その10「<タレント>の本来の意味は?」
今回は未来か~。しかも裏社会絡みだからなあ。さて、どうやって顔を出すかな。
「危険が伴うということですか…?」
平たく言えばそういうことだな。何しろ、暗殺とかを請け負う人間達だし。
「…会いに行くのは無謀ですね」
まあね。でも、そこは創造者である私と、光代の呪いの顕現であるお前とだったら、どうにでもなるけどさ。と言うわけで、二人して精神だけの存在として会いに行こう。
「行き当たりばったりですね…」
はいそこお、一言多いよ。とにかく出発だ。と言ってるともう時間も超えて、四本目の投稿小説の舞台へとやってきたわけだが、相変わらず辛気臭い街だな。
「ここは…?」
まあ、イメージとしては22世紀くらいのヨーロッパのつもりだったんだけど、どこかははっきりしてない。ただ、マフィアとかが普通にいる退廃的な感じだから、映画バットマンのゴッサム・シティのイメージも含んでるかも知れない。が、いずれにせよ女性が夜に一人で出歩くと無事に朝を迎えられないような街には違いないかな。私達はここでは幽霊のような存在だから関係ないけど。
「それでこれからどうしますか…?」
取り敢えず二人がいる筈のアジトに行ってみよう。もうタレントの仕事は引退してる筈だから、上手くすればそこで会える。
「タレント…?。芸能人の方ですか?」
いや違う。ここでの<タレント>は、違法に生み出されたクローン人間を表す隠語なんだ。基本的には遺伝子操作を受け、肉体的、精神的に改造を受けたデザインベビー的な側面もある。でも実際には、倫理面はともかく技術的にはそれなり設備さえあれば町の病院レベルで作り出すことも可能で、そのせいで裏社会と繋がりがある施設での粗製乱造が進み、しかもその殆どは表に出すことが出来ないから愛玩用や奴隷的な使役に使われてるっていうのが実情だけどね。
ま、遺伝子治療や培養技術の発達で、病気になったり駄目になった臓器なんかも、健康な細胞を体内で増やして置き換わらせることで再生させるから、臓器移植とかは既に廃れてて、臓器移植用の検体とかに使われないだけまだましかもしれない。
「…充分酷いと思います…」
分かってるよ、そんなこと。で、今回会いに行く彼女は、あるVIPを暗殺することを最終目標として作られたタレントだったんだ。
「…」
まあそのVIPと言うのが、ここの司法組織のトップで、マフィアとかの裏組織の撲滅に力を入れてる人物だったんだが、当然そういう人物は裏組織から狙われて暗殺の的になってたんだ。しかし彼は実に用心深くて警備も厳しくて、さらに自分の周りにいる人間全員に位置情報や生体情報を発信するチップを埋め込ませて、常時それをモニタリングして誘拐やなりすましを防止するという徹底ぶりだったから、何度も暗殺に失敗して裏組織もなかなか手を出せずにいた。
で、裏組織の連中は考えた訳だ。彼が最も油断して近付くことを許す相手は誰かって。そこで彼の娘に白羽の矢が立ったんだが、もちろん誘拐とかしたって位置情報はすぐに知れるし、殺せばその生体情報もすぐに伝わるから脅迫にも使えない。でも、ほんの一時だけ、娘を殺さず動きを封じて、位置情報も生体情報もそのままにした状態で娘のクローンを使った暗殺者を潜り込ませればという、遠大で回りくどい計画に、今回の彼女は使われたんだよ。クローンを作るための遺伝子の採取は彼女の主治医を買収することで行われた。
まあそんなこんなで、暗殺計画を実行に移す機会を待つ間に娘のクローンは暗殺者としての調整を受け、いよいよその時を迎えたんだよな。
そしてそれは、娘が怪我をして入院し、それが治って家に帰るという時に実行された。荷物に隠れて娘と共に家に侵入した娘のクローンは、買収された主治医に処方された痛み止めを兼ねた睡眠導入剤で娘が眠ると、娘に成りすまして彼に近付き、暗殺を成功させたんだよ。が、ここで致命的なハプニングが。娘は薬が十分効いてなくてうとうとしてただけで、自分の部屋から出ていく何者かの気配に気付いて目を覚まし、父親が暗殺された現場を目撃してしまったんだ。
ただそれでも、本来なら暗殺も成功したんだからここで目撃者となった娘を殺しても良かったし、そもそも暗殺者に仕立て上げた娘のクローンがどうなろうと使い捨てということでよかった筈なんだが、この時、<タレント>の最大の欠陥である、暗示や薬物による人格改造は、肉体の成長と共に効果が失われてやがて本来の人間性を取り戻すというのが、オリジナルの娘と鉢合わせることで発現、人間としての自我を取り戻したクローンは自分が何をしたのかを理解してしまい、その事実にパニックを起こしてその場から逃走、異変に気付いて集まったセキュリティも、タレントとして改造された身体能力と娘の姿によって翻弄、恐慌のままに街を走り抜けて、潜んでいたところを、マネージャーと呼ばれるパートナーが迎えに来て話は終わるんだよ。
「…最低ですね…」
そう言うな。こういうのもありかと思ったんだ。それにフィクションでは別にそこまで酷い部類じゃないと思うぞ。
「かも知れませんけど…」
その嫌悪感も分かるよ。むしろそう感じるのが正常だと思う。ただまあ、だからこそフィクションで人が人として扱われないことの苦しさや恐ろしさを伝えたいというのもあるんだよな。
「それは分かりますけど…」
とにかく今日は、その彼女に会いに来たんだよ。
「今日行くことは伝えたのですか?」
伝えたよ。伝えたけどさ。なにぶん裏社会の人間だからね。正直会える保証はない。
「そうなんですか…」




