イルカの帰宅後騒動
イルカが帰ってきたと思ったら、半分くらい人間やめていた。
クジラが気づいて広めたその事実は一日もかからずに城内に知れ渡った。
だいたい一般の人間より少し多い程度の魔力だったイルカの魔力がいつのまにかとんでもないことになっていたのだ。幹部連中は嫌でも気づく。
本人は相変わらず魔力感知が苦手なようで首を傾げていたが……。
それはそうと、今まで人間であったことの方がおかしいイルカがとうとう人外に近くなったとあり、不可抗力であっても、きっかけとなってしまったリージャム……シャチは周囲のやつ(特にクジラと魔王)に理不尽に怒られた。
本人は未だに納得してはいないが、もうイルカがどこかのスパイだとか勇者側のやつじゃないかななんて考えてすらいないようだった。実際、イルカは勇者を毛嫌いしているので、合っている。
「おーイルカ。ほんとに魔力増えたなぁ」
廊下で絵の具を仕込んでいた僕に声をかけてきたのはクラゲだ。
「僕にはよくわからないけどそうらしいね」
僕は手元から目を離さずに喋る。実際変わったことなんて、他人に触られると悶え死にしそうなくらいくすぐったいのでバンダナを巻いていることくらいか。
ちなみにバンダナの柄はイルカ柄です。
異世界に合わないとかそういうことを言ったらいけない。だいたいクジラがくれたんだから身につけときたいよね。
色々考えながらも手元を動かしていると不意に言葉が聞こえた。
「もうお前、魔族でも良いんじゃないか?」
本当に不意打ちで、驚いて動けなくなったんだ。
人間って驚くと何もできなくなるんだね、初めて知った。
まるで僕の存在が認められているかのようで、嬉しくて、声も出ずに悶絶する。
ぱあっと一瞬走馬灯のようなものまで見えた。
今絶対顔が赤い。頼むから今の僕を見ないでほしい。
恥ずかしい。
「それは、嬉しいな」
顔をうつむかせて隠しつつ、なんとか返した僕に、幸運にもクラゲは気がつかずに廊下を歩き去っていった。
しばらく経ったある日。
「イルカぁ!!!」
魔王城のある一角。廊下に響く男の野太い怒号。
それとともに鬼ごっこの始まる気配を察知した僕は、鼻歌を歌いながら出来るだけ怒号から離れた場所に移動する。
最初は歩いていたけど、楽しくなって、スキップしてご機嫌になって、走る。
走っている最中前で書類を抱えたクジラとコバくんを見かけた。コバくんは今、クジラにレンタル中である。
「ヤッホー!」
声をかけながらも走り抜ける僕に、コバくんは手を大きく振って応えてくれた。
クジラはため息をつきながらも、苦笑いをしている。
遠くから僕のことを見ている新人兵士集団がちらりと目に入った。案内をされているらしい。顔見知りの魔族が先頭で案内をしている。
軽く手を振りつつ、方向転換して別方向に走り抜けていく。
僕は知らない。
新人兵集団に案内役が、何事もなかったかのごとくさらりとした顔をして、
「あれがこの職場の問題児さんです。多分、人間ですけど、幹部と同等のお方ですし、強いし、とんでもなく厄介なので気をつけましょう」
なんて注意を促していたことを。
ズダズダと急いだような足音が遠くの方から聞こえてくる。
あ、こっち向かってきている。
半分人間やめても、相変わらず魔族には敵わない。
「てっめぇまたやりやがったなぁ!」
「やあ、シャチ。これまた随分カラフルだね」
猛スピードでこちらに向かってくるシャチは、髪も服もまるで前世のどこかの国のお菓子みたくレインボーだった。
「お前がやったんだろうがぁぁ!!」
怒ってる怒ってる。
どうやら余程『絵の具シャワー』が気に入ったらしい。
次はアシカに仕掛けてあげようと思う。
未だに勇者と魔王の争いは無くならないし、人間も魔族も大量死しているが、今日も僕と仲間たちは元気です。




