イルカさんの後悔
イルカには少しだけ後悔していることがある。
昨日の悪戯をしたこと? (そしてクジラに殴られた)
紅茶に唐辛子を仕込んで魔王に渡したこと?(そのせいでアシカと鬼ごっこして最終的に玄関のシャンデリアにイルカが逆さまにされて飾られた)
それとも、魔族のマモンについて行ったこと? 軽々と人を殺して仲間にお土産として持って行ったこと?
どれも違う。
イルカは別に後悔していない。
全て自分で決めたこと、やったこと。
後悔しているのは前世のイルカ、入浜にとって、大きくて深くて、幸せだった昔々のこと。
僕は、死んだ。
なんで死んだんだったか。いくら考えても、僕には思い出せない。ただ、僕は、死んだことを深く後悔している。
大事な妹がいた。
僕が死んだらきっと大泣きして、混乱のあまり、僕のゲームを破壊する。きっともう粉々なんであろう僕の努力の結晶とデータが偲ばれる。
父がいた。
きっと悲しみのあまり猫さんの抱き枕と布団を涙で濡らして無言で寂しがるだろう。猫さんが強烈な腕力によりペシャンコになる未来が僕には見えている。
母がいた。
料理上手なあの人は、叫びながらお菓子を大量に作って暴走しているだろう。作った菓子を入れた袋を包装中に力加減を間違えて、粉々にしているだろう。
そして粉々の美味しい粉末がご近所に配られるんだ。
僕にはわかる。
僕が死んだ後の家族の混乱の末の行動が周囲の人々に迷惑をかけまくっていることが。
だから僕は後悔している。僕が死んだせいで周囲の人のSAN値がマッハでとんでいく。
「あぁー、なんで、入浜 海波は、死んだんだろう」
その日は晴れていた。
快晴の青空に向かって呟いたイルカの言葉を、魔族のクジラは確かに聞き取った。
魔族は人間より聴覚も優れているのだ。
(いりはま? …かいはって、人の名前か?)
死んだということは、それは故人の名。
人間の知人だったのか、それも愛着のある。
懐かしそうに目を細めつつ、普段は見せない儚げで不安げな表情をしたイルカに、クジラは戸惑った。
いつ、なんでとは聞けない。
こんな今にも消えてしまいそうな顔をするイルカにそんなかと言ったら、壊れてしまう気がした。しかしながら、その人間がいつの友人かは予想がつく。
イルカが魔王軍に入る前の、貴族だった頃の、だろう。
人間の中で、悪魔と避けられていたイルカにはさぞ大切な友人だったはずだ。
そんな友人が死んで、死因すら知らないのか。
「あーあ、あれもきっと、僕だったのに、僕の一部どこに行ったんだろう」
どこか残念そうに独り言を言ったイルカに、クジラはさらに首をかしげる。
僕の一部…?
いちぶ、一部。
死んでしまった、イルカの一部。
もしかして、その名は。
「そいつを僕はどこでなくしたのかな。」
いなくなった二重人格かな?
もう一人の自分。
二重人格とは、いってしまえば一人の人間の器に二人分の魂が入っているようなものだ。
実際は自分を防御するためだとかなんだとか、全然違うわけだが、まぁ、側から見れば、そんな感じだとクジラは思っている。
死んでしまった、なくしてしまった。ということは、消えてなくなったということ。もう一人のイルカはもう存在しないらしい。
ずいぶん昔、イルカの身元を調べた。人間のなかなか良いところの子供で育ちが良かったらしい。
本名は、イリージア・バニティー。
家ではおとなしく、礼儀正しい子供だとメイドが言っていた。
嘘だ。
おい、メイド。お前の目は、ビー玉か?
悪戯しかしないあいつが? 大人しい?
聞いた当時は、猫でもかぶっていたんだろうと思っていたが、もしや、それは二重人格だった『いりはま』じゃないのか?
ついでに『イルカ』を引き出したのってあのゾンビ、もしくは俺の殺気?
気づいてはいけないことに気がついたクジラ、SAN値チェックです。
クジラは忘れることにした。
答え合わせ
「どうして入浜海波(イルカの本名つまり前世の自分)は死んだんだろう。」
「あれ(前世の良心のある自分)もきっと僕だったのに。僕の一部(だった良心は)どこに行ったんだろう。」
「そいつ(良心)を僕はどこでなくしたのだろう。(多分前世だろうな)」
勘違い要素が足りない気がしたので少々追加しました。
多分彼らのこれからの生活には影響はない勘違いだったはず。




