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隣でカルガモが睨んでくる。
僕、何かしたっけ?
思い当たる節は特にない……いや、あった。
今日のお昼に悪戯を仕掛けたんだった。
悪戯と言っても、今日の会議が昼をまたぐから、みんなで食べる料理の一つに、
味を変える粉を混ぜただけだ。
あ、危ないやつじゃないよ。
そこらへんで売ってそうなレベルのよくあるやつ。
なんの味に変えたっかって?
見た目はシャケ弁当、中身は青汁味の魚にしただけさ。青汁味、僕自身は食べたことないけれど、多分美味しくはないと思う。
ちなみに無臭の青汁粉末って作れるんだね。
青臭くない食べれる葉っぱ(とても苦いらしい)を、この前、魔物の知人にもらったので有効活用してみた。
どうして僕が犯人だとばれているのかはわかないけれど、きっとそのことについて文句の一つでも言いたいから、睨んでくるのだろう。
確か、入れた弁当は一つだけでロシアンルーレット方式なので運が悪かったとしか言いようがない。
実はこの後の夕食に他の人たちの緑茶にも混ぜる予定なので、不公平じゃないんだ。
栄養もあるし、毒ではないので、仕事や任務に支障は出ない。
むしろ健康になる。
だから特に問題ないと思う。
会議が終わって早々に、カルガモはスタスタと僕のところまで歩いてきた。
僕は特にこれといった反応もせず、すっとぼける。
「あの、イルカさん」
同僚仲間なのにさん付けってよくあるのだろうか?
僕としてはなんだか距離があって寂しいと思うのだけれど。
「なぁに?」
「先ほどの弁当、何か仕込みましたね」
完全に疑問系ではない。確定されている。ひどい。
そしてそのカルガモの言葉に、会議室に残っていた数名の幹部が明らかに動揺した。
何、何があったの?って、
顔に出ている。
ちょっと面白い。
「カルガモちゃんがひっかかったんだね、青汁味のシャケ弁当」
「カルガ……私、メランコリーです。あれ、青汁なんですか、苦かったです。毒かと思いました。……もしかして、こういうこと、魔王様にもやってます?」
「この前、イチゴジャムを味噌汁に混入してみた」
「驚きや呆れを通り越して、畏怖します」
「僕、ただの人間だよ? 君の方が強いじゃないか」
僕は本当にそう思う。
だって魔族って、力は強いし、魔力量も多くて、魔素とかいう謎の物質まで感知できて、さらに種類によってはツノがあったり、飛べたり、竜になったり、色々できるんだ。
人間なんかじゃ比べ物にならないくらいすごい。
「僕はみんなのこと、とっても尊敬してるよ」
「尊敬してるなら、その下らない悪戯をやめてくださいね」
下らないなんて失礼だなぁ。
僕の生きがいなのに。
「ところでイルカ、この前偵察行ってもらった、あの町を、アシ…じゃないレヴィアタンと、タチ……っ、ベルゼブブ連れて破壊してきてくれないかな」
声をかけてきたのはクラゲだ。
彼もまだ会議室に残っていたらしい。
そして僕の呼び名が定着しつつある今日この頃。
いつかコードネーム的な何かとして使えればいいなと思っている。
いや、僕自身のは、コレが名前ってしているから、あまり意味がないんだけど。
それで?なんだったか。
ああ、そうだ。アシカとタチウオ連れて人間の町でどんぱちしてきて〜って話だった。
「いいよ。行ってくる」
居残り組のアシカが、俺が殲滅任務かぁ、久し振りだなって喜んでいた。
貴方、書類担当だもんね。
暴れ足りないんだよね。
もしかしたら、戦闘狂ってクジラの他にもいたのかもしれない。
「あっ作戦どうするの? やっぱり、アシカ?」
「いつまで人のことアシカ呼ばわりするんだ、イルカ。俺は、レ・ヴィ・ア・タ・ン。わかった。作戦は立てといて」
彼は生真面目な人なので、僕の微妙におちゃらけた雰囲気が嫌いなようだ。
でも、本名呼ぶの、慣れないし、もう数年の付き合いだから僕はこのままアシカと呼ぶ。
「タチウオは、脳筋だし、突撃かなぁ。……じゃあ僕は、逃さないように結界でも張って人間たちを閉じ込める係にでもなるかなぁ」
お土産に人間渡したら、魔王は喜んでくれるであろうか。