表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

1 出会い

一ヶ月は毎日投稿を必ず続けます。20時投稿です。

 暗くて、寒い。目の前には男の人の背中。どこにつれてかれるのかわからない。

 雪の降る、地面の凍った路地裏を歩く。寒さで凍え、足がもたつく。


「おい小僧、死にたくなかったらとっとと着いてこい。」


 大人に注意され、ビクリと震える。慌てて足を早める。理由のわからないまま、ただ歩く。

 死にたいのかも、生きたいのかもわからず。


 男の人は白い息を吐きながら口を開く。


「お前も災難だな。家が燃えちまったなんて。」


 そうだ、俺の家は燃えた。燃えていた。先程の出来事がフラッシュバックする。



*****


「ばいばーい!」

「またなー!」


 冬の公園で友達と遊び、帰路に着く。今日も転んじゃったけど、今日は泣かなかった。それが俺にとってはとても誇らしい。


 スキップ気味に街道を歩く。なんだか、焦げ臭い匂いが鼻をくすぐる。


「なんでっ!?」


 俺の家の方向で黒煙が上がっていた。 急いで家に向かって走る。

 燃えてるのは俺の家じゃないよな…!?きっと近くの家が燃えているだけだ!

 そう自分に言い聞かせながら走った。ひたすらに走った。


「うわっぷ!」

「おっと。」


 正面から来る黒いローブ姿の人とぶつかってしまった。だが、相手にしている暇はない。


「ごめんなさい!急いでるんです!」

「そうかい、ぶつかってごめんね。」


 また俺は走り出す。短い足を必死で前に突き出して走る。


 ずっと、ずっと言い聞かせながら。


「嘘だろ…!」


 だが、その望みを嘲笑うかのように、現実は悲惨だった。俺が家についた頃には、周りに人だかりができていた。火の手は止まっていたが、家は全焼していた。

 黒い家を背景に、静かに灰が混じった雪が降り始める。


「父さん、母さん、、エリシア、、!」

「…君!危ないよ!」


 家に急いで入り、家族を探す。後ろから呼びかける大人の声を振り切って。

 倒れた柱を避けながら、すべての部屋を確認する。キッチンにも、リビングにも居ない。


 寝室の扉を開く。


「ッ…!!」


 家族は逃げ遅れ、全員灰になってしまっていた。父さんも、母さんも、妹も。

 全員、黒焦げになっていた。

 妹のエリシアは病弱で、今日は一層体調が悪かった。きっと、父さんたちが助けようとして、逃げられなくなったんだ。


 ぽっかりと、心に穴が空いたような感覚に襲われる。頭の中が真っ白になった。


「わぁぁぁあああああ…!!!!」


 俺は泣き叫んだ。その声はどこまで届いたのかわからない。


 もし、天に届いたのならば、神様、俺の家族を生き返らせてくれ……!

 そう、願い続けた。だが、天はその願いを叶い届けてくれはしなかった。


 …………もう、生きる意味なんてあるのかな。俺は、昔生きる理由を1度だけ考えた。

 …家族が悲しむって思って、そこで終わっていた。


 悲しみに一番寄り添ってくれた人はもう居ない。…俺が死んでも悲しむ人も、もう居ない。


 そこら辺にある木片に手を出す。喉元に突き立てると、チクッとした痛みがある。

 ……やっぱり、死ぬのは怖い。

 死にたい。でも死にたくない。なんでなんだろう。


 カラン、と音を立てて木片が手から離れる。


 ……もう、何も考えたくなかった。家にはもう他に、誰もいない。

 どこへ行っても、父さんも母さんもエリシアもいない。

 それなのに、足だけは勝手に動いていた。


 俺はふらふらと、道の方に行く。人だかりの視線が一気に俺を見る。


 ざわめきが起きる。

 俺を心配するような声が聞こえる。でも、視界がぼやけて顔がわからない。


 人だかりの中から、1人だけこっちにやってきた。


「君、ちょっとこっちに来て。」


 少し綺羅びやかな服装を着た知らない男性が声をかけてくる。


「ウェッグ、ヒック…ヒック、」


 声を出そうとしても、うめき声しか出ない。


「命令といえど、少々やらせすぎたか…」ボソッ


 少し落ち着くまで男性はずっと待った。


「…ヒック――――おじさん……誰?」

「おじっ…!、、、君のお父さんの知り合いさ…」


 そう言って手を差し伸べてきた。俺は、少し睨みつける。


「こっちに来れば、君の生活を保証しよう。」


 そこで、走ってきた男性が割り込んでくる。


「ちょっとまった。俺がこの小僧を引き取る。」


 また、知らない男の人だ。…もう、俺にはどうすればいいかわからない。


「…お前は誰だ?」

「それはこっちのセリフだ。…お前、誰の使いだ?」

「さぁね、答える義理はないよ。」


 …何の話をしているの?俺には、もう、生きる理由もないのに。


「そうか、ならこの小僧の名前と家族構成ぐらいわかるだろ?」

「……ぐっ、、クソ、詮索不足だったか…」

「そうか、ならこいつは俺が引き取らせてもらう。」

「渡してたまるか! …ギッ!」


 パキャッ!


 綺羅びやかな服を着た男性は、股間を抱えて倒れてしまった。…背筋がゾワッとした。


「小僧、付いてこい。」

「どうして…?もう、何も考えたくない…」

「はぁ、理由なんて生きていれば見つかる。生きてける内は生きろ。」

「…?どういうこと…?」

「…とっとと付いてこい。」 


 そう言って、男の人は背中を向けて歩き始めた。



+++++


 男の人は続けて言う。


「まだ十歳にも満たないお前だけが残っちまったな。」


 どうして俺だけが生きてしまったんだ。頼れる身寄りも居ない。


 なんでだろう、目の前が見えにくくなる。拭っても拭っても、またぼやける。


 まだ、現実を受け止めきれない。受け止めたくない。どこかでひょっこり生きていないか、真っ黒だった人たちは別人じゃないのか。

 そんなことが頭をよぎる。


「そのせいでお前が借金を負うなんて、親を間違えたな。」

「父さんたちを馬鹿にするな!」

「おぉ、すまん...」


 鍛冶師の父さんの背中は頼もしくて、暖かかった。

 熱した金属に父さんが金槌を打ち付けた時の火花は幻想的だった。


 母さんは父さんが作った武器を笑顔で売っていた。

 ガラの悪い冒険者に怒鳴られても、物怖じしない姿が、子どもの俺には格好よく見えた。

 

 妹は、病弱だけど、賢かった。

 「お兄ちゃん、いつか一緒に海を見に行こうね」と笑う顔は、俺の宝物だった。


 だけど、もう届かない。手を伸ばしても、鍛冶でまめだらけの手がそこに無いのはわかってる。

 でも、どうしても、思い出して、手のひらは虚空を切り、心は空虚になる。

 流れる涙が頬を冷やす。


「着いたぞ、小僧。とっとと中に入れ。」


 男の人がドアを開いた。中に入ると、下に向かって階段がある。中は薄暗く、少し不気味だ。


「早く降りろ。ボスが待ってる。」


 俺は無言で階段を降りた。その先の部屋には強面の大きな人が居た。少し気圧されてしまう。


「来たか。待っていたぞ、ジルドの息子よ。」

「っ!、父さんの名前…」

「あぁ、そうだ。あいつとはよく飲みに行った仲だ。まぁそう緊張するな。取って食いやしない。」


 温厚そうな低い声でそう言う。

 だが、そんなことを言われても、初対面の人には警戒しろと昔から言われてるんだ。


「……なんのためにここに連れてきたんですか。」

「そうだな、単刀直入に言えば、お前には借金を返してもらう。」

「…借金ですか。」

「そうだ。お前の父親が作った借金を返済してもらう。この国じゃ借金は親から子に相続される。これが契約書だ。」


 右下に血印がされている…偽物じゃないってことは父さんから教わった。

 父さんは賭博をするような人ではなかった。じゃあなんで借金なんかしたんだ..?でも、急にそんなことを理不尽だ。


「…嫌です。」

「そうか?なら外に出るか?」


 …外は雪が降っている。到底子どもが1人で外に出る時間でもない。


「…働きます。」

「ハッハッ、そうか。だが、不思議そうな顔をしているな。なんだ、何も聞いてなかったのか?」

「…はい」

「そうか、今俺が理由を言ってもわからねぇだろう。お前がもっと成長した後教えてやる。」


 ここで粘っても、時間の無駄だろう。信用を得てからまた聞くしか無いのかな。


「俺は、どんな仕事をすれば…良いのですか..?」

「案外あっさり引き下がるな。よく分かってんじゃねぇか。仕事についてはまた後だ。まずは腹を満たして寝てからだ。逃げたり裏切ったりしない限り衣食住は保証してやる。その代わりしっかり働いてもらうぞ。」

「…わかりました」


 どうせ行く宛もないんだ。道端で死ぬよりはマシ。家族の分だって生きてやる。外にまともに出れなかった妹の分も。


「良い返事だ。俺はハネス。よろしく頼むぞ、えーと、たしかレイジだったか?」

「…よろしくお願いします。」

「よし、そうと決まったらまずは飯だ。おい!誰かもってこい!」

「わかりました!」


 クルルル...

 そういえば遊んで、腹が減ったんだ...


「ハッハッハッ、そうか、腹が減ったか。ほれ、ちょうど来た。お前のために用意しておいたんだ。」

「‥ありがとうございます」


 豪快に笑う男の人を見て、少しビクッとした。しかし、食事を出してくれて、緊張が少しほぐれる。


「おう、礼が言えて偉いな。だが今言うべきはいただきますだ。お前みたいな子どもは我慢なんざしなくて良いんだよ。早く食え、冷めるぞ。」

「‥いただきます」

「よし。いいぞ、黒パンは硬いから生え変わりの歯にはしんどいだろ。スープに浸してから食え。」


 目の前の机には芋と玉ねぎ、中には肉も入っているスープと、黒パン。そして焼いた腸詰が置いてある。いつもの薄味の玉ねぎスープと黒パンだけより豪華だ。

 だがどうせ初日だけだろう。


 黒パンをスープに浸して食べると、いつもよりしっかりした味付けがされていて、美味しくて、温かい。


 壊れかけた心に優しさが染みて、形を整えてくれる。我慢できなくて、また涙が出てくる。泣いているところは誰にも見せたくないのに。泣き虫って言われるから。


「...今日は泣け。辛かっただろう。今日くらい我慢せず声出して泣け。」


 その言葉で俺は泣き崩れてしまった。初めて声を出して泣いた気がする。


 はしたなく、泣きに泣いたが、ハネスさんは何も言わず、こちらを見守ってくれていた。俺は、食べ終わると、そのままハネスさんに連れられて部屋に行く。

 俺は、ベッドで枕を濡らした。

 泣き疲れてそのまま寝てしまうほどに。


 この日、俺は家族を失った。

 そして同時に、生きる理由を拾った。

気に入っていただけましたら、ブックマークや評価での応援をぜひよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ