21.sideリラン
「──っはぁ…!」
バッと勢いよく上体を起こし、目を開けたその先には、染み一つない真っ白な壁紙が一面に広がっていた。身体に掛けていた布団を引っ剥がして飛び起きた私は、肩を上下させるくらい荒い呼吸を吐いていた。過呼吸にも似たそれは、時間が経てば少しずつ治まっていく。息がしやすくなると同時に、ビッショリかいた汗で寝間着が肌にベッタリ張り付いていることに気づく。
蟀谷から伝い落ちる滴を手の甲で拭いながら、一つ深い溜め息を吐く。柔らかいベッドの上で一人、両膝を抱えて蹲る。
──まただ…。
このところ毎晩、私は今日のように飛び起きることを繰り返している。何か夢を見ていたような気がするのだけれど、いかんせん内容を覚えていないので消化しきれないままなのだ。誰かに話せば少しは楽になるのかもしれないけれど、“魔女”討伐のために頑張っている人たちの邪魔はしたくないし、なんなら悪夢に悩まされてるなんて発言した際には“魔女に乗っ取られる”という前科がある私は牢屋に隔離されること間違いなしだ。
それだけは避けたい。今は、まだ。
人を殺した私は牢屋に繋がれ、罰を受けなければならないことは百も承知なので、ちょっと怖いけれど隔離されること自体に文句はない。けれど、今はやっと新しい訓練にみんなが慣れてきたところなのだ。持久戦への耐久性は身に付いた、だから今度は短期決戦への対応を身に付ける必要がある。
“魔女”の力は絶大だ。私が乗っ取られている時に出していた力も、全力だとは限らない。じわじわと人を苦しめることを愉しむ彼女だけれど、アミュータの街を襲撃し撤退を余儀なくされた時に、騎士団長・サネルガさん・アヴィストの三人に目を付けていた。しかも相当怒っていた。もし再び三人の前に魔女が現れたなら……最初から本気で向かってくる可能性はないとは限らない。そのことに気づいたのがつい最近だということに、先入観が邪魔をしたとはいえ自分自身をぶっ飛ばしたい気分である。“魔女”を一番知っている私が「甚振って愉しむ人です」と言ってしまえば、彼女の情報がほぼ皆無な騎士団と魔術士団の人たちは私の言葉を鵜呑みにするに決まっている。だから団長さんたちも、サネルガさんも、アヴィストも、誰も短期決戦に対する訓練について言ってこなかった。彼らに先入観を植え付けた私が犯した失態の責任を、彼らに押し付ける訳にはいかない。今からでも遅くはないはず、やらないよりはやった方がいい、少しでも生き残るためには。
慣れてきたところに違う目的の訓練を取り入れれば、誰だって新しいことについていくのに必死なはず。そこに私の個人的な問題を割り込んでしまったら、固まり始めた足場が崩れてしまう。それだけは避けなければならないと、義務感に似た何かが私にそう決意させた。だから、夢のことはサネルガさんにも、アヴィストにでさえ話していない。
ここまで考えて、ふー…と全ての思考を吐き出すように意識的に長く息を吐く。リセットだ、リセット。頭の中をスッキリさせよう。自慢ではないが、私は自他共に認める馬鹿だ。難しいことを考えたり、同時に二つも三つも考えたりすることは、無理である。
よって、結論から言うと。私の覚えていない夢の話は後回しにしよう。
よし、と気合を入れるために両頬を叩く。だけど強さは抑えめで、じんわりとした痛みを感じるくらいに。何故なら強く叩きすぎて痛みに悶絶し、再起するのに数分時間を要した挙げ句に、頬の赤みが半日も取れずサネルガさんとアヴィストに変な探りを入れられてしまったことがあるからだ。人は失敗から学ぶのだ。これも成長である。
ひと通りの支度を済ませて、私は自室のドアを潜り廊下に出て、隣の部屋のドアをトントンと軽く叩く。すると中から「おー、ちょっと待ってくれー」という応えが返ってくる。もちろん部屋の主はサネルガさんだ。
私たちの部屋は中の隠し扉で繋がっているけれど、通常時にそれを使うことはない。婚姻前の、それも異性の関係でも親戚でもないのに、同じ部屋から出てきたら大問題である。それに私は、エナーシャ様がサネルガさんに想いを寄せているのを知っている。身分は違う(いや、それ以上の差がある)けれど、数少ない親しくしていただいている方の横恋慕をしたい訳でもないので、夜に開いている秘密の作戦会議以外にあの扉を使うことはない。……うーん、夜に秘密で会う、なんてめちゃくちゃ妖しいし充分裏切り行為に聞こえる…。いやいや、でも内容は恋愛の「れ」の字も感じられないものだし。キャッキャウフフな雰囲気では…傍から見ればないとは言わないが、「どうやって殺っちゃう?」「斬り裂く?」「爆破させる?」などなど物騒な言葉が飛び交っているのだから、セーフなのではないだろうか。セーフだと思いたい。
そんなことをつらつらと考えているうちに、「お待たせー」と軽い口調でサネルガさんが出てきた。
「おはようございます、サネルガさん」
「おう、おはようさん」
いつものように挨拶を交わす。そして並んで訓練場へと歩き出す──のだげれど。何故か今日は、いつものようにはならなかった。
「……えっと……、サネルガさん? 私の顔に何か付いてます?」
挨拶をしたと思ったら、口を結んでじぃっと私の顔を覗き込んできた。真剣な眼差しで、観察するような瞳で。まるで、私の奥底まで探るような視線で…。しかもちょっと距離が近い。
いつもと様子の違うサネルガさんと、その距離の近さから居心地の悪さを感じて、理由を聞いてみる。
「…リランちゃん、ちゃんと眠れてる?」
「え?」
「なんか、疲れてない? 体調悪い?」
私の身を案じるその言葉に、一瞬ドキリと心臓が跳ねた。つい先ほど決意した核心を突っつかれて動揺し、思わず口籠ってしまう。この場合、動揺しない方がおかしい。何故だ。何故よく眠れてないことが判るのだ。支度の時に鏡を見たけれど、いつもと変わらなかったはずだ。どこから判断したのですか。その判断力、私に分けてください。
慌てふためく間に、サネルガさんは眉間にシワを寄せ始めた。ヤバい、何か言わなければ!
「き、昨日の夜、魔術書を読んでて…。いつもより寝る時間が遅くなったからですかねぇ…?」
「…ふーん? 俺が部屋に帰った後に読んだの?」
「あぁ…はい、まぁ……そうなりますね……?」
濁しまくった返事に、より一層険しい目付きになるサネルガさんを直視できなくて、私はそぉっと視線を空中へと逸らした。お願いします、誤魔化されてください。これ以上、私の心臓に負担を掛けさせないでください。ドッドコドッドコ変な音を立ててるの。心臓が潰れそうです。泣き出しそうです。
ていうか、誰が聞いているかも分からない廊下のど真ん中で、誤解を招くような発言はしないでいただきたいです。特にエナーシャ様のお耳に入ったら、私はエナーシャ様恋愛応援団を退団しなければならなくなる。メンバー私しかいないのに。あ、アンジェがいた。いや仔猫に応援団を任せるってどうよ? 私よりしっかりしているけれど、人間の恋愛事にアドバイスやらなんやらできること少なくない? うん、やっぱり退団はできない。誰も今の言葉、聞いていませんように!
逸らした視線でひと通り辺りを見回してみたけれど、誰もいなかった。良かった〜、ちょっとひと安心。
「……うーん、本調子じゃない時に訓練してほしくはないんだけどなぁ…」
「え、いや大丈夫です。支障は出しませんから」
「でもなぁ……」
「平気です! やっとみなさんがノッてきたところじゃないですか!」
休暇は一昨日に取ったばかりだ。せめてあと二日は続けて訓練したい。休んで訓練して休んで、なんてぶつ切りにしてしまったら団員さんたちのリズムが狂ってしまう。それに、この訓練は私ありきの訓練だ。私が休んでしまったら、他に誰がやるというのだ。
「うーん、そうなんだけどさぁ…。やっぱり休んでもらいたいなぁ…」
「大丈夫ですってば! 第一、私の代わりはいないじゃないですか!」
「それは団長と副団長たちで順番に回せば、なんとかなると思うよ」
「えぇ~…」
「あと、アヴィストがなんて言うか……」
「ぅぐっ…!」
ちょっとそれはあんまりだ。アヴィストの名前を出すなんて、卑怯ではないか。ぐぬぬぬ…、サネルガさんめ、私の弱点を突くのが上手い…。だがしかし! 私は諦めが悪いのだ! 鈍いアヴィストに何年恋心を抱き続けていると思っているのだ!
「じゃあ明日は休みます! 今日はやらせてください! お願いします!」
「…………はぁ…。分かった、調子が悪くなったらすぐに言うんだぞ。で、明日は絶対に休むこと」
「了解です! ありがとうございます、サネルガさん!」
やったぁ! なんかサネルガさんの優しさに浸け込んだようで悪い気がするけれど、折れてくれて感謝です! 明日は休むって約束したから、今日は張り切って明日の分まで頑張ろう!
よし!と意気込む私の横で、サネルガさんは頭を抱えていた。朝からすみませんね、でもこれが私なので諦めてくださいね。
「さあ、どんどんいきますよ!」
右掌に魔力を収束させる。相手は四人、正面に二人と奥に一人、右奥に一人。最初に狙うのは目の前から斬り掛かってくる騎士。彼に向かって炎の礫を二撃、放つ。すかさず隣に控える魔術士が騎士の前に魔術壁を張り、私の攻撃から仲間を守る。だけどそれは想定内。私は礫を二撃放つと同時に次の魔力を練り上げている。魔術壁が砕ける瞬間を感知すると、間を置かずに右手を振って光の鎖を正面の二人に巻き付けて拘束する。
二人が動けなくなると解った途端に、二人の奥から魔力の気配を感じた。仲間を目隠しに攻撃を放ってくるなんて、数ヶ月前の彼らにはできなかった方法だね。でも残念、それも想定内。私が教えた方法だから。氷の矢がワンテンポずつズレて三発、一直線に私の急所を狙ってくる。私はそれを敢えて右に移動して避けて──そのまま突きを繰り出そうとしている騎士に自分から突っ込む。私の動きが予想外だったのだろう、一気にグンと近づいてきたことに一瞬ギョッとした表情を見せた騎士は、すぐに気を引き締めブレた切っ先を修正する。……さすが、王宮騎士。私の心臓目掛けて繰り出される剣の側面に指先でそっと触れ、そこに魔力の種を押し付ける。巻き付け、と念じれば触れた部分を起点に蔓が生え、シュルシュルと剣の刃から柄、腕、と順番に這っていき、身体を雁字搦めにして動きを封じる。
これで三人目、残るは──。
私の視線は一点、後方に控えていた魔術士に向けられた。先ほど氷の矢を放った魔術士は、マイリーさん。彼女との距離は約十五メートル。これはマイリーさんの射程距離圏内だけれど、私にとっては生命奪取可能圏内である。何故なら身体強化魔術によって、一歩で詰められる距離だから。今も、ほら。片足で地面を蹴れば、すぐ目の前にはマイリーさん。慌てて間に障壁を作ろうと突き出した両手を、ふわりと優しく包み込み魔術を相殺する。ニコッと笑えば、ヒクリと頬を引き攣らせた。……何故だ、フレンドリーな笑顔だったと思うのに。内心膨れっ面になりながら、マイリーさんの身体も蔓で拘束する。ついでに可愛らしい小花も咲かせてみる。
呆然とした表情でパチパチと瞬きしながら、へたり込んだマイリーさんを見て、私はグッと拳を握った。
「〜〜〜大・勝・利っ!!」
天に向かってVサインを突き出し、勝利宣言をする。これで七戦連続勝利、順調に勝ち進んだ。どうですか、エナーシャ様。エナーシャ様がご見学にいらっしゃったので、リランは張り切りました! 貴女に相応しい文通相手になるために!(よく解っていない)
胸を張ってムフムフ鼻を鳴らしていた私は、そこではたと気がつく。……あれ、勝ち進んでしまった? 私が勝ち進んで良かった訓練だったっけ、これ? しかも今のは最速で終わらせてしまったのでは?
そこまで考えて、私は突き上げていたVサインをそろそろと下ろし、ギギギと油が切れた鎧よろしく首を回してサネルガさんを見る。彼は笑っていた──青褪めた顔で。幻の血が口から流れ出ているのが見える気がする。
あぁ…、そりゃ駄目ですよね…。この国切手の精鋭たちを、完膚なきまでに倒しているのを王族に見られるのは、そりゃあもちろんアウトですよね…。騎士団と魔術士団の評価と私への印象が、坂道を転がり落ちるとばかりに低く低くなっていきますよね…。馬鹿な私でも解ります、完っ全にやらかしました…。
私の運命決まったさよなら人生…、と遠い目をして落ち込む私の耳に、パチパチと小さな音が入ってきた。ホロリと零れ落ちそうな涙を堪えて、音のする方へと目線をくれると、そこにはキラキラと満月の瞳を輝かせて拍手をするエナーシャ様がいらっしゃった。
「凄い…凄いですわ、リランさん! あっという間に、たくさんの相手の動きを封じてしまうなんて…!」
「へ…?」
まさかの大絶賛という反応に涙は引っ込んだ。
「複数人相手に、多勢に無勢だと思っていたのだけれど、見事な魔術捌きで数の不利を圧倒されましたのね! どこにも無駄がない攻撃で、私思わず見惚れてしまいました…!」
「あの……エナーシャ様?」
「それに流れるような動きで攻撃を躱していく姿……胸の高鳴りが収まりません!」
「………えっと、」
恍惚とした表情で見つめられて、変な居心地を味わうことになるとは思わなかった。私の強さを見せつけるための訓練ではないのだけれど。訓練の主旨を履き違えていますなんて言えない。事実、私が勝利してしまっているのだから、「私は騎士団と魔術士団の人たちよりも強いですよー」と言っているようなものだ。……うん、これは非常にマズいぞ。特にあの護衛騎士さんへの私の印象が、悪化の一途を辿っているのが丸分かりだ。大変よろしくない。
そして何を思われたのか、すっくと椅子から立ち上がったエナーシャ様は、タタタタターッと私の元へと駆けていらっしゃった。
いやいや、待ってくださいエナーシャ様!? そんな満面の笑みでこっちに来られましても!? 後ろを見てください後ろ! 貴女の騎士が悪鬼の如く私を睨み付けているんですよ!
「本当にお強いのですね、リランさん!」
「王女殿下!」
汗と土で汚れている私の両手をヒシっと掴み、ズイズイとその尊きお顔を近づけてくるエナーシャ様に、私は「ひぃっ…!」と喉を引き攣らせた。エナーシャ様というか、その後ろから追い掛けてきた護衛騎士さんからのプレッシャーに恐怖を感じた。
やめてやめて、私このまま殺される! 今にも剣を鞘から抜いて斬り殺さんばかりの気迫で駆けてくる、あの護衛騎士さんに気づいてエナーシャ様ぁ!!
…なんて言えるはずもなく、身体を真っ二つにされること覚悟で、エナーシャ様にされるがままで両手を差し出す。絶世の美女に両手を包まれて死ねるなら、それもいいかもしれない…とか、思ったりしてないからね。
「………仲が、いいんですね…?」
己の命運を悟りかけていた私の耳に、ボソリと呟く声が届く。瞬間、ハッと我に返って声の方へ振り向くと、座り込んでいたマイリーさんがニコリと笑っていた。その笑顔が、……なんと言うか、本当に笑っていないような気がして。ゾクリと背筋を冷たさが撫でた感覚がしたのは、本能からきたものだとしか思えなくて。
「マイリー、さん?」
「気がつきませんでした。いつの間に、王女殿下と親しくなられていたのですか?」
笑みを崩すことなく喋るマイリーさんを拘束する蔓が、花が、少しずつ色を失い枯れていく。
その様を見て、頭の中で警鐘が鳴り響き、生存本能が危険信号を発して逃げろと叫んでいる。身体中から冷や汗が滲み出て、タラリと音もなく流れる。
「……いえ、これは、」
「王女殿下が訓練のご見学にいらっしゃるなんて、今までありませんでした。そこの彼が、“英雄”の称号を貰った時でさえも、一度もその姿をご覧にいらっしゃることはなかった」
そう言ってマイリーさんがゆっくりと立ち上がると、その動きに伴い枯れ草と成り果てた拘束具はパラパラと塵となって消えてゆく。制限するものがなくなった彼女を見て、私は背中にエナーシャ様を庇いながらジリジリと後退る。護衛騎士さんも警戒心を持ちながら、腰に佩いた剣の柄に手を掛け、エナーシャ様を守る位置についた。
「……私は、罪人です。彼とは立場が…」
「そう、罪人! 貴女は数え切れないほど多くの生命を奪った殺人犯だ! 国民のためにも手枷を着け、牢獄に隔離されていなければならない人物だ。……ああ、大量虐殺したのだから、処刑されていなければおかしい。なのにだ。王国を護る騎士団と魔術士団と戯れるなんて、況してや第二王女とそのように手を繋ぐなんてことは、あってはならないはずなのに…」
マイリーさんの様子を窺うように慎重に話すと、突然大きな声で、まるで舞台女優のような手振りで私を糾弾した。まるで彼女ではない別人格が話しているような──と、そこまで考えて、彼女の表情に見覚えがある気がした。
その、不気味なくらい愉快そうな表情と歪な口元に、脳裏を高速で過っていく記憶たちの、一番最初が呼び起こされる。最悪な可能性に思い至った途端、あの恐怖が蘇り無意識に手が震えた。ゴクリと喉を鳴らし、私は可能性を確認するために口を開く。
「貴女、マイリーさんじゃありませんね。誰ですか?」
「誰ですか、ね……ふふっ」
私の問いをその舌で繰り返すと、どこにおかしなところがあったのか皆目見当もつかないが、肩を震わせながら笑い出した。片手で顔を覆っているため、口元しか見えないけれど。声はマイリーさんのものなのだけれど。その、笑い方が──嗤い方が。可能性を確信に変えてしまうには、充分な判断材料だった。
『誰ですか、とは、随分他人めいた言葉じゃなあ?』
前髪を掻き上げてこちらを見るマイリーさんは、マイリーさんではなかった。
私は、その残虐さの滲んだ瞳を知っている。
私は、嗜虐さが籠もった嗤い方を知っている。
自分以外は取るに足らない、虫けら以下の存在だと驕る、その人物を。
にんまりと細められた視線に、身体が強張るのを知覚した。“彼女”から発せられる殺気に、カチカチと歯が小さな音を立てるのを止められない。後退っていた足が、地面に縫い付けられたかのように一ミリたりとも動かなくなっていた。
そんな私を見て、ニタリ、と“それ”は嗤った。
『久しいのう? 元相棒よ。また共に血の海を作ろうではないか』
その言葉を聞いて、恐怖は一瞬にして別の感情に塗り替えられた。身体中の血が沸騰したかのようにカッと熱くなった。
いつだって、平穏が崩れるのは突然だ。当たり前のようにあった日々が壊されるのは、奪われるのは、唐突で理不尽なのだ。




