第二十六話 殿下の好意
夕暮れ時。
だんだん夜が近づいてきていた。
「大丈夫ですか? ケガはありませんか?」
心配そうにわたしのもとにやってくる殿下。
「大丈夫です。殿下のおかげで助かりました。ありがとうございます」
頭を下げるわたし。
わたし好みの方に話しかけられて、胸のドキドキが強くなってくる。
「これから村までまだかなりの距離があります。このまま歩いたのでは夜になってしまって危険です。今の様な危険に会う可能性もあります。それにかなり疲れているように思います。今からそこまで歩くのは難しいと思います。わたしはあなたのことを心配しています」
殿下がそう言ったのに対し、わたしは、
「ご心配ありがとうございます。でもなんとか歩いてたどりつこうと思っています」
と殿下に言った。
しかし、殿下の言う通り、疲れていて足は痛いし体も重い。
そして、体だけでなく、生命の危機にあって、ずっと緊張したままだったので、心の疲れの方も相当なものだ。
わたしが言った後、少し沈黙の時間が訪れた。
殿下は考えているようだ。
それだけわたしのことを心配してくれているのだろう。
ありがたいことだ。
やがて、
「もしよろしければ、わたしがこの馬に乗せていきたいと思います。間もなく夜になるので、少し急がねばならず、乗り心地はいいとはいえませんが、危険に会う可能性を少なくする為と、あなたの体を思うとその方がいいと思います」
と殿下は少し恥ずかしそうに言った。
殿下の馬に乗る……。
それは、わたしが馬をあやつる殿下の体を後ろから抱きしめることを意味する。
もちろん、そうしなければ、わたしは馬に乗ったままの状態でいることはできない。
しかし……。
わたしは父親以外の異性に抱きしめられたことはなく、抱きしめたこともない。
ルアンソワ様にも、抱きしめられたことはなく、抱きしめたこともない。
それが、いきなり好きなタイプの男性を後ろから抱きしめることになる。
しかも、王太子殿下という、手の届かない存在だった人だ。
わたしは、心が一気に沸き立ってくる。
でも、わたしごときがいいのだろうか、と思う。
つり合いがとれないような気がする。
断るべきだろうか?
しかし、現実的に、これから村まで歩くのはかなり難しい。
多分、歩けたとしても到着は深夜近くになってしまうだろう。
殿下の言う通り、また危険な目に合う可能性もある。
「わたしは、あなたをこのまま一人にしておくことはできません。わたしと一緒に行った方がいいと思います」
殿下も恥ずかしそうだ。顔を少し赤くしている。
しかし、わたしを心配して言ってくれている。
その好意は受け取るべきだろう。
「ありがとうございます。それでは、ご迷惑だとは思いますが、お願いいたします」
「では行きましょう」
殿下はホッとした様子。
「こちらに」
殿下はわたしに手を差し出し、わたしはその手を握る。
ルアンソワ様は、婚約者だったわたしの手をほとんど握ろうとしなかった。
異性の手を握った経験の少ないわたし。
それだけでも心がますます沸き立ってくる。
殿下のやさしさがわたしに伝わってくるようだ。
「気をつけてください」
「ありがとうございます」
殿下が馬に乗った後、わたしも馬に乗る。
馬には自分で結構乗っているが、こうして後ろに乗せてもらう経験はなかった。
「じ、準備をしてください」
殿下の声は、心なしか震えているような気がする。
わたしは恥ずかしい気持ちになったが、そう言っている場合ではない。
「それでは失礼します」
わたしはそう言うと、後ろから殿下を抱きしめる態勢になった。
異性との触れ合い。
それだけでもうれしい気持ちになる。
もちろんそれは、愛の一つの形としてではない。
わたしたちは出会ったばかりで、まだお互いのことはほとんど知らない。
でも殿下とこうして触れ合えるということは、縁があるということだと思う。
わたしの心は、沸騰寸前になろうとしていた。
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