その9「子供と向き合えない親なんて、親としての価値を半分以上失ってると思う」
<昔は良かった>か~。個人的には懐古厨の戯言だと思ってるんだよな。
「…いきなり挑発的ですね」
そうか?。このくらい普通じゃないかな。
「でも昔の貴方では考えられないことです」
それはそうだな。でも、このくらいきちんと自分の考えを前面に押し出していかないと駄目だってことを学んだんだよね。他人に合わせすぎると自分を失うってね。
「それは…分かる気がします…」
だけど、自分を主張するのはいいけど、他人の存在を否定するのも駄目だ。自分が存在してるのと同じように、他人も存在してるんだから、その事実は認めなくちゃいけない。他人の存在を否定する者は、他人からもその存在を否定される。だって、誰でも存在し続けたいからね。自分の存在を否定しようとするものは、排除、つまり存在を否定することになる。ということは、自分の存在を否定されたくないなら、他人の存在も否定しちゃいけないのさ。
「そうかも、知れないですね…」
これは、清真も理解してることの筈だよ。自らの望みを叶えるためには、分家を初めとした自分と関わりのある者の意向も蔑ろにはしない。それが分かってるから、彼の意向は概ね上手くいってるんだと思う。
でも残念なのは、お前達に子供がいないことだな。もしお前達に子供がいたら、家を継がせるかどうかは別にして、きっといい親になってたと思うし。
「そうなんですか…?」
うん。子供を育てる一番のコツは、子供の承認欲求ときちんと向き合うことだってことも、私は学んだんだ。ここまでのことは実は、以前にも話した、同じように小説とか漫画とか、物語を創作する人間同士が集まってあーでもないこーでもないととりとめのない話を飽きることなくしてた時に、これが一番筋が通るんじゃないかなってことになった考え方が基になってるんだよな。だから当時の仲間達とは概ね共通認識になってると思う。
と、それは余談だったけど、とにかく今のお前達なら子供の承認欲求ともきちんと向き合えた筈なのにと思うと、ちょっと残念でね。
「そう言っていただけると、少し複雑です…私達は、子供を作ろうとしなかったわけじゃないですから…」
そうだな。でも清真は、もうその現実を受け入れてるだろ?。光代も。
「はい」
子供が出来るかどうかっていうのはある意味運任せな部分もあると思う。私はたまたまあっさりとできただけで。だからできなかったことを悔やむ必要も嘆く必要もないと私は思ってる。
「分かります。あの人も、そう言っていました」
だろうね。まあ子供を育てる話に戻すけど、やけに他人に対して承認欲求を向ける人間はたぶん、親にそれを満たしてもらえてなかったんだと思うんだよ。これは私自身にも当てはまるんだが、親に満たしてもらえなかった承認欲求を他人に補ってもらおうとして、他人に対していい顔をして認めてもらおうとしてたんだと思う。ただ私の場合はそれが行き過ぎて、自我を失う結果になったんだけどね。
「…」
だから私は、自分の子供達の承認欲求を満たすことを一番に心掛けてるんだ。だけどそれは決して子供の言いなりになるっていう意味じゃなくて、子供の話に耳を傾けるっていう形で可能だと思ってる。思ってると言うか、実際にそれでうまくいってるんだから、私的には確定情報だけどさ。
ただこれ、子供が赤ん坊の時からやらないと大変なんだよな。何言ってるか全然分からない頃から、話を聞く態度を見せるっていうのが胆みたいで、それをやっておかないと子供が親を信用してくれなくなるんだよ。
「こんな人に何を言っても無駄…みたいな話ですか…?」
そうそれ。光代も実感あるか。
「いえ…ただ今から考えると、父には何を言っても無駄だから何も話したくはなかったんだとは思います。でも、父は父で憐れな人だったとは思います……」
だよな。彼も結局、家を存続させるための道具として利用されただけだからな。それが分かるから、恨む気にもなれないか。
「私の場合は、それを考えることもできなかっただけというのもありますけど、おっしゃりたいことは分かります」
で、よくフィクションでは、子供が何かやらかした時、親が殴ったりひっぱたいたりして子供がはっとなる演出あるけど、あんなの現実ではまずないからね。大抵は逆に余計に怒らせるだけだよ。だって、こっちの話も聞かないで都合のいい時だけ親ぶって上から目線で何様のつもりだよってのが殆どだと思うし。
これってさ。会社の上司とかに当てはめてみたら分かりやすいと思うんだよ。普段から自分の話なんか聞きもしない上司が、自分が失敗とかした時にいきなり殴ってきたらどう思う?。って感じで。普通はそこで覚醒したり改心したり成長したりってならないよな。せいぜい<ふざけんな>で恨みに思うだけだよな。でもフィクションでは、極めて例外的に上手くいった事例のみを印象的に描く。まさにフィクションの功罪だと思うよ。
「ご自身もフィクションを描く側なのに、その発言は大丈夫ですか…?」
いいのいいの。フィクションは所詮フィクションだから。フィクションを真に受けて事件とか起こす人間を出したくないんだ私は。フィクションを真に受けて、子供は殴れば分かってくれるとか思って殴ったけど実際はそんな上手くいくわけなくてエスカレートして大怪我させたり死なせたりっていうのはあって欲しくないんだよ。ただ、フィクションであってもそれを作る人間は現実に存在する生身の人間だから、自身の経験とかによって得たものを織り込んだりはするし、そこを役立ててくれることがあるならそれは喜ばしいことだけどさ。
とにかく、身も蓋もない言い方をすれば、フィクションの大変盛り上がる演出は基本的に嘘。それは滅多に起こり得ることじゃないからこそ盛り上がるし奇跡と言われるんだってことは肝に銘じててほしいと思うんだよな。
「本当に身も蓋もないですね…」




