第三十話 殿下との食事
わたしは、宿屋の一階にあるレストランの個室に案内された。
ここは、レストランと言うよりは、居酒屋と言った方がいいかもしれないところだ。
レストランは、にぎわっていて、ここにもお客さんたちの楽しそうな声が聞こえてくる。
とはいうものの、ここは個室なので、他のお客さんたちのことが気にせず話をすることができそうだ。
殿下は座っていたが、立ち上がった。
そして、
「さあ、こちらへ」
と言って、わたしを席に案内する。
わたしをここまで案内してくれた側近は、
「それでは殿下、わたしたちは、この個室の近くで食事をしています」
と言った。
「案内をしてくれてありがとうございます」
「殿下に危害を加えるものがあればすぐに駆けつけますので、その時はいつでもお呼びください」
今日の殿下の姿を見ていると、もしそういう人物がいたとしても、すぐに殿下に倒されてしまうと思う。
「ありがとうございます」
「それでは失礼します」
そう言うと、側近は頭を下げ、個室を去って行った。
料理は、ここのコース料理のようで、既に前菜と水が運ばれていた。
「さあ、席に座ってください」
「ありがとうございます」
殿下にうながされ、わたしは席に座った。
殿下も席に座る。
殿下は水を少し飲んだ後、
「まず自己紹介をしなければならないですね」
と言った。
わたしはまだ殿下に自分の名前も言っていなかった。
好意を持ってきている相手なのに……。
恥ずかしい。
「それでは、まずわたしから。わたしはディックスヴィアン。先程聞いてはいると思いますが、このフォレストラフォン王国の王太子です。あなたのお名前を教えていただけるとありがたいです」
自分の名前……。なんか言うだけでも緊張してくる。
「わ、わたしの名前はフローラリンデと申します」
自分の名前を言うだけで疲れてしまう。
「フローラリンデさん、いい名前だ」
微笑む殿下。
その笑顔を眺めるだけでも胸のドキドキが大きくなってくる。
しかも名前を褒めてもらった。
うれしい。
「失礼します」
料理が運ばれてきた。
豪華なものではないが、十分おいしそうだ。
「いただきます」
とお互いに言った後、殿下は、
「遠慮なく食べてください。もちろん費用はこちら持ちです」
「食事までご馳走していただいて……。これほどありがたいことはありません」
わたしは頭を下げる。
「気にしないでいい。あなたは、今日、大変な思いをしていたのだから。それを忘れる意味でもいっぱい食べてください」
「ありがとうございます」
「それではいただくことにしましょう」
殿下が食べ始めた後、わたしも食べ始めた。
見た目の通り、なかなかの味だ。
しかも、好意を持っている人とこうして食べることができる。
最近は、食事をしていても、継母や異母姉、そして異母妹と一緒だったので、楽しくないどころか、嫌な気持ちになっていた。
今日は全然違う。
わたしは、久しぶりに幸せな気持ちになってきた。
食事がひと段落し、お互い紅茶を飲んでいると、殿下が真剣な表情で話し始めた。
「もうすぐわたしは、父の国王陛下により権限の多くを譲り受けます。責任が重くなりますので、それにふさわしい人物にならなくてはいけませんし、この王国のことをもっと知らなくてはなりません。それで、今までこの王国を回っていました。王太子としてではなく、旅行者として。だから、御供も側近の二人だけです」
「どうして旅行者として回っていたのでしょうか?」
「目的は二つあります」
「二つですか?」
「そうです。まず一つ目は、この王国の生の情報をつかむことです。わたしも王太子としての仕事がありますから、それほど長い時間は無理でした。それでも王宮にずっといるよりはいいだろうと思いました。王宮にいたままだと、生の情報はつかめないからです」
「それだけでも尊敬いたします。普通は、思いついたとしても実行できないと思います」
わたしがそう言うと、殿下は少し恥ずかしそうにした。
「面白い」
「続きが気になる。続きを読みたい」
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