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その8「他人に幻想を抱きがちなのは分かるけど、無駄だと思う」

光代が<女性はこうあるべき>という、現代においてはほぼ単なる妄執とも言える思い込みの方に徹底的に押し固められたことで人間性を失い人形と化してしまったことは触れた訳だが、それって私自身の、世間に残る<女はこうあるべき><男はこうあるべき>という考えに対する反発が基になってるというのもあるんだよね。


だから光代がああなったのは、もちろん私の所為だ。光代の父やあの家の人間の所為じゃない。あくまでそういう役どころだっただけだ。


とまあ身も蓋もない話をしたけども、現実にそういうことがかつて、もしくは今でもあることは事実だと思う。さすがに、人形のような人間を作ったからって本当に人形のように体が老いないなんてことはフィクションの中でしか起こり得ないけどさ。


私は、そういうのが嫌なんだ。本人が自らの意思でそういう生き方を選ぶのは別にいいんだけど、それこそ生まれた時からそう生きることを押し付けてっていうのは、前にも言った通り情報を統制できない現在の社会においてはおよそ無理だし、強引にそれをしようとするとただのカルト集団になってしまうと思う。


それでね、光代´。訊きたいんだが、大和撫子ってどう思う?


「どう思う…ですか?。質問の意図が分かりませんが…?」


うーん、そうだなあ。何て言うか、大和撫子と言われて多くの人が思い浮かべるであろう、お淑やかで、控えめで、かつ聡明で、芯が強く、女性としての嗜みを完全に身に着けてる人間って、現実に存在し得るものかな?。っていう質問かな。


「…難しいですね。私は恐らくそういうものを意図して躾けられてきたのだと思いますが、今おっしゃられたようなものに自らが当てはまるかと言われると違う気がします」


それは、なぜ?


「そうですね…特に違うと感じるのは、聡明で、芯が強くというところでしょうか?。私は他人に求められた通りに反応するだけの人形にすぎません。自らは考えることをせず、必要とされているものを返すだけです。それには強さは関係ありません…」


だよなあ。僕が光代がどういうものかと考えた時にイメージしたのがまさにそれだし。生身の人間で、完璧な大和撫子のイメージを再現しようとすると、たぶん人形のように自我のない存在になってしまう気がするんだ。と言うのも、表面で分かりやすい部分は再現しやすくても、聡明とか芯が強いとか、何をもってそう言えばいいのかが曖昧なものについてはどうしてもおざなりになってしまうと思うんだよ。


それに人間って、個々人が持ってる能力は本当に人それぞれで、求められてるものを完全に再現しきれる人間なんてほんの一握りのもはや超常的な能力の持ち主だけだと思う。だから実際にそういうのを求めて躾けられた女性の殆どは、上辺をかろうじて再現しただけだと思うんだよ。


「そういうものでしょうか…?」


まあ光代はそんなことさえ考えないように育てられてきたから分からなくても仕方ないと思うけど、生身の女性と実際に接してると、大和撫子なんてのは幻想だという実感しかないよ。でも私は、それでいいと思ってる。いや、そうでない女性の方が魅力的だと思ってる。だから奥さんのことを好きになったんだし。


「……」


すまん。別に光代のことを悪く言ってるつもりはないんだ。だが、誰かが勝手に思ってる<こうあるべき>っていう型に生身の人間を無理矢理はめようとすると、大体どこかで無理が出て問題が起こるのは現実だと思うよ。


「私のようにですか…?」


そういうつもりじゃないんだけど、ある意味そうかな。それにさ女性って、こういう時代になったから厚かましくなったとか肉食になったとか思ってる人間も多いみたいだけど、私はそうじゃないと思ってる。歴史上の女性とかを見てても、その人間性とかを詳しく知れば知るほど、現代の女性と本質は何も変わってないとしか思えないんだよな。昔の女性は良かったとかなんて、女性の上辺しか見てこなかった人間の発言だと思うよ。


これは奥さんとも話してたことだけどさ、西洋人は日本の女性を虐げられてるとか不当に権利が制限されてるとか思ったらしいけど、それも結局上辺しか見てなかったと思うんだよ。女性が男を立てるようにしてたのは、要するにそれがうまく男を操る方法だっただけで、存外当時の女性達も強かで抜け目なかったんじゃないかなあ。むしろ現代女性の方が、昔の女性のイメージに影響されてそういうのを見失ってる気がするんだ。


それに、昔の男は男で、男であるというだけで戦に駆り出されたり、長男に生まれついたというだけで家の責任を負わされて自分の生き方を選べなかったりと結構不自由だった筈なんだよな。しかも、人質に出されたり切腹させられたりなんてこともあった。女性が男を立てて敬うという姿勢を見せてたのは、そうやって命を投げ出すことが男の役目だったから、せめて家にいる時くらいはっていう気遣いでもあった気がするんだ。


けど、現代社会ではそこまで命を懸けるような役目も少なくなった訳だから、当時ほども男を立てる必要も敬う必要もなくなった気はするよ。そんなこんなで、いろいろと文句を言う男は多いが、現代の女性の姿は私にとっては異様どころかこれこそ普通の素の状態だと思うのさ。


「そういうものですか…」


ま、これも私が個人的に思ってることだからあんまり真に受けてもらう必要もないけど、少なくとも私自身はこう考えてるおかげで無駄な軋轢を生まずに済んでるから、今ではそれだけ楽に生きられてるよ。それにそのおかげで、奥さんと出会えて結婚まで行けたんだし。


「結局のろけなんですね…」


まあそういうことかな。


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