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#49「正宗と白き盾」

「そう。じゃあ倒れている岸田と佐野も、もうすぐ目を覚ますのね」


「天使さん……貧血も"癒天使"で治せたりしないかな……?」


「無理ね、ほうれん草でも食ってなさい」


「そんなぁ」


 負傷したハルの世話をしながら、天使はディーヴァと話をした。


「うん。あたしの劇場……あの結界の中で殺された人は、ホントは死んでなくて、劇場の中に魂を封じ込められて眠ってる状態でね。時間が経ちすぎると現実に戻れなくなるけど、その前に渡会くんにやられちゃったから」


 やー、強かったなーと、だんだんいつもの調子に戻ってきたディーヴァは言った。


「まさか、ディーヴァさんがやられるとは……」


「正論で説得されて、気い抜いちゃったー。チタンは?」


「正論で説得されて、気を抜きました」


「あははっ、いっしょー」


 そう言って笑いかけるディーヴァを前に、チタンの口元も思わず緩んだ。


 今だって、こうして笑い合えるのだ。魔法をこの世から消し去る無茶な計画なんて果たさずとも、幸せに生きられる道が、必ずどこかにあるはずだ。


「……ところで。さっきの件なんですが」


 そんなことを考えていたチタンの耳元に、焚火が囁きかけた。


「ッ!?」


 さっきの件──「あのこと」以外の話題が出る可能性に、0.5%ほどの可能性に、チタンは期待し。


「どういう所が好きなんですか? ディーヴァさんの」


「あ、それあたしも知りたーい」


 案の定、その期待は裏切られた。しかも、ディーヴァ本人まで興味を示しているとなれば、いよいよ逃げ場は無い。


「え、っと…………魔法とか関係なく、1人の人間として僕を見てくれるのが、嬉しくて……あと、他人の悪口を言わない人なんです。それでいて、場の雰囲気を明るくするのが得意で、親切で……他にも、いろいろ……」


「うん、うん……!」


 たどたどしく小さな声で、顔を赤くして語るチタンに、焚火は何度も何度も頷いた。よほど関心があるらしい。


「分かりますよー……実は私も、歳の離れた人に恋をしてまして……チタンくんと逆で、5歳も6歳も下の方なんですが──」


「え……その、そちらの年齢差は流石に問題では?」


「え゛」


 チタンからの真っ当な問いかけに、焚火はしわがれた1文字を口からこぼして固まった。歳上に惚れた者と歳下に惚れた者、何が違うのか──と、哲学しながら。


「ま、まあ、告白の返事は2人きりのときにしてもらうとして」


 それを見かねたハルが、話を進めんと歩み寄り。


「正宗とキリカ先生も、僕らみたいに向こうと和解出来たらいいよね」


 語りながら、ディーヴァ達の方を見た。


「あー……悪いんだけど、それはちょっと難しいかも」


 だが、期待していた返事は帰ってこなかった。


「え……どうしてですか?」


「あたしとかは正直、計画実行に迷いがちょっとあってさ。それが敗因にもなったと思うんだけど……あの2人は違う。目的のために手段を選ばないし、一度決めたことは必ず貫く。そういう人達だから」


「だったら、すぐ助けに行かないと!」


 ハルはそう言い、まだ疲れの癒えない体に鞭打って立ち上がった。


 だが、ディーヴァは首を横に振り。


「おかしいと思わない? さっきから、誰の声も物音もしない。多分、4人ともここにはいないんだよ」


「じゃあ、どこに……?」


「心当たりがあるの。ヴォイドの固有魔法、あれは単なるワープ能力だけじゃない」


 そして、ディーヴァはハル達に語った。


 4人は恐らく今、別の次元にいるのだと。






 正宗は、目を開いた。


「ここは……確か、あの女の黒い穴に吸い込まれて……」


 起き上がり、周囲を見回す。青空だ。不自然なほど、雲ひとつない蒼空。対して、地面は白一色。真っ白なブロックのような地面が、数千個だか数万個だか、そうして無限に続いている。まるでテレビゲームのステージだ。


 そんな、青と白の狭間に描かれた地平線の向こう、1人の男が立っていた。


「……随分潔いリングだな、銀? 逃げ場も隠れ場も無くて良いのかよ」


 正宗は、前方から歩み寄って来る人影に問いかけた。


「それはこちらのセリフだ。俺と対峙して、何故逃げない? あの勇者とやらと組んで漸く俺と互角だったお前が、よもや単身で俺に勝てるとは思うまいな」


「思うに決まってんだろ。お前をぶっ潰して、俺はみんなと、先生と帰る」


 正直なところ、シルバーの言葉は否定し難い。事実として、正宗は彼に遅れを取っていたし、勇真がいなければ危なかったと、自分でも理解している。このまま戦えば、命の保証は無いのかもしれない。


 その上で、正宗は思った。


 それがどうした、と。


「"心刀・正宗"」


 体を巡る(マナ)を、手のひらの先一点に集中させる。鉄の刃をイメージして、両手を前にし、幻想の鞘を引き抜く。


「とうに折られた剣をまた握るか。馬鹿の一つ覚えだな」


 どんな策を講じるかと思えば──そう呆れながら、シルバーは再び鋼鉄の槍をその両手で握りしめた。


 正宗がそこへ駆け込み、横振りの一撃を放つ。風切る刃が白煌した楕円の軌道を描く。


「無駄だ」


 シルバーは予定調和のように、その一撃を槍先で弾き返した。


「……馬鹿なのは、テメェの方だろうがッ!!」


 だが、正宗は止まらなかった。弾かれることを見越していたかのように、かかとで踏ん張り、再び突撃を仕掛け刃を振るう。


「馬鹿の一つ覚えみてぇに、魔法を消すだ、キリカ先生を消すだ、橘先生の教えだって!!」


「!」


 掻い潜る。突き立てられた槍の切先を、今度は正宗の刀が弾き飛ばした。槍は斜めに押し除けられ、正宗とシルバーの間を遮るものは無くなった。


「テメェは橘先生を言い訳に、ただ鬱憤を晴らしてえだけじゃねぇか!!」


 絶好の機を逃すものかと、正宗はそのまま急速に距離を詰めていく。腕を掴めるほどの距離。届く、この刃が届く──!


「でなきゃ、ガキを殺して革命起こすなんて考えが浮かぶワケがねぇ!!」


 正宗は、刃をまっすぐに振り下ろした。


「……"変銀自在"ッ!」

 

「!?」


 止められた──!?


 籠手だ。シルバーは弾かれた槍を、固有魔法で瞬時に変化させたのだ。両腕を覆う籠手へと。そして、正宗の一振りを正面から受けて凌いで見せた。


「だったらお前は、正しいと言うのかッ!?」


「がっ……!?」


 骨が折れそうになるほどの、腹への激しい痛み。刃を受け止めた籠手と逆の腕から放たれた正拳突きを、腹部にモロに受けた正宗は、地面を転がり地に伏した。


「橘先生は正義を貫いた! 弱者救済、不幸な者に救いの手を差し伸べる正義を! なのに先生は、悪に踏みにじられ殺された! そんな世界は間違っている! 何故それが分からない!?」


「っ……だから、それを変えるためなら、何しても良いって……本気で、思ってんのか……!?」


 這いつくばりながらも、正宗は問いかけた。痛くなどない。怒りとアドレナリンが、そんな邪魔なものは消し去っている。


「魔法さえこの世に無ければ、橘先生は死ななかった!! 魔法が存在しているこの世界の、全てが間違いなのだ!! ならば、世界の全てを壊すしかないじゃないか!!」


 違う。


 そんなのは、絶対に違う。


 だって。


「…………魔法が無かったら、俺達は橘先生に出会えなかったッ!!」


 失ったのは、はじめに与えられたからじゃないか。


「……!?」


「魔法があったから出会えた奴らがいる。魔法があったから救えたものがある。だから、俺はそれを絶対に否定しねえ。この世界は、今日までの全ては、間違ってなんかいねえ!!」


 だから。


「未来は変えられるんだ!! 悲しみも間違いも全部抱えて、変わるしかねえだろうが!! 俺達はッ!!」


 正宗はずっと、そうして足掻いてきたのだ。


「違う……違うッ!!」


 そしてシルバーは、その答えでは納得できなかった。


 槍を構え、走り出す。ふらついた様子で、刀も掴み損ねている正宗に、防ぐ術は無い。貫いて、このくだらない言い争いを終わらせれば良い。


 間違ってなどいない。


「はああああああッ!!!」


 貫いた。






 はずだった。


「なっ……!?」


 避けられ──否。防がれた──?


「なんだ、それは……」


 シルバーは呟いた。


 先端をへし折られた自分の槍と、その先にあるものを凝視しながら。


「お前のその魔法は、何だ……!?」


「へっ……知るかよ」


 正宗はそう言った。


 その身は、突如出現した白い盾に守護されていた。

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