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イルカさんだよ。
なんの前置きもないけど、イルカさんだよ。
今、罠の回収が終わって、子コボルトくんを連れ歩きながら自室に戻るとこなんだ。
子コボルトくん、いい加減名前聞かないとね。
ただのコボルトだった時は、正直言って見分けがつきづらかったし、名前?コボルトくん、で通じたけど、今じゃ、あの子?え?コボルト?って聞き返されると思う。
え?名前ないの?魔物って名前つけないんだ。へぇ。
それは不便なので、名前をつけることにした。
よし、君はコバくんだ。
コバンザメからとってコバくん。コバンザメって確かクジラにひっついてるんだよね。
イルカにもひっついてくれるかもしれない。
ちなみになんでコバンくんじゃないかって言ったら、小判じゃ猫みたいだからだ。
ひゃっふぅ、かわいいねぇ。
いや、男の子だし、かっこいいの方がいいのかな?
「みてみて、いるかさまぁー。おれ、すごい?」
何かなって振り向くと、コバくんが宙返りしていた。
バク転したり、逆立ちで変なポーズしていたり、魔族の姿を楽しんでいるらしい。
よかったね、うん。
僕から見れば人狼から犬耳少年に変わっただけにしか見えないけど、いろいろとステータスが上昇しているらしかった。
僕よりも断然すごいし強そうだし、なによりも身体能力が高そうだ。
いいなぁと思う。
犬耳可愛いし、イケてるボーイだし……イケボ?あれそれだとイケてるボイスになってしまう。
美少年、そうか、美少年か。
「うん、すごいね」
羨ましいくらい、と僕が笑うとコバくんも笑った。
「じゃあ、これでもっといたずらして、いるかさまの役に立つね」
これじゃあまるで昔の僕だな。
昔の僕もクジラの役に立ちたくて色々頑張った、もちろん今でも頑張っている。
「それでね!」
何かを続けて言おうとするコバくん。
なあに、としゃがむ必要もなくなった僕が聞く。
さっきまでの勢いが嘘のように、彼は少しだけ口ごもってから、
「いるかさまのてき、ゆうしゃをおれがおいはらうんだ!」
なんて健気。
僕は思わずこの子尊いと呟いて天井を仰いだ。
両手でゆるっゆるの表情筋を隠すけど、ニヤニヤが止まらない。
何してるの、と首を傾げるコバくんに僕はまた笑いかける。
「追い払うなんて生ぬるい、こっちにもう喰らいつけないくらい痛めつけておかないと」
一生立ち直れないくらいぐしゃぐしゃに精神を破壊しないと。
戦って勝てないなら、戦わずして勝てばいいのさ。
わかりましたぁーとハイハイ手を挙げながら答えるコバくんに僕は聞いてみる
「うん、でもいいの? 僕の役にってことは僕の部下ってことでしょ? 自分で言うのもアレだけど、僕ってば結構外道だよ?」
「いるかさまがきちくなのはまえからだよ?」
僕はコバくんにどんな目で見られていたんだろう。
確かにまともな悪戯なんてした覚えがないんだけど。
そもそもまともな悪戯なんてあるのかな。
まともな嘘ならあるかもしれないけど。
とりあえず、コバくんには文字と言葉を教える。
僕は前世で言うところの中学生か高校生くらいの年齢だけど、コバくんの見た目年齢は十歳だ。この見目でこの喋り方は少し色々まずい気がする。いや、二十歳でこれよりはまだマシかもしれない。
ただ、喋りは問題ないんだけど、僕は書きは習い途中だ。カメかアシカに手伝ってもらおうと思う。
他の常識やマナーは僕が教えておこう。
僕は前世ではバリッバリの庶民だったけど、今世では貴族に生まれて魔王の配下として育てられただけあり、パーチーのダンスからテーブルマナーまで完璧だ。教えるなんて造作もない。
「いるかさまは、おれのこと、まぞくになっても、すき?」
どうやら僕が人間だから魔族になったら離れてしまうと思ったらしい。でも、魔族が嫌いだったら魔王城に住み込みで働いていないと思う、そもそもクジラと会った時点で悪霊退散とか叫びながら逃げて殺されていたとも思う。
「だいすき」
コバくんは照れていた。




