溶け合う夜と、迫り来る違和感
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【第2部:完全反撃編】第13話をお届けいたします!
12話との重複を完全に刷新し、お風呂上がりの温かな素肌の温もり、濡れた黒髪から漂うラベンダーの香りと、ふたりで暮らし始めた日常の愛おしさを余すところなく描きました
一方、昼間の捜査で見せる二人の神がかった先回り行動に、係長の鳥居信一郎は激しい不審と焦りを募らせていき――。
密かに忍び寄る敵の監視網と、二人の甘く生々しい愛の体温をどうぞお楽しみください!
同棲生活を開始してから三日が過ぎた、
7月18日の土曜日の夜。
倉敷署での激しい緊張から解放された田中の部屋には、二人の生活の匂いと、どこか気恥ずかしくも甘やかな空気がしっくりと馴染み始めていた。
キッチンのガスコンロから立ち昇るのは、昆布と鰹節の効いた香ばしい和風出汁の香り。
エプロン姿の田中が手際よく三種の鉢に盛り付けたのは、夏野菜と鶏肉の煮物に、出汁をたっぷりと含んだふんわりとした出汁巻き卵、そしてカボチャのそぼろ煮。
「ん……っ、健人さんの作るお料理、どうしてこんなに美味しくて温かいんだろう……っ」
食卓を挟み、出汁の効いたお味噌汁を一口啜った村瀬いづみは、身体の芯から解けていくような幸福感に頬を緩ませた。
1周目では手料理を食べる前に田中を失い、2周目では焦りと猜疑心に追われて食卓を囲む余裕すら許されなかった。
時空を共に越えて辿り着いた3周目の今、こうして彼の手料理を味わえる一口ひとくちが、いづみにとっては涙が出そうなほどの奇跡に思えた。
昼間の一係執務室で見せる「冷静で厳格な先輩刑事」の顔から一転、甲斐甲斐しく手料理を振る舞う「オカン化田中先輩」の佇まいが、いづみにとっては愛おしくてたまらない。
「お前が美味そうに食べるから、作り甲斐があるんだ。事件捜査で身体も神経も磨り減っているからな。しっかり食べて精をつけろ」
黒縁メガネの奥の瞳を和らげ、甲斐甲斐しく大盛りのご飯を勧めてくれる田中。
彼女が美味しそうに箸を運ぶ姿を見つめる彼の表情には、厳格な刑事としての面影はなく、ただ愛しい恋人を慈しむ一人の男の温もりが溢れていた。
「あのね、健人さん。この事件が全部終わったら……二人で静かな温泉に旅行に行きたいです。事件のことなんかすっかり忘れて、朝から晩まで……ずっと健人さんに甘えていたいな」
「ああ、約束だ。すべての悲劇を未然に防ぎ、組織を叩き潰したら……お前の行きたい場所へどこへでも連れて行ってやる」
和やかな夕食を終え、二人で仲良く食器を洗い終えた後、いづみは先にバスルームへと向かった。
脱衣所のドアが開き、あたたかな白煙とともにラベンダーの甘い香気が狭いリビングへとなだれ込んできた。
胸元に一枚のバスタオルをきゅっと巻きつけただけのいづみは、濡れた黒髪にフェイスタオルを乗せたまま、どこか落ち着かない様子でそわそわと足を動かす。水滴を弾く白磁の素肌は、湯上がりの熱でほんのりと桜色に火照り、首筋から綺麗な鎖骨の窪みにかけて、細かな汗と雫が透き通る筋を描いて伝い落ちていた。
ソファーの前でドライヤーを手に待っていた田中は、そのあまりに隙だらけで無防備な立ち姿を目にした瞬間、黒縁メガネの奥で一瞬大きく瞳を揺らした。ゴクリと喉仏が激しく上下し、息を詰まらせる音が静かな部屋に鼓膜を叩く。
「あ……っ、健人さん、自分で乾かしますのに……っ」
「いいからここへ座れ。そのままにしておくと湯冷めするぞ」
低くかすれた声とともに、田中はいづみの細い手首を掠めるように引き寄せ、自身の両膝の間にすっぽりと収めさせた。背中越しに伝わる彼の太ももの強い硬さと熱量に、いづみの肩が跳ねる。田中はいづみの頭からフェイスタオルを包み込むと、壊れ物を扱うように繊細な手つきで、しっとりと重みを含んだ黒髪の水分を優しく押し拭っていった。
ブォーン、と低いモーター音が響き、頭皮に暖かな温風が届く。
日々の捜査と訓練で鍛え上げられた田中の無骨で少しざらついた指先が、いづみの黒髪の隙間にすっと差し込まれ、根元からサラサラと解き梳かしていく。彼の大きな掌が耳の後ろや首筋の窪みに触れ、指腹が肌を掠めるたび、いづみはあまりの心地よさと痺れるような熱に背筋をゾクゾクと震わせた。うっとりと瞳を細め、甘える猫のように無防備に背中を彼の胸元へと預けていく。
「ん……っ、健人さんの手、すごく暖かくて気持ちいいです……っ」
「お前は夢中になると、自分の身体のケアを後回しにするからな。これからは俺が毎日乾かしてやる」
「えへへ……なんだか、健人さんのお嫁さんになったみたいですっ」
無邪気な笑みを浮かべ、首をくいっと振り返って見上げてくるいづみ。その上気した唇と潤んだ瞳を真正面から受け止めた瞬間、田中は無言でドライヤーのスイッチを切り、黒縁メガネを静かに外してローテーブルへ滑らせた。
眼鏡を外した彼の素顔。そこには昼間の冷静沈着な巡査部長の面影など微塵もなく、一人の男としての抑えきれない濁った激情が、甘く重く揺らめいていた。
首筋から立ち昇るラベンダーの香気と、バスタオル一枚を隔てて背中にダイレクトに伝わる彼女の柔らかい体温。生地の上端から覗く可憐な胸元の傾斜と、露わになった生の素肌の熱量が、彼の理性のタガを瞬時に焼き切っていく。
「……いづみ」
「健人……さん……っ」
骨太な掌がそっと彼女の華奢な顎を包み込み、ゆっくりと上を向かせる。逃げ場を失った視線が交差し、そのまま吸い寄せられるように唇が重なり合った。お風呂上がりの瑞々しく熱を帯びた唇が触れ合った瞬間、熱い舌先がすっと滑り込み、深く深く絡み合う。じゅぷり、と湿った甘い水音が、二人だけの密室に生々しく響き渡った。
「ん……っ……ふぁ……っ」
甘い喘ぎが口内に閉じ込められる中、田中の大きな手が顎から首筋、そして胸元に巻かれたバスタオルの上端へと滑り落ちていく。熱を帯びた指先が生地の隙間からすっと差し込まれ、何ひとつ隔てるもののない生の素肌へダイレクトに触れ渡った。
吸い付くような柔らかい胸の起伏を大きな掌全体で慈しむように揉み込み、指先でくっきりと圧をかけながら、熱を帯びて愛らしく尖る桜色の頂を親指の腹でゆっくりと撫で愛でる。
「あ……ぁっ……!」
口づけの隙間からこぼれ出る切ない吐息と、胸元を直接愛でられる痺れるような刺激に、いづみは背筋を大きく弓なりにしならせた。その身体の跳ねと、彼女の腰をさらに強く引き寄せる田中の腕力によって、胸元できゅっと結ばれていたバスタオルの結び目がついに解けた。
はらり、と解けたバスタオルが、重力に引きずられるようにゆっくりと滑り落ちていく。
解けた黒髪が零れ落ちる華奢な肩口から、湯上がりでほんのり桜色に染まった白磁の首筋、そして深く浮き立つ綺麗な鎖骨の窪み。生地が胸元を通過した瞬間、先ほど田中の指先で愛でられ熱を帯びた桃色の頂とともに、隠すものなく露わになる。
さらに生地は、しなやかなウエストのカーブを滑らかな摩擦で撫で下り、うっすらと上気したおへその周りの柔らかなラインへ。そのまま女性らしい丸みを帯びたヒップから、しっとりと熱を帯びた太ももの内側、そして吸い付くような素肌の脚を順になぞるように滑り落ち、足元へと重く畳み込まれた。
スタンドライトの柔らかい橙色の光の中に、頭から爪先まで何ひとつ身につけていない彼女の艶やかな全身のシルエットが鮮やかに浮かび上がる。
田中はその姿を貪るような瞳で見つめ直すと、いづみの華奢な肩を力強く抱き寄せ、そのままベッドの上へと押し倒した。
「あ……っ……んっ」
ギシリとスプリングが沈み込むと同時に、彼女のしなやかな素肌のすべてが露わになる。上から覆いかぶさるようにして重ねられた田中のたくましい体躯の重みと灼熱の体温が、湯上がりの肌へダイレクトに押し包んだ。
田中の武骨な掌が、彼女の引き締まったウエストから滑らかな太ももの素肌へとなぞり落とされ、柔らかい肉感を愛おしそうに強く掴み上げていく。
「お前の湯上がりの肌の温もりに触れているだけで……胸が痛いほど愛おしくなる」
「ん……っ、触れてください……っ。私ッ、健人さんの熱い体温を感じている時が一番安心するんです……っ」
湿った黒髪がシーツの上に美しく広がり、ラベンダーの香気が二人の密室を満たしていく。
骨太な手が彼女の吸い付くような素肌を撫で上げ、柔らかな起伏から引き締まった腰回りまでを愛おしそうに包み込み、体温を噛みしめるように深く深く抱き寄せた。直に伝わる互いの生の体温と、トクン、トクンと激しく打ち鳴らされる脈動に、いづみは背筋を甘美に痺れさせ、そっと脚を擦り寄せて彼の背中に腕を回した。
「健人さん……聞こえますか? 私の心臓の音……っ」
「ああ……お前が今、俺の目の前で生きている証の音だ。この愛おしい鼓動を、俺は一生守り抜く」
耳元で囁かれる低い掠れた声と、首筋から綺麗な鎖骨へとなぞり落ちる熱い唇の感触。
過酷な嵐を越えて、今こうしてふたりで暮らす穏やかな日常を手に入れた奇跡。その圧倒的な愛おしさに、いづみの目元から温かな涙が零れ落ち、シーツへと染み込んでいった。
いづみは自らの細い腕を田中の首に固く回し、愛しい男の胸元へとおでこを預けた。すべすべとした湯上がりの素肌を彼の熱い肌にぴったりと密着させ、ふたりで暮らすこの部屋のぬくもりを全身で噛みしめる。
「健人さん……私を……ずっとこうして、ふたりで生きる明日へ連れて行ってください……っ」
「ああ……約束だ。お前を二度と一人にはしない。俺の命に代えても……お前を幸せにしてみせる」
重ね合わされた唇から漏れる熱い溜息。生の体温と湯上がりの香気、心臓の脈動のすべてを溶け合わせ、ふたりはこれから共に紡いでいく穏やかな日常と不滅の誓いを、互いの肌の奥深くへと刻み込んでいった。
窓の外で静かに更けていく倉敷の夜。ふたりで暮らし始めた愛おしい部屋の熱気は、朝が訪れるまで絶えることなく、どこまでも深くふたりを包み込み続けるのだった。
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週が明けた7月20日の月曜日。
倉敷警察署刑事課一係の執務室は、真夏の朝独特の蒸し暑さと、事件処理に追われる刑事たちの熱気で包まれていた。
午前11時。デスクに向かう田中と、その隣で捜査資料を整理するいづみ。
ふたりは私生活での甘い同居の面影を完璧に消し去り、冷徹で隙のない「プロの刑事バディ」として立ち回っていた。
「田中先輩。先ほど水島港周辺の資材置き場に関する防犯カメラの死角ログと、土地権利の移転履歴の突合が完了しました。やはり、事件当日の夜、特定の車両が複数回往復した痕跡が浮上しています」
「よくやった、村瀬。そのログの解析結果と関係者のリストを、正規の捜査ラインに乗せるための報告書にまとめろ。一切の落ち度がないよう、裏付けを固めるぞ」
「はいッ! 了解いたしました!」
ふたりは2周目の悲劇の記憶を完璧に共有している。だからこそ、鳥居や画廊『漆黒堂』のオーナー・鶴岡徳次郎が水面下で進めようとしている裏の悪事を、事前に完全に封じ込める先回り捜査を淡々と進めていた。
本来であれば数週間後に発生するはずだった大野木事件の芽や、裏金ルートの足がかりとなる重要証拠が、ふたりの水面下での手配によってことごとく未然に潰されていく。
(よし……っ! これで水島港の裏ルートは完全に塞いだ! 鳥居たちの身動きは確実に狭まっているはず……!)
いづみは胸の奥で小さくガッツポーズを作り、ペンを走らせた。
しかし、その完璧すぎる先回り行動を、奥のデスクから冷ややかな目で見つめている男がいた。
一係長・鳥居信一郎である。
鳥居は高級なスリーピーススーツの胸元に手をやり、陶器の湯呑みを握りしめたまま、微かに眉間を寄せていた。
(……おかしい。何かが狂っている……)
鳥居の脳裏に、不気味なほどの胸騒ぎと焦燥が渦巻いていた。
(なぜだ……? なぜあの真面目だけが取り柄の田中が、俺と漆黒堂の鶴岡しか知り得ない裏の動きや関係者の配置を、こうも完璧に先回りして押さえている……?)
鳥居たちが裏で極秘に進めていた地上げ工作や、証拠隠蔽のための特殊ルート。
それらは警察内部の人間すら把握していない、ごく限られた暗黒組織『とぐろを巻いた蛇』の手先だけが共有する秘匿情報のはずだった。
それにもかかわらず、田中といづみは、まるで未来の出来事をあらかじめ知っているかのように無駄のない動きで先手を打ち、証拠を固めてしまっているのだ。
(偶然……? いや、あり得ん。一度や二度ならず、全ての裏ルートの動きに対して完璧な先手を打ってきている。さらに……一見するとただの先輩と新米に見えるが、ふたりの間には言葉を超えた鉄の信頼と暗黙の呼吸が存在する……)
まさかふたりが過去の記憶を抱いてタイムループしてきたなどという奇想天外な事実を、鳥居が察知できるはずもない。
しかし、理屈では説明のつかないふたりの「神がかった先回り」と揺るぎない絆に対し、鳥居の直感は激しい恐怖と警鐘を鳴らしていた。
(あの田中……一体どこで情報を掴んでいる? どこかに情報漏洩の穴があるのか、それとも……拠点と思われる自分の自宅を中心に、秘密の作戦を練り上げて動いているのか……?)
鳥居の細い目が、冷たく不気味に光った。
(野放しにはできん。一連の不気味な先回り捜査を仕切っているのは、間違いなく田中だ。捜査の中心である田中の自宅、奴の行動パターン、接触者……すべてを監視下に置け)
鳥居は静かに席を立つと、手帳を開いて裏の連絡先へと短く暗号メールを送信した。
退勤刻限を迎え、公道での警戒を怠らずに時間差で署を後にする田中といづみ。
しかし、ふたりが何気なく向かう田中のマンション周辺へと、暗黒組織の手先や不審な追跡車両が密かに動き始めていた。
漆黒の監視網が静かに、そして確実にふたりを追い詰めるように狭まりつつあることを、この時のふたりはまだ知る由もなかった――。
第13話をお読みいただき、本当にありがとうございました!
重複を完全に刷新した第13話をお届けいたしました!
12話の情景とは一味違う、お風呂上がりの温かな素肌の温もりに触れる甘い髪乾かしと、ふたりで暮らす日常の愛おしさを噛み締める二人の絆を感じていただけましたら幸いです。
一方、昼間の捜査で見せる完璧すぎる先回り行動に対し、鳥居係長は「なぜあいつらは裏ルートを知っているんだ……!?」と激しい不審と不気味さを募らせ、秘かに監視網の強化を指示してしまいます。
次回第14話は、田中のマンション周辺に忍び寄る不審車両と、いづみの自室『核実験場』への命がけの緊急避難劇!
『忍び寄る黒い影と、パンドラの扉』をお届けいたします! 第2部序盤の怒濤のフィナーレをどうぞお楽しみに!




