三度目の開幕と、深夜の決死のパッキング
いつもお読みいただきありがとうございます! 【第2部:完全反撃編(第11話〜)】第11話をお届けいたします! 3周目の朝(7月15日)、すべての記憶と不退転の覚悟を抱いて帰還した田中といづみ。 昼間は隙のないプロの刑事バディとして立ち回りながらも、夕暮れの路地裏で見せる田中先輩の色気あふれるお誘いと、いづみちゃんの生々しくも愛おしい恥じらい(下着の不快感と葛藤)、そして自室での決死のパッキングを描いた開幕話をお楽しみください!
午前7時50分。夏の爽やかな朝光が倉敷の白壁の街並みを鮮やかに照らす中、倉敷警察署のエントランスを二つの影がくぐり抜けた。
青空のもと、黒パンツスーツの村瀬いづみと、その一歩先を歩く田中健人。
二人の佇まいには、警察署へ足を踏み入れた瞬間から、氷のように研ぎ澄まされた凛とした緊張感が宿っていた。
数時間前に阿智神社の境内と白壁の路地裏で交わした甘い約束の面影は、影も形もなく削ぎ落とされている。
カチリ、と手慣れた手つきで一係執務室の重いドアが開け放たれる。
「おはようございます」
田中の低く落ち着いた声が室内に響いた。いづみもすかさず、美しく無駄のない姿勢で後に続く。
「おはようございますッ!」
執務室の中には、すでに数名の同僚刑事たちがデスクに向かい、朝の事件ログ整理に追われていた。使い古されたパイプ椅子と紙の匂い、緑茶の香りが漂っている。
奥の係長デスクでは、スリーピースのスーツを着こなした鳥居信一郎が、湯呑みを手に穏やかな笑みを浮かべて振り返った。
「ああ、田中、村瀬。おはよう。今朝も早いな」
「はい。本日の管内巡回と捜査資料の精査の準備をしておりました」
田中は顔色ひとつ変えず、真面目で隙のない報告を返した。
彼らにとっては、この7月15日は一度きりの何気ない夏の朝に過ぎないのだから。1周目の惨劇も、2周目で犯した過ちと鳥居の隠蔽も、3周目へと時空を跳躍してきた二人の存在も、知る由もないのだから。
(――係長。あなたが裏で画廊『漆黒堂』のオーナー・鶴岡徳次郎と深く繋がり、暗黒組織『とぐろを巻いた蛇』の手先として何を企んでいるか……私たちはすべて知っています)
いづみは自分のデスクへ向かい、手帳とペンを整えながら、胸の奥で燃えるような誓いを新たにした。
2周目の裏帳簿、防犯カメラの位置操作、そして10日後に迫る大野木源造の事件――鳥居と鶴岡の悪意の網を、今度こそ完璧に先回りして完封してみせる。
「村瀬。本日の管内巡回スケジュールだ。事前に目を通して置け」
「はいッ! 了解いたしました、田中先輩」
捜査ファイルを広げる田中から書類を受け取るいづみ。その瞬間、二人の視線がほんのひと目だけ重なった。
黒縁メガネの奥の知的な瞳と、凛とした切れ長の瞳。二人の間には、不退転の意志が通り抜けていた。
今度こそ、鳥居や漆黒堂の仕掛ける罠を完璧に封じ込め、大切な人を守り抜く――。
こうして、プロの刑事バディとしての3周目の初日捜査が幕を開けたのだった。
夕刻。初日勤務を終えた二人は、時間をずらして署を後にした。
夕陽が美観地区の白壁となまこ壁を茜色に染め上げる中、古い土蔵の路地裏を静かに並んで歩く。
一係執務室の緊張感から解放された途端、二人の間には昨夜からの情熱と、互いを求める熱気が蘇り始めていた。
しなやかな長身の体躯を揺らして歩くいづみの横顔を、田中は愛おしそうに見つめた。
一人の男としての欲望が胸の奥で疼く。昨夜、自分の部屋で彼女を抱きすくめ、今朝も唇を奪い合った熱量が冷めやらないのだ。
土蔵の庇の影で、田中は歩調をゆるめた。白壁との間に挟み込むようにしていづみの立ち位置を塞ぐ。
「……村瀬」
「は、はいッ! 田中先輩……っ」
田中は周囲に誰もいないことを確認すると、いづみのほうへぐっと一歩寄り添った。黒スーツ越しに伝わる胸板の厚みと熱い体温。黒縁メガネの奥の瞳を甘く濡らせて声を落とす。
大きな手が、いづみの下唇に指先をあてがい、優しく撫で上げた。
「……今夜も俺の部屋に来ないか。」
ストレートで熱を帯びた誘いの言葉。一人の男としての濃密な色気。
いづみの胸が激しく跳ね上がった。
健人さんの部屋に行きたい。彼のたくましい腕の中に飛び込み、心も体も甘く溶かされたい――その欲望は切実なものだった。
しかし、次の瞬間、いづみの頭の中に激しい雷が落ち、表情が一変した。
(は、履いてきた下着……ッ!?)
顔面から血の気が引くと同時に、猛烈な不快感と恐怖が押し寄せてきた。
履いていたのは、タンスの奥に眠っていた生地の伸び切った古着のショーツだった。今朝もそのまま下着を着替えることなく黒パンツスーツを履いて出勤してしまったのだ。
さらに最悪なことに、本日の倉敷は炎天下の猛暑。朝から現場捜査で走り回ったため、下着は汗ででドロドロ。
極めつけは昼過ぎ、署のトイレ個室で何気にショーツを見たとき時だった。長年愛用しすぎて生地が限界まで擦り切れ、向こう側が透けるほど薄くなった中央付近に、小さな穴が開きかけていたのである。
「嘘、嘘でしょ……っ!?」
あまりのショックに焦ったいづみが、その薄々になった生地の穴を指先で恐る恐るちょんとつついた瞬間――ぽつり、と拍子抜けするほど簡単に指が貫通し、穴が見る見るうちに大きく広がってしまったのだ。
(あ、穴が……っ!!)
大好きな健人さんには絶対に言えない、死んでも隠し通したい惨状――それが、今まさに黒パンツスーツの下に収まっているのだ。
「こんなの見られたら、恥ずかしすぎて生きていけない……っ!」
もしこのまま彼の部屋へ行き、甘く濃厚な雰囲気に流されてスーツを脱がされたら――。
(嫌ぁぁぁッ! 想像しただけで生きた心地がしないよぉぉっ! もし健人さんの骨太な指先で黒パンツスーツをするりと脱がされ、そのまま昨夜みたいに甘く膝を割られて、あのゴムの伸び切ったヨレヨレのショーツに手をかけられたら……っ! 指先で膝まで滑り落とされた瞬間、穴の開いた生地があらわになって、『……村瀬、これは……?』って黒縁メガネの奥で彼が絶句し、困惑と哀れみの表情で固まる姿がリアルに脳裏をよぎるっ! 健人さんの前ではいつだって一番可愛くて綺麗な私でいたいのに、そんな汗くさくて惨めな姿を見られたら、恥ずかしすぎてその場で自爆して死んじゃう……っ!)
大好きな男の前で、不完全で恥ずかしい自分を見せる恐怖。乙女としてのあまりにも切実な自尊心が、欲望を吹き飛ばした。
「う、うあぁぁ……っ! 健人さん、あの、そのっ……!」
「どうした? 顔が真っ赤だぞ。」
田中が心配そうに手を伸ばしたが、いづみは真っ赤な顔で両手を振り回して叫んだ。
「い、行きたいですっ! 健人さんの部屋にすごく行きたいですッ! でもっ……私、今日は一日中走り回って汗でドロドロですし、お着替えも何もないんですッ! それに……っ!」
「それに……?」
いづみは耳まで真っ赤に染め上げ、必死の形相で情熱的な連泊宣言をぶつけた。
「どうせお泊まりするなら、明日から毎日ッ、ずっと健人さんの部屋にいられるようにしたいんですッ! だから今夜は自分の部屋に帰って、身支度をしてきますッ! 一週間分の綺麗な服も着替えもコスメも全部大きなバッグに詰め込んで、万全の準備で行きますからぁぁッ!!」
目元に涙を浮かべ、必死に想いを訴えてくるいづみ。
田中は呆気にとられた後、彼女のあまりにも可憐な恥じらいと愛おしさに胸を深く射抜かれ、ふっと肩を揺らして低く笑った。
「明日、大きなバッグを持って来い。……俺は部屋で待っている」
「はいッ! 健人さん……っ!」
ふたりは赤くなった顔を見合わせ、明日からの甘い同棲生活を心に固く誓って、それぞれの帰路についた。
午後九時すぎ。いづみは自分のマンションの階下を抜け、自室の鍵を開けた。
「た、ただいま……」
静まり返った自室。足を踏み入れた瞬間、いづみは絶句した。
視界に広がるのは、脱ぎ散らかされた服の山と、積み上げられたサバ缶の空き缶タワー。
世間には「優秀な新米刑事」として通っている村瀬いづみのプライベートの自室は、文字通りの『汚部屋』であった。
「ひえぇぇ……っ! 服がない! 健人さんの部屋に着ていく綺麗な服も下着もないよぉぉっ!」
パニックと歓喜が密やかに交錯する荒い吐息のなか、いづみは黒パンツスーツを解き放った。はらりと床へ落ちる生地の重みとともに、しなやかな肢体が真夏の濃密な熱気の中に露わになる。
そのまま逃げるように駆け込んだ浴室でシャワーの栓を捻ると、勢いよく噴き出した温かい湯が瑞々しい素肌を優しく包み込んでいく。湿った黒髪が首筋から綺麗な鎖骨へとしっとりまとわりつき、透明な水滴が張りのある胸の起伏から引き締まったお腹、そして滑らかな太ももの内側へと艶やかな筋を描いて伝い落ちていった。
自らの指先で湯を滑らせて肌を洗い流すたび、皮膚の奥に深く刻まれた健人の熱い体温と、慈しむような愛撫の記憶が鮮烈に蘇ってくる。
(あ……っ……ここも、健人さんの大きな手で優しく包み込まれて……っ)
首筋の窪み、豊かな胸の傾斜、力強く抱き寄せられた腰回り。彼の骨太な指先が優しく肌を擦り上げ、愛おしそうに焦らしてくれた痺れるような感触が、湯の温もりに溶け出して甘い疼きへと変わっていく。
しかし、ふと視線を落とした先にある素肌には、彼が熱く吸い付いたはずの赤い痕がない。そっと脚を擦り合わせても、初めて結ばれた時のあの微かな痛みの名残さえ、どこにも見当たらなかった。
(……そっか。私、今日の朝にタイムリープして、戻ってきたんだ……)
シャワーの湯に打たれながら、いづみは呆然と己の白い肌を見つめる。
あんなにも激しく、身も心も彼の色に染め上げられた記憶は脳裏に生々しく息づいているのに。今のこの身体は、物理的な時間を巻き戻ったことで、まだ彼に深く触れられる前の状態へと完全にリセットされてしまっているのだ。
(健人さんにいっぱいつけてもらった印、全部……なくなっちゃった)
記憶と現実のズレを肌で実感した瞬間、彼に与えられた熱を丸ごと奪われてしまったような喪失感が胸を突いた。
温かい水滴の筋が滑らかなお腹を辿り、密やかに熱を帯びた脚の付け根へと滑り落ちる。生々しい記憶と、傷ひとつない純潔なままの現実の身体との狂おしいギャップに、いづみは思わず「あっ……」と息をのんで背筋を弓なりにしならせた。
すべすべとした素肌を伝う湯の刺激と、身体の最深部からじわじわと解け出す重い火照り。心だけが先走って身体が置き去りにされているもどかしさが、いづみの足指をキュッと丸めさせ、濡れた空気に切ない溜息を漏れさせた。
湯を止め、さっぱりとした肌をバスタオルで包み込む。濡れた黒髪を拭いながら脱衣所のタンスを開けたものの、引き出しのなかは綺麗に空っぽ。着ていくべき服も部屋着も、すべて部屋の隅の「洗濯の山」の中だった。
「うぅ……これしかない……っ」
引き出しの奥から手探りで引っ張り出したのは、照れくさくて一度も袖を通していなかったネイビーのシルクキャミソール。
素肌の上へ直接それを被ると、つるりと滑らかな生地が胸のカーブに沿って落ちていく。だが、あまりに丈が短く、裾はおへその上あたりで無情にも止まってしまった。
そのまま鏡の前に立つと、滑らかな太ももの付け根から、ほんのりと影を落とすアンダーヘアの柔らかな起伏までがあられもなく晒されている。己のあまりにも大胆すぎる佇まいに、いづみはハッとして息を飲んだ。
「あ……っ……」
部屋の生ぬるい空気が、露出した下腹部から太ももの内側へと直接触れ渡る。その微かな刺激だけで、昨夜撫で上げられた熱の波が脳裏に渦巻き、いづみはたまらず両手で短すぎる裾を押し下げながら、反射的に膝を擦り合わせて小さく身を縮こませた。
一番奥の柔らかな場所を必死に隠そうと身をよじる。なのに、鏡越しに見えるその肌はどこまでも白く、誰の手垢もついていないかのように無垢なままだ。
(早く……健人さんに……昨日みたいに……っ)
記憶だけが熟れきっているのに、身体は純潔なまま。いづみは切ない吐息を漏らし、羞恥と熱情でいちごのように顔を真っ赤に染め上げた。
……だが、鏡の前で一人、勝手に奥を疼かせている場合ではない。明日は彼と過ごす大切な日であり、持っていく服を今すぐ準備しなければならないのだ。
深みにはまりそうになる甘い思考にハッといづみは我に返ると、ぶんぶんと首を振って鏡の中の自分から無理やり目を逸らした。
「だ、だめだめ……っ。こんな格好してるから、変なことばっかり……っ」
ぱたぱたと両手で火照る頬を仰ぎ、いづみは己の情欲を誤魔化すように声を上げる。
「と、とにかく洗濯っ! なんでこんな服しか残ってないのよぉ……っ」
いづみは明日持っていく服を確保するため、意を決して深夜の大洗濯を開始した。
脱水を終えた服の山を床に置き、狭い自室でコンセントにドライヤーを差し込む。
片手で濡れた服を広げ、もう片方の手でブォーンと強い温風を吹き付ける。服に当たって跳ね返った生ぬるい風が足元からふわりと巻き上がり、キャミソールの境目から入り込んで、あらわになった素肌を直接撫で回すように通り抜けていく。
服の向きを変えようと腕を動かすたび、短い生地がゆったりと揺れ、ふいに片方の肩紐がはらりと滑り落ちた。
「あ……っ……もう、滑り落ちないでよ……っ」
両手が塞がっているいづみは、ドライヤーを持ったまま慌てて肩をすくめ、二の腕でずり落ちた紐を挟み込む。そのぎこちない動きのせいで、胸元のシルク生地が大きく斜めにずれ、瑞々しい膨らみがこぼれそうに揺れてしまう。
布の端が擦れる微かな刺激や、自身の腕が火照った素肌に触れる柔らかな感触。その些細な摩擦すらも愛でられた記憶を呼び覚まし、いづみは背筋を甘く痺れさせて足指をキュッと丸めた。
(健人さんの手、ここも……あんなに優しく、撫でてくれたのに……っ)
跳ね返った温風が太ももの内側を掠めるたび、まっさらな身体の奥から、昨夜をなぞるような重い熱気がじわじわと滲み出していく。
やがて、秘めやかな場所の奥深くで熱く滲み出た甘い潤いが、キュッとすり合わせた太ももの内側に微かなぬめりとなって伝わってくる。
(あ……っ、だめ……ただ風が当たっただけで……濡れ、てきちゃってる……っ)
まだ彼を知らないはずの身体が、記憶の快感に引きずられて勝手に疼き始めている。己のいやらしさに、いづみは羞恥で顔を限界まで赤く染め上げた。
「健人さんに可愛いって思われたいし……っ! 綺麗な勝負下着で抱きしめられたいもんっ!」
熱い吐息とともに、いづみは身体の奥から生じる微かな水音を誤魔化すように、滑りの良くなった太ももを深くすり合わせながら、服を乾かす手を急がせた。
大型トラベルバッグのとなりに忍ばせたのは、密かに用意していた繊細なレースの勝負下着。手にとるだけで指先が微かに震え、彼の体温の刻印が胸の奥を激しく突き上げてくる。ラベンダーのボディミストやスペアの靴下を丁寧に詰め込み、ファスナーを静かに閉め切った瞬間、緊張の糸が切れたようにいづみはベッドの上へと倒れ込んだ。
蒸し返す真夏の夜気と、自らの底から溢れ出す甘い火照りに耐えかね、いづみは華奢な肩へ指をかける。
細い紐をすっと滑り落とすと、吸い付くようだったネイビーのシルク生地が、火照った素肌を滑らかな摩擦で撫で上げながら頭から脱ぎ捨てられ、はらりとシーツの上へ落ちていく。
暗がりの中で艶やかに浮かび上がる、美しい佇まい。
生々しく解き放たれた素肌がひんやりとしたシーツへ直に重なり合った瞬間、背筋をキュッと甘い痺れが駆け抜けた。身体の奥から溢れ出す火照りと、彼の痕跡がすっぽり抜け落ちてしまった純潔さへの所在なさを抱え、いづみは冷たいシーツをぎゅっと抱きしめた。
(ん……っ……冷たいシーツの肌触り……どこか健人さんの大きな手のひらに包まれているみたい……っ)
切ない疼きに耐えかね、いづみは自らの手で、胸元へゆっくりと指先を這わせていく。
激しく、けれど壊れ物を扱うように優しく揉みしだかれた柔らかな起伏。その記憶をなぞるように自身の胸を包み込み、熱を帯びて小さく尖る桜色の頂をそっと指の腹で弾く。だが、自分の細い指では、彼が与えてくれたあの重厚な熱は決して満たせない。
(健人さん……っ、あ……っ……触って……ほしい……っ)
引き締まったお腹からしっとりと汗ばんだ腰回り、太ももの素肌へとゆっくり指先を滑り落としていく。
先ほどからじわじわと滲み出していた熱い雫は、今や限界を迎えていた。閉じた太ももの内側はすでにしっとりとしたぬめりを帯びており、そこへ自身の指先が触れた瞬間、いづみは「ああっ……」と甘い鼻声を漏らして背筋を弓なりに反らせた。
(明日になれば……明日からは、ずっと一緒に居られる……。朝も、夜も……思いっきり愛してもらえるのに……っ!)
明日への膨れ上がるような歓喜が、今の狂おしい疼きをさらに加速させる。記憶の中の彼は、あんなにも激しく、奥の奥まで私を暴いて満たしてくれたのに。
いづみは、完全な素肌の上をなぞり、密やかな熱が渦巻く境界線へと手を這わせた。彼がつけてくれたはずの印を探すように、そして、彼の熱い指使いを幻視するように、最も過敏な柔らかなひだへと自らの指先を滑り込ませる。
「んんっ……はあっ、健人、さん……っ、あ……っ」
彼を呼ぶ掠れた声が、真夜中の自室に切なく溶けていく。
指先が微かに動くたび、記憶の中の彼の低い吐息と、激しく重なり合った唇の感触がフラッシュバックする。身体はまだまっさらなはずなのに、内側から溢れ出す甘い蜜が指を濡らし、いづみはシーツを強く握りしめながら、波のように押し寄せる快感と切なさに身をよじった。
「早く……全部、……っ」
もう収まりのつかない熱い疼きを一人きりのベッドで慰めながら、明日から始まる二人だけの甘く濃密な日々に胸を焦がす。彼女の決死のパッキングの夜は、深い吐息と甘い余韻のなかで、優しく更けていくのだった。
第11話をお読みいただき、本当にありがとうございました! 3周目の初出勤で見せた凛としたプロ刑事の顔から一転、夕暮れの路地裏で見せる生々しく可憐な恥じらいと、大好きな健人さんとの明日からの同居のために自室で大パニック&決死のパッキングをするいづみちゃん!
昨夜お風呂上がりに履いてそのまま出勤した古着ショーツと猛暑の汗泥、そして明日からの同棲への健気な準備という生々しい乙女心と、オトナモードな部屋着で汗だくになってパッキングする限界ギリギリの可憐な色気を感じていただけましたら幸いです。
次回第12話は、いよいよ大きなトラベルバッグを抱えて田中の部屋へ! **『秘密の同居開始と、夜の熱気』**をお届けいたします! エプロン姿の「オカン化田中先輩」の手料理と、ふたりだけの甘く濃密な夜の熱気を存分にお楽しみに!




