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#27「正宗とハルと悔いのない道」

「ふっふーん……おや?」


 鼻歌と共に道を歩いていた万丈勇真は、ふと通信機に着信が入ったことで立ち止まった。


「はい!! Aクラスの万丈です!!」


「うるせっ……勇真か? 浅井との戦いはどうなった?」


 Aクラスの担任からの連絡であった。


「はい!! みんなで力を合わせて撃破しました!! 僕1人だったけどッ!!」


「だから声量を……って、おーそうかそうか! だったら俺達の勝ちだな! で、今は浅井を場外へ運んでる最中か?」


「いえ!! 散歩をしています!!」


「あぁ……? お前まさか、浅井はそのまま放置か?」


「真の勇者は、弱った敵をいたぶる真似はしませんッ!! 立ち上がって仲間になりたそうにこっちを見るかもしれないので、一旦置いておきました!! 鉄砕に加勢もしなきゃいけないのでッ!!」


「バカバカバカバカッ!! 加勢も何も、お前がリーダーである奴を場外へ連れ出せばそれで終わりだ!! 敵全員倒す殲滅戦じゃねえんだぞ、分かってるのか!?」


「? どういうことですかッ!!」


「分かってねェ……良いから、お前は最速で浅井を場外へ連れ出しに戻れ!」


「ええと……先生!! 彼と戦ってた場所って、どっちの方角でしょうか!!」


「…………はぁ〜……」


「じゃあとりあえず歩いてみますッ!! 失礼しますッ!!」


 元気の良い挨拶と共に、勇真は通信を切った。元気以外に褒められる点は無い。


「ふーむ困った……それじゃあ、今度は90度旋回して歩いてみようッ!!」


 180度旋回すればいいことに、なぜ気が付かないのだろうか。


「さてさてー……おやっ?」


 そんな落ち着きのない勇真の足を止めたのは、遠くから近づいてきた奇妙な物音だった。ガレキを壊しながら、何かが近寄って──否、突進してくる音。


「おっとお!?」


 そしてそれは、勇真のちょうど隣の壁を破壊し、砂煙を激しく上げながら彼の目の前に現れた。


「って、鉄砕!?」


 現れた人物の正体に、勇真は目を丸くした。


 そこに倒れ込んだのは、体に数多の傷を負い力尽きた、自らの友だったから。


「これは……なるほど!! 君のしわざかッ!!」


 砂煙の奥から更に聞こえて来る足音。勇真はすぐさまそちらに視線を向けた。


 巨大な人影。徐々に土の煙幕が晴れていき。


「これは……鉄砕、こんな大柄な人がFクラスにいた覚えはないよッ!!」


 黒い毛に覆われた、2メートル近い体躯の獣人を見上げ、勇真は驚きと共にそう言い放った。


「わ……渡会、ハルだ。俺も正直、信じられん……」


 口から血を流しながら、鉄砕は何とかそう答える。こんな状態の鉄砕を、勇真は今まで見たことが無かったし、これからも一生見ることは無いと思っていた。


「グゥ……ウ……ッ!」


「!? 来るッ!!」


 ハルが前傾姿勢を取ったのを見て、次のアクションを予測した勇真は、すぐさま足元の木の棒を拾い上げた。そして固有魔法"ブレイブ・テイル"の力で、その棒を勇者の剣に変化させ、構える。


 だが。


「横!? 鉄砕ッ!!」


「く……があっ!?」


「ウウゥ……!!」


 体力万全の勇真は放置し、ハルは寝転がる傷だらけの鉄砕の方へと駆け出した。そして彼の首を掴み、空中へ持ち上げ。


「ウァァ!!」


「ぶっ!?」


 彼の腹に、ハルは丸太のような腕でパンチを繰り出した。


「鉄砕ッ!!」


 思わず叫んだ勇真の声も虚しく、鉄砕は口から胃液をこぼしながら、激痛の中で意識をフェードアウトさせていく。そんな彼をハルは、容赦なく地面に放り投げた。まるでゴミでも捨てるように。


「君……それはやりすぎじゃないだろうかッ!!」


 常に陽気な勇真が、初めて怒りの表情を見せた。それほどのことをした。心優しい少年であったはずの、渡会ハルが。


「はああああああッ!!」


 地面を蹴って駆け出した勇真は、ハルに急接近すると、銀色の剣を横一閃に振り払った。


「何っ!?」


 しかし、巨体からは想像もつかない俊敏性を見せ、ハルは後方にジャンプしてそれを回避した。そして真っ黒な足で跳躍し、ハルは再び倒れる鉄砕の方へ迫る。


「させるか!!」


 視線の移りからそれを察知した勇真は、すかさずダッシュして鉄砕とハルの間に入り込んだ。ハルが上から振り下ろした右腕の鉤爪を、銀の剣で素早く受け止める。


「ぐっ……!!」


 だが、咄嗟に飛び込んだせいで受ける体勢が悪い。片膝をついた姿勢になってしまった勇真は、じわじわと黒く太い腕に押されていく。突き刺さってしまいそうな位置にまで、刃物よりも鋭い爪が迫ってくる。もう、やられるのは時間の問題だ。


「ッ……僕は、真の勇者ッ……傷付いた人を、守るのがッ……!!」






「やめろッ!!」


「!?」


 吹き飛ばされた。黒い巨体が、真横から飛んできた何かによって。


 それは、飛び蹴りであった。


「君はッ!?」


「おう、テメェに仕返しに来たんだが……そんな場合じゃねえみたいだな」


 敵である勇真のピンチに介入した浅井正宗は、残念がった様子で苦笑いしながら言った。


 身体中に擦り傷やアザが目立つ。勇真と同様に、彼との戦闘のせいで、助太刀に来た正宗もまた重症であった。


 それでも正宗は、傷ついた敵のリーダーにトドメを刺すよりも、むしろ彼を助けることを選んだ。


 そうしなければ、後悔が残ると思ったから。


「ハルッ!! お前、何飲まれてんだよ!! その魔法の力が勝手に暴れ出さねえように、お前の心と脳ミソで制御できるように、毎日特訓してきただろうがッ!!」


 こんな勝ち方では、きっと"彼"が後悔すると思ったから。


「……ヴウウウウッ!!」


「返事も無しかッ……!」


 正面から突っ込んで来るハルを前に、正宗は右の拳を握り締め、そこに体に残る僅かなマナを集中させた。


「"消虚(バニッシュ)"!!」


「ガアッ!?」


 正宗の全力のストレートに押され、ハルの体が後ろへ押し除けられる。


 だがその黒い体には傷ひとつなく、その身のマナが乱れる様子も無かった。


("消虚"の固有魔法無効化が効いてねえ……!? そうか、あの黒い巨体は外殻みてえなもんで、ハルの本体じゃねえ……体内のマナまでパンチが届かねえのか!)


 正宗の"消虚"は、敵の体内に自らのマナを無理やり流し込むことで発動する。今は黒い獣の変身体が壁の役割を果たし、マナを流し込まれているのを防いでいるのだ。


「ッ……お前、何をやってるんだ……?」


 Fクラスの人間同士で対峙している異様な光景に、鉄砕は困惑しながらそう尋ねた。


「ああ……俺がなんとかすっから、邪魔しないでくれ。(おれたち)同士でやり合う分には文句ねえだろ?」


「だが……」


「鉄砕ッ!! ここは信じてみようッ!!」


「声でか」


 間近で響く騒音に顔をしかめながらも、正宗は再びハルの方に向き直った。


「まあ、そうは言っても……どうしたもんかなッ!」


 言いながら、今度は正宗の方からハルに突っ込んでいく。


 "消虚"が通じない以上、素の戦闘でハルを倒すしか止める方法が無い。だがスピードと攻撃力、加えておそらく防御力でも自分を上回るこの怪物を、格闘だけでどうやって──


「っべ!?」


 考え事に脳のリソースを割いたのが仇となった。彼を待ち構えていたハルが上に高く跳んだことで、ダッシュの勢いを乗せた彼の右ストレートは見事に空振り、その上空を巨大な影が覆う。回避しきれないカウンターが来る。


「くっ──!」






「そこまで。なのです」


「!」


 真っ白に輝く、魔法の防壁。それが正宗とハルの間に挟まり、彼に迫る凶刃をしのいでいた。


「二者面談をしましょうか、渡会くん」


 白い髪。黒いとんがり帽。ここに現れること、それそのものがルール違反である存在。


 だが彼女は──渡会ハルの、そして正宗の担任である彼女は、確かにそこに立っていた。

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