかけるメリットがないのか。助かった。




