その4「女と男の出会いなんて、事故みたいなもんだよ、事故」
光代の呪いの顕現である光代´(みつよだっしゅ)は、私以外の人間には見えない。触れない。気配を感じることもできない存在だった。こりゃ迂闊に会話したら完全にアウトだな。まあ声を出さなくても会話できるから、本当に声を出さないように気を付ければいいだけだし大丈夫だけどさ。
と、それはさておいて、今回は奥さんとの馴れ初めについて触れようかな。
実は、奥さんと付き合うことになったきっかけは、文通なんだよな。文通。これだけ言ったら文学少女辺りが喜びそうなラブロマンス的な話かと思うかもしれんけど、ところがどっこい、現実はそんなにロマンチックじゃないんだよ。
当時の私は、病み過ぎてる自分を何とか変えたくて、某情報誌の出会いコーナーの女性に片っ端から手紙を送ってて。その発想がそもそも病んでるとは思うんだが、あの頃はそれくらいしか思い付かなくてねえ。でも、大したもんでその中の何人かとは付き合うところまで行けたりしたんだよ。とは言え、病みまくった男が女性との付き合いなんてすぐに上手くいく筈もなく、ほんの数か月で破局してた。
それでも、それらの経験は私にとってはプラスに働いたようで、自分を相手に受け入れて貰おうと考えるんじゃなく、まずは自分が相手を受け入れることでその存在を認められるようになれば、相手も自分を認めてくれるようになるのではと思えるようになった。と言うよりはそういうことを思い出したと言った方がいいかも知れない。病む以前の私は元々そういう風に考えていた筈なんだよな。けど、無制限に相手を受け入れようとすることで、自分を主張することをしなくなって、何でもかんでも他人の言いなりになるのがいいみたいな感じになって自我が崩壊したんだと、今では思ったりしてる。
だから、その反省から自分を受け入れて貰おうと我を押し出すことにしたものの、今度は自分を主張しすぎて相手を疲れさせてしまったのだと思う。で、結局また相手を受け入れる方に舵を切ったんだけど、今度は何でもかんでも受け入れるんじゃなく、ここは譲れないという境界線を設けて、最初からその線は積極的に出していこうとしたわけだ。
そういう時に私が出した手紙に返事をくれたのが、奥さんだった。
最初の段階で相手の何でもかんでもを受け入れる<いい人>を演じるんじゃなく、自分はこういう風に考えてる、特に他人に言われても考えを変えたくない部分については最初っから出していって、それでも反応してくれた人で最後に残ったのが奥さんだったんだよな。だから奥さんの方からしたら、正直言って<何こいつ>っていう印象で何とか凹ましてやりたいと思ってたらしいけど、それでやり取りしてたら何だか楽しくなってきたらしくて。
そんな手紙でのやり取りが半年くらい続いたある時、奥さんにとってショッキングな事件があって…
それを手紙で打ち明けてくれた時、そういう苦しい事を打ち明けてくれたことが嬉しくて、相談してくれてありがとう、他の人が何を言っても僕はあなたを認めます。って送ったんだよな。それが付き合うことになる一番のきっかけか。奥さんがその時一番欲しいと思ってた言葉を一番いいタイミングで送ったのが私だったというわけ。
それで実際に会うことになり、先述の事件とは別で奥さんが一番コンプレックスに感じてた部分を私が難なく受け入れたことで、一緒にいることを心地良いと思ってくれるようになったんだよ。
「…それは、のろけというものですね…?」
身も蓋もないが、ああそうだよ。何か問題でも?
「いいえ、別に……」
何にせよ、そうやって奥さんと付き合うようになって、そっちの方が楽しくて、小説どころじゃなくなっていったっていうのも大きいんだよな。
「ですが貴方は、その前ですでに情熱を失っていたのではなかったですか…?」
確かに。奥さんとの出会いはとどめを刺しただけで、実際にはもうその頃にはほとんど書いてなかったのは事実だな。
まあそういうわけで、次回は二本目の投稿小説の話に戻ろうかな。




