1 出会い
一ヶ月は毎日投稿を必ず続けます。20時投稿です。
暗くて、寒い。目の前には男の人の背中。どこにつれてかれるのかわからない。
雪の降る、地面の凍った路地裏を歩く。寒さで凍え、足がもたつく。
「おい小僧、死にたくなかったらとっとと着いてこい。」
大人に注意され、ビクリと震える。慌てて足を早める。理由のわからないまま、ただ歩く。
死にたいのかも、生きたいのかもわからず。
男の人は白い息を吐きながら口を開く。
「お前も災難だな。家が燃えちまったなんて。」
そうだ、俺の家は燃えた。燃えていた。先程の出来事がフラッシュバックする。
*****
「ばいばーい!」
「またなー!」
冬の公園で友達と遊び、帰路に着く。今日も転んじゃったけど、今日は泣かなかった。それが俺にとってはとても誇らしい。
スキップ気味に街道を歩く。なんだか、焦げ臭い匂いが鼻をくすぐる。
「なんでっ!?」
俺の家の方向で黒煙が上がっていた。 急いで家に向かって走る。
燃えてるのは俺の家じゃないよな…!?きっと近くの家が燃えているだけだ!
そう自分に言い聞かせながら走った。ひたすらに走った。
「うわっぷ!」
「おっと。」
正面から来る黒いローブ姿の人とぶつかってしまった。だが、相手にしている暇はない。
「ごめんなさい!急いでるんです!」
「そうかい、ぶつかってごめんね。」
また俺は走り出す。短い足を必死で前に突き出して走る。
ずっと、ずっと言い聞かせながら。
「嘘だろ…!」
だが、その望みを嘲笑うかのように、現実は悲惨だった。俺が家についた頃には、周りに人だかりができていた。火の手は止まっていたが、家は全焼していた。
黒い家を背景に、静かに灰が混じった雪が降り始める。
「父さん、母さん、、エリシア、、!」
「…君!危ないよ!」
家に急いで入り、家族を探す。後ろから呼びかける大人の声を振り切って。
倒れた柱を避けながら、すべての部屋を確認する。キッチンにも、リビングにも居ない。
寝室の扉を開く。
「ッ…!!」
家族は逃げ遅れ、全員灰になってしまっていた。父さんも、母さんも、妹も。
全員、黒焦げになっていた。
妹のエリシアは病弱で、今日は一層体調が悪かった。きっと、父さんたちが助けようとして、逃げられなくなったんだ。
ぽっかりと、心に穴が空いたような感覚に襲われる。頭の中が真っ白になった。
「わぁぁぁあああああ…!!!!」
俺は泣き叫んだ。その声はどこまで届いたのかわからない。
もし、天に届いたのならば、神様、俺の家族を生き返らせてくれ……!
そう、願い続けた。だが、天はその願いを叶い届けてくれはしなかった。
…………もう、生きる意味なんてあるのかな。俺は、昔生きる理由を1度だけ考えた。
…家族が悲しむって思って、そこで終わっていた。
悲しみに一番寄り添ってくれた人はもう居ない。…俺が死んでも悲しむ人も、もう居ない。
そこら辺にある木片に手を出す。喉元に突き立てると、チクッとした痛みがある。
……やっぱり、死ぬのは怖い。
死にたい。でも死にたくない。なんでなんだろう。
カラン、と音を立てて木片が手から離れる。
……もう、何も考えたくなかった。家にはもう他に、誰もいない。
どこへ行っても、父さんも母さんもエリシアもいない。
それなのに、足だけは勝手に動いていた。
俺はふらふらと、道の方に行く。人だかりの視線が一気に俺を見る。
ざわめきが起きる。
俺を心配するような声が聞こえる。でも、視界がぼやけて顔がわからない。
人だかりの中から、1人だけこっちにやってきた。
「君、ちょっとこっちに来て。」
少し綺羅びやかな服装を着た知らない男性が声をかけてくる。
「ウェッグ、ヒック…ヒック、」
声を出そうとしても、うめき声しか出ない。
「命令といえど、少々やらせすぎたか…」ボソッ
少し落ち着くまで男性はずっと待った。
「…ヒック――――おじさん……誰?」
「おじっ…!、、、君のお父さんの知り合いさ…」
そう言って手を差し伸べてきた。俺は、少し睨みつける。
「こっちに来れば、君の生活を保証しよう。」
そこで、走ってきた男性が割り込んでくる。
「ちょっとまった。俺がこの小僧を引き取る。」
また、知らない男の人だ。…もう、俺にはどうすればいいかわからない。
「…お前は誰だ?」
「それはこっちのセリフだ。…お前、誰の使いだ?」
「さぁね、答える義理はないよ。」
…何の話をしているの?俺には、もう、生きる理由もないのに。
「そうか、ならこの小僧の名前と家族構成ぐらいわかるだろ?」
「……ぐっ、、クソ、詮索不足だったか…」
「そうか、ならこいつは俺が引き取らせてもらう。」
「渡してたまるか! …ギッ!」
パキャッ!
綺羅びやかな服を着た男性は、股間を抱えて倒れてしまった。…背筋がゾワッとした。
「小僧、付いてこい。」
「どうして…?もう、何も考えたくない…」
「はぁ、理由なんて生きていれば見つかる。生きてける内は生きろ。」
「…?どういうこと…?」
「…とっとと付いてこい。」
そう言って、男の人は背中を向けて歩き始めた。
+++++
男の人は続けて言う。
「まだ十歳にも満たないお前だけが残っちまったな。」
どうして俺だけが生きてしまったんだ。頼れる身寄りも居ない。
なんでだろう、目の前が見えにくくなる。拭っても拭っても、またぼやける。
まだ、現実を受け止めきれない。受け止めたくない。どこかでひょっこり生きていないか、真っ黒だった人たちは別人じゃないのか。
そんなことが頭をよぎる。
「そのせいでお前が借金を負うなんて、親を間違えたな。」
「父さんたちを馬鹿にするな!」
「おぉ、すまん...」
鍛冶師の父さんの背中は頼もしくて、暖かかった。
熱した金属に父さんが金槌を打ち付けた時の火花は幻想的だった。
母さんは父さんが作った武器を笑顔で売っていた。
ガラの悪い冒険者に怒鳴られても、物怖じしない姿が、子どもの俺には格好よく見えた。
妹は、病弱だけど、賢かった。
「お兄ちゃん、いつか一緒に海を見に行こうね」と笑う顔は、俺の宝物だった。
だけど、もう届かない。手を伸ばしても、鍛冶でまめだらけの手がそこに無いのはわかってる。
でも、どうしても、思い出して、手のひらは虚空を切り、心は空虚になる。
流れる涙が頬を冷やす。
「着いたぞ、小僧。とっとと中に入れ。」
男の人がドアを開いた。中に入ると、下に向かって階段がある。中は薄暗く、少し不気味だ。
「早く降りろ。ボスが待ってる。」
俺は無言で階段を降りた。その先の部屋には強面の大きな人が居た。少し気圧されてしまう。
「来たか。待っていたぞ、ジルドの息子よ。」
「っ!、父さんの名前…」
「あぁ、そうだ。あいつとはよく飲みに行った仲だ。まぁそう緊張するな。取って食いやしない。」
温厚そうな低い声でそう言う。
だが、そんなことを言われても、初対面の人には警戒しろと昔から言われてるんだ。
「……なんのためにここに連れてきたんですか。」
「そうだな、単刀直入に言えば、お前には借金を返してもらう。」
「…借金ですか。」
「そうだ。お前の父親が作った借金を返済してもらう。この国じゃ借金は親から子に相続される。これが契約書だ。」
右下に血印がされている…偽物じゃないってことは父さんから教わった。
父さんは賭博をするような人ではなかった。じゃあなんで借金なんかしたんだ..?でも、急にそんなことを理不尽だ。
「…嫌です。」
「そうか?なら外に出るか?」
…外は雪が降っている。到底子どもが1人で外に出る時間でもない。
「…働きます。」
「ハッハッ、そうか。だが、不思議そうな顔をしているな。なんだ、何も聞いてなかったのか?」
「…はい」
「そうか、今俺が理由を言ってもわからねぇだろう。お前がもっと成長した後教えてやる。」
ここで粘っても、時間の無駄だろう。信用を得てからまた聞くしか無いのかな。
「俺は、どんな仕事をすれば…良いのですか..?」
「案外あっさり引き下がるな。よく分かってんじゃねぇか。仕事についてはまた後だ。まずは腹を満たして寝てからだ。逃げたり裏切ったりしない限り衣食住は保証してやる。その代わりしっかり働いてもらうぞ。」
「…わかりました」
どうせ行く宛もないんだ。道端で死ぬよりはマシ。家族の分だって生きてやる。外にまともに出れなかった妹の分も。
「良い返事だ。俺はハネス。よろしく頼むぞ、えーと、たしかレイジだったか?」
「…よろしくお願いします。」
「よし、そうと決まったらまずは飯だ。おい!誰かもってこい!」
「わかりました!」
クルルル...
そういえば遊んで、腹が減ったんだ...
「ハッハッハッ、そうか、腹が減ったか。ほれ、ちょうど来た。お前のために用意しておいたんだ。」
「‥ありがとうございます」
豪快に笑う男の人を見て、少しビクッとした。しかし、食事を出してくれて、緊張が少しほぐれる。
「おう、礼が言えて偉いな。だが今言うべきはいただきますだ。お前みたいな子どもは我慢なんざしなくて良いんだよ。早く食え、冷めるぞ。」
「‥いただきます」
「よし。いいぞ、黒パンは硬いから生え変わりの歯にはしんどいだろ。スープに浸してから食え。」
目の前の机には芋と玉ねぎ、中には肉も入っているスープと、黒パン。そして焼いた腸詰が置いてある。いつもの薄味の玉ねぎスープと黒パンだけより豪華だ。
だがどうせ初日だけだろう。
黒パンをスープに浸して食べると、いつもよりしっかりした味付けがされていて、美味しくて、温かい。
壊れかけた心に優しさが染みて、形を整えてくれる。我慢できなくて、また涙が出てくる。泣いているところは誰にも見せたくないのに。泣き虫って言われるから。
「...今日は泣け。辛かっただろう。今日くらい我慢せず声出して泣け。」
その言葉で俺は泣き崩れてしまった。初めて声を出して泣いた気がする。
はしたなく、泣きに泣いたが、ハネスさんは何も言わず、こちらを見守ってくれていた。俺は、食べ終わると、そのままハネスさんに連れられて部屋に行く。
俺は、ベッドで枕を濡らした。
泣き疲れてそのまま寝てしまうほどに。
この日、俺は家族を失った。
そして同時に、生きる理由を拾った。
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