38
イルカは魔族びいきの勇者嫌いだった。
勇者が魔王城の城下町に入ってきた。
警報は鳴ったし、城下町の人たちはみんなスカートをふわふわさせながら脱兎のごとく避難した。
勇者たちは既にボロボロだった、入口のトラップはきちんとは仕事をしていたらしい。
そして労力を使い果たしたような顔をしている。
町に入るのに勇気を使い切ってしまっているといいのだけど。
勇者たちは城下町の大通りでたむろっている。
僕は緊張しながらもそれを近距離から眺めている。
正確には茂みの中に入っている。
とても近い距離にいるのに彼らは魔力がただの人間である僕には気がつかない。
どうやら魔力の多い者にしか反応しない探知を行なっているらしい。
勇者たちの総勢は七人。勇者と聖女さんとお姫さん。それに加えて男が二人と人間だか魔物だかよくわからない小人が二人。
何君たち人間だけじゃないの?
そしてハーレムではなかったのか、ちっ。
武器は女子二人が杖。勇者と男一人が片手剣に盾。もう一人は斧。小人は勇者の胸ポケットに二人仲良く入っている。
なに、小人さんたちは恋仲なの?
心の中であれこれいいながら、彼らを眺める。
あ、動いた。
どうやら探索するらしい。
城下町では勇者侵入警報が流れているので一切人はいない。いたとしても、僕の呪いで襲いづらくなっているはずだ。大丈夫、僕は自分にそう言い聞かせた。
ちゃんと効いているといいんだけど。
「この街、本当に魔物がいるの?」
聖女が仲間に聞く。
「魔族や魔物の反応はありますー」
小人のどっちか判別がつかないけど、とにかく小人が返事をした。
間抜けな喋り方だなって思った。
「それにしても静かだねぇ」
斧の男が呟いた。
そりゃ静かだろう、みんな死にたくないもの。
かくいう僕も死にたくはない、が、一応魔王の幹部だ逃げられない。
コソコソ隠れながらついていってみるに、どうやら彼らは魔力に頼りきりの探知能力らしい。僕のトラップに面白いほど足を止めている。
ただギリギリのところで回避しているのが微妙にむかっとくるのだけど。
ふと、勇者以外の片手剣の男が震えていることに気がついた。
なに、なんか面白いものでもあったの?
会話に集中して耳をすませていると彼らの仲間もそれに気がついたらしい。
「どうしたんだ?」
勇者が聞く。
「いえ、なんか、見られている気がして、こう背筋が凍える感じが」
おお、鋭い。僕の目線に気がついたらしい。
ただ、ちょっと気がつくのが遅いんだよなぁ。
「やぁやぁ。勇者さまいらっしゃいー。魔王城へ行く前に体力全削りにしていかない?」
完全に気がつかれる前に先手必勝だ。
僕は飛び出てそう誘いながらも一番ひ弱そうなお姫さんをターゲットにした。
この前作った銃を構えて、ぱぁーん、と発砲してみる。
弾丸は大外れして壁にめり込んだ。
そこって僕が塗装したところじゃないか。
意外と外すもんだね。まぁ、慣れてないし仕方ないか。
勇者たちは戦闘隊形になっているのでそれを壊しに行く方針で。
「きっさま、何者だ! 魔族か?!」
斧の男が僕に叫ぶ。
何者だなんて、魔王城下町にいるんだから、君たちの敵ってことは確実じゃないか。
「さてさて、僕は何者でしょう?」
遊び半分に魔法で火の玉を飛ばしてみたり、上から滝見たく水を落としてみたりしてみる。
おぉ美女がずぶ濡れだ。
「ちょっとナニコレ!」
あ、聖女さんが文句言ってる。
勇者さんはクールだった。すぐに反撃しにきた。
剣で切り掛かってくる。
ナニコレ、速い。
人間、自分より強いものを見ると本能的に逃げたくなるらしいが、僕もそうだった。
なんか、こう。
オヤツ取られた魔王が仕返ししに来た時の寒気がする。
「やっべ、勇者こえぇ」
「戦う気が無いならそこを退け」
真面目な勇者さんは、僕にわざわざ逃げ道をくれた。
震えるお姫さんを肩に抱いているあたり、彼女候補はその子なのかな。
「できれば戦いたく無いけど、君たちが僕の家族殺しにかかってくるから無理」
ついでに言うと僕は勇者とか人間とか好きじゃ無いから逃がしたりしないよ。




