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王国編 第1話

澄んだ空に暖かな風が吹いている。そこに花束を二つ抱えた女がいた。

普段ならこのとても綺麗な景色にうっとりするのだろう。

だが、彼女の顔は悲しみと憎悪で染まっていた。

父が自慢げに語っていた綺麗な顔は今や見る影もない。肌は褐色がなく、目の下には薄くクマがある。

彼女の名前はリアナ・アルベール。アルベール公爵家の長女である。

リアナは先の帝国との戦争で父と長男を失った。今、アルベール家は若い次男が継いでいる。

リアナは二つの墓に花を添えて、宣言した。

「すいません。父上、兄様…私は…」一瞬、季節外れの冷たい風が吹く。


ー「戦います」ー





神聖暦457年。セフィロース王国の王都では斬髪式が行われていた。

斬髪式はこの王国の古くからの儀式の一つであり、女を捨て、戦うことを誓ったものたちが集う式である。

自分の髪を剣で自ら切り、神に戦うことを誓うのだ。そこにはリアナの姿もあった。

次男にも、侍女たちにも止められた。「そんなことをする必要はない」と。

婚約者であったセフィロース王国第二王子、レオン・セフィロースとの婚約も破棄した。

そして、時が来た。神官がリアナに問う。

「アルベール公爵家、リアナ・アルベールよ。

 そなたは女であることを捨て、騎士としてこの国のためにその剣を振ることを誓うか?」

リアナは祭壇に置かれている剣を手に取り、結んだ髪に押し当てる。

「ああ、誓おう」

そう言ってリアナは押し当てた剣をひき、髪を斬る。

バサッという音を立てて切られた美しい金の髪は火の中に落とされる。

この時からリアナは女を捨てて騎士になった。この煮えたぎる怒りを帝国にぶつけるために。



誰もが思っていた。実際、大抵がそうだからだ。女を捨てて騎士になったものはすぐに死ぬ。

だからみんな言うんだ。「なぜ、幸せな道を選ばないのだ」と。

だが、彼女、リアナは違った。次々と戦果を上げていき、今では一つの隊を率いる隊長にまでなった。

リアナはこの国の女性たちの希望だった。自分たちだって戦える。抗えると。

だが、それが良くなかったのだ。世は貴族社会。女性の地位は低い。

女を捨て、騎士となり、地位を手に入れたことで、国内の女たちの騎士希望が多くなった。

中にはリアナのように戦果を上げる者もいた。

だからこそ、王国の怒りを買った。このままでは男の地位が危ないと、女に地位を与えるのは危険だと。

しかし、リアナは戦い続けた。王国のためにこの剣を振るうと誓ったから。

その剣が自分を傷つけることも知らずに。

そしていつしか貴族間で秘密裏に計画が進んでいた。『リアナを始末する』という計画が。



王城の会議室で会議が行われている。副将軍が調査報告をしている。

「まず、トラニカル帝国に関してですが、第二王子の名前が明らかになりました」

「なんと!」「ついにか…」会議室にはそんな声があちこちで聞こえる。

「第二王子の名前はジーク・トラニカル。3日前の境界戦争で手柄をたてたとのことだ」

(第二王子まで出てきたか…)そう思いながら少し険しい顔でリアナは資料を見ていた。

帝国の王族は少し特殊である。最初は名が無く、初手柄を立てた時に名が与えられる。

「現時点でわかっているのは、皇帝ダグラス・トラニカル、第一王子のマーク・トラニカル、

 第二王子のジーク・トラニカルか、あとは…」

「第三王子だな…」リアナが小さく呟く。

第三王子がいることは分かっているが、まだ手柄を立てていないのか、名は与えられていない。

そんな会議が数時間続き、その日は終わった。



リアナが騎士になり1年が過ぎようとしていた頃だった。ついにあの計画が動き出す。

この日は『霧の森』の調査だった。この霧の森は王国と帝国の一部の境界にあり、いつも濃い霧がかかっている。

使い道がないので、ここはどの国にも属していない。そこを戦時的に利用できないかというものだった。

森といっても、かなり高低差があり、崖や、滝まである。

リアナはその崖の上でどこまでも広がる木々を見ていた。

ふと、後ろから声をかけられた。振り返ると騎士団長のボルフス・グレインだった。

がっしりとした体で中年くらいの男。背中には大きな大剣を背負っている。

「リアナ、少し話がある。神官長のブリヒ・バズール様のところに来てくれ」

「…了解しました」

「その口調も板についてきたな」

「まあ、女を捨てた身ですので。上品な言葉遣いなど不要かと…」

そう言いながらブルフスについて行く。少し歩くと滝の上の湖に出た。



湖から滝へ落ちた水が、濃い霧を作っている。そこに神官長のブリヒがいた。

大きく出た腹に、肉の乗った顔、髪のない頭、さぞ裕福な暮らしをしているのだろう。

三人が集まったところでブリヒが口を開いた。

「集まってもらってすまないね〜。実はリアナ騎士に話さなければいけないことがあってね〜」

ブリヒはいつものようにゆっくりと喋る。リアナは答えた。

「話とはなんでしょう?」

すると、ブリヒはニタッと笑い、ボルフスに目配せをした。

瞬時にボルフスは背中から大剣を抜き、リアナに向かって振り下ろす。

リアナはかろうじて避けた。すぐそばで、『ドーン』という音と共に、土埃が舞っている。

「どういうことですか⁉︎…ボルフス様!ブリヒ様!」そう言いながらリアナは戦闘体制を取る。

「どうもこうも、邪魔だから消すのですよ〜。リアナ騎士〜。」

「邪魔だと⁉︎私は王国のために剣を振るっているはずだ!」

「貴方のせいで我々、正当な男貴族の地位が危ないのです〜。だから死んでもらうのですよ〜。」

リアナが話しているとまた、大剣が振り下ろされる。

どうにか必死に避ける。しかし、剣先がリアナの左頬をかすめる。

「ッツ…!」リアナは滴る血をぬぐい、ボルフスに斬りかかる。しかし、剣に押され、木に叩きつけられた。

「グッ…」背中が痛い、剣が重い、それでも立つ。

「貴方たちのしていることは反逆罪だぞ!」

「そんなことはない…」森の奥から声が聞こえる。聞いたことのある声だだった。



リアナは森の奥に視線を向ける。誰かが近づいてくる。その姿を見て、リアナは言葉を失った。

「そうだろ?リアナ…」それは何度も見た顔だった。一緒に笑って茶を交わし、未来の話をした大切な人。

セフィロース王国第二王子、元婚約者のレオン・セフィロースが立っていた。

「どうして…」

「どうして?か、私との婚約を破棄しておきながら、貴族の立場まで崩して、何がしたい!」

レオンはリアナに怒鳴る。優しく微笑んでいた顔は今や憎悪一色だ。

「反逆罪はお前の方だリアナ!やれ、ボルフス!」

「御意」

ボルフスが踏み込み、一瞬にしてリアナの前に出る。回転するように大きく剣を振るう。

リアナは剣で受け止める。剣と剣が擦れ合い、火花を散らす。

「ぬおぉぉぉッ!」ボルフスは全身で剣を振るう。

リアナの体が浮く。そして瞬時に吹き飛ばされた。

(まずい!早く体勢を…)足が地面につかない。ふと、下を見る。滝壺が見えた。

そう、リアナは滝に吹き飛ばされたのだ。

体がどんどん落ちて行く。最後に見たのは笑っている婚約者の顔だった。

1話はこれだけ書きましたが、2話からはもう少し短く刻みながら投稿していきます。

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