イルカとクジラの昔話
「ねぇ、くじらー」
齢十歳の僕は見た目と全然違う精神年齢をしているのだけど、養父クジラには積極的に甘えたくなる。
「なんだ?」
クジラがいけめんな顔を近づけてくる。
かっこいい。
「今日ブカバクが僕のこと踏み台にしたのー」
あれは酷かった。まだまだ小学生の中盤くらいの体であるのにウシガエルよりふた回りくらい大きなカエル擬きが棚に登るための足場にしてきたのだ。
重かった。
今度から餌の量減らそうかな。
「そうか。じゃあ今度はやり返そうな」
そしてこの保護者、どうしてその発想になったのか。
もう少し慰めてくれてもいいんじゃないか。
僕はちょっとやさぐれたけど、クールな顔面に免じて許すことにした。
「イル、カ。何その格好」
あ、カルガモが部屋に入ってきた。
因みにこの部屋はクジラの部屋である。
僕はまだ子供()なので大人と一緒の部屋らしい。
黒と赤で統一されたいかにも高級です感溢れる家具や装飾に未だ慣れない。
今世の貴族の時の僕の部屋は白がベースの目がチカチカする部屋だったが、正直言って病院みたいで苦手だった。
でも子供なので勝手に部屋をいじれなくて、なかなか苦痛だった。
それで、なんだったっけ?
ああそうだ。服か。
「着ぐるみパジャマイルカバージョン」
ちょっと歩きづらいけど、なかなか可愛い。
「イルカバージョン」
カルガモは復唱しつつ微妙な顔をしている。
「似合う?」
その場でくるりと回ってみる。
カルガモは僕のことを凝視しつつ、一度頷く。
「うん、可愛い」
それは良かった。
「で?今気づいたんですけど。マモン」
「なんだ?」
「アンタまでなんちゅう格好してんですか」
「いや、イルカに頼まれたから」
クジラは今着ぐるみパジャマクジラバージョンを着用している。
見目のいい大柄のイケメンが子供が着るような可愛らしいデフォルトクジラの着ぐるみを身にまとっている。
僕は似合うと思っているが、確かに違和感は強い。
「頼まれたから……? かの戦闘狂も自分の子供には甘くなるんですね」
「俺のって、まあ。多少贔屓してる自覚はあるが、甘いってほどか?」
「甘いですよ。アンタ普通魔族の子供でも、『あ゛? 弱すぎるなお前』って顔とか態度とかいろんなもので表現して挙げ句の果てに無視じゃないですか」
「無視まではしてねぇよ、多分」
カルガモのモノマネがあんまりにも上手なので、僕はモノマネすごい上手ねーと拍手していた。
それに対してカルガモはありがとうって返事をしてくれたが表情は苦笑していた。
「で? その子どうする気ですか?」
「どうって…部下にする気だけど」
僕はクジラの部下になるらしい。
右腕と呼べるくらい強くなりたいなぁと思う。
「人間を、魔王の部下にするということですよ?」
「勇者を追い詰めるのが人間の元貴族って、面白いと思わないか」
「裏切るかもしれないですね」
「裏切ったら俺が仕留める」
なんか僕が裏切る裏切らないの話をしているので、僕はその話に集中している間に塩を大量投入したコーヒーを用意する。
「難しいはなしー? あ、これどーぞ」
話の内容をわかってないふりをしつつ、コーヒーを差し出す。
「あ、ありがとうございます」
カルガモは素直に受け取ったが、クジラは怪訝そうな顔をして受け取るのをためらった。
僕ならさっきの話も理解できると勘付いたらしい。
コーヒーをじっと見つめるクジラ。
カルガモはため息をつきつつコーヒーを一口。
口に入れた。
「ぐほぉっ!?!?」
そして大胆に吹いた。
クジラはそれを見てやっぱりかという顔をした。
「なっなんですかこれ!」
「コーヒー。大量の塩入り」
「イルカ、悪戯もいい加減にしような」
僕は翌日、朝食にキノコを大量に投入された。
酷い目にあった。




