洗礼の日
教会へ向かう当日、私は着せ替え人形のようにおめかしをさせられていた。
普段は動きやすさ重視の服ばかりなのに、
今日はやたらとレースや装飾のついた、
見るからに“お嬢様です”と主張してくる衣装だ。
鏡の前でくるくると回されながら、
侍女たちが満足げに頷いている。
……いや、そんなに気合い入れなくても。
と思ったところで、私は今日の主役だったと思い出す。
五歳の洗礼。
神の名のもとに、スキルを授かる日。
「お嬢様、馬車の準備が整いました」
やがて私は抱き上げられ、領館の外へと運ばれる。
馬車に乗り込み、扉が閉じられる。
そして――出発。
領館の敷地内しか知らない私の視界に、
初めて“外の世界”が広がった。
テンションが、上がる。
話でしか聞いたことのない世界が、
やっと見られるのだ。
ほう。
木造建築が多いわね。
てっきり、レンガや石積みの街並みかと思っていたけれど、
見える家々の多くは、木材を主体にした造りをしている。
もっとも、日本のそれとは微妙に違う。
屋根の傾斜も、壁の組み方も、
どこか“異世界風味”がある。
店先には色とりどりの布や、
見たことのない果物らしきものが並べられていた。
……お店、寄ってみたい。
流石に無理だろうけど。
「……ん?」
視界の端を、何かが横切った。
耳。
尻尾。
え、今の――
猫娘?
いや、狼……男?
獣のような耳を持つ人間が、
普通に通りを歩いている。
さわりてー!
いや、いかんいかん……!
落ち着け、私。
侯爵家の跡取りだぞ。
そんなことでテンションを爆発させるな。
……しかし、この馬車。
揺れが激しくない?
お尻が痛いわ。
サスペンション、仕事して?
などと考えているうちに、
馬車はゆっくりと速度を落としていった。
「お嬢様、教会に到着致しました」
外へと出る。
目の前に広がっていたのは、
白い石造りの巨大な建造物だった。
……これが、教会。
前の世界でも一度だけ入ったことはあるけれど、
規模が違う。
なんて言うのだろうか。
神々しい、というやつか。
自然と背筋が伸びる。
中へと足を踏み入れると、更にその空気は濃くなった。
高い天井に差し込む光。
静寂。
そして――
子供。
同い年くらいの子供たちが、かなりの数、集められている。
皆、今日が洗礼の日なのだろう。
ほぅ〜。
あの水晶に手を触れて、スキルを授かるのね。
順番に呼ばれていく。
「貴女のスキルは――料理!」
「やったー!」
……料理スキルか。
生活には困らなそうだ。
後でお友達にならないと。
やがて、私の名前が呼ばれた。
周囲の視線が、一斉に集まる。
領主の跡取りの伯爵家の長女。
その肩書きが、期待という形で周囲の目に宿っているのが分かる。
……居心地が悪いわね。
深呼吸を一つ。水晶の前に立つ。
手を、触れる。
「――!?」
光が、弾けた。
「これは……」
神官の声が、僅かに揺れる。
「解析……と、“エンジニア”」
「おー、二つ持ちだぞ!」
「しかし、二つとも聞いたことがないな……」
周囲がざわつく。
私は、思った。やった、と。
経験と、スキルがある。
ならば――怖いものなしだ。




