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恒星間艦隊vs魔法王国 −2つの文明の相克−  作者: 林海


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第27話 総取りするための投資


 難題に黙ってしまった大将軍フィリベールに、声が掛かった。

「割り込む非礼をお許しくださいませ」

「マリエット、内務省として案があるのか?」

 フィリベールの声に期待がにじむのは仕方のないことだったろう。


「財務省のパトリス殿と協議が必要な具申ではありますが……。

 アニバールが独立国家であるにしても、はや、手つかずの空白地帯であることは変わりませぬ。天からの大岩の件がなければ、すぐにでも周辺国がなだれ込んで草刈場といたしていたはず。

 そんな中、ゼルンバスはまずは軍を用いる必要のない、目立たぬ経済からの切り取りをいたしてはいかがかと。

 例えば、金を献上した商人、工房等には、ゼルンバスとの間の関税を免除する証紙を出す、と」

 その案に、玉座の間がざわめいた。


「なるほど、それは良い。

 関税を免除し、1つの経済圏としておけば、近い未来の併合も上手く行こう。その上で金も手に入るとは、な。こちらの人口の方が多い以上、市場はこちらの方が大きい。参入したい者は多いはず」

 パトリスが感嘆の声をあげた。


「マリエット、その際に予想される問題は?」

 と、王が聞くのにマリエットはすらすらと答える。

 おそらく、この質問を予期していたというより、頭の中で制度の組み立てが出来上がっているのだろう。

「アニバールと競合する、繊維・衣料関係の国内での衰退となりましょうか。

 これについては、新たな取り組みをする職人、工房には5年間の援助の下賜金をもって、その対応とすればよろしかろうかと」


 王は再びパトリスに視線を向けた。

「パトリスよ、繊維・衣料関係以外にも、問題あらば下賜金の対象とせよ。

 この際だ、貨幣の発行も大幅に増やせ」

「しかし、それは……」

 パトリスの顔は、不満と心配を混ぜ合わせた思案顔になった。

 経済の責任者として、通貨供給量(マネーストック)の無責任な増大はできないと思っているのだ。


 そこへ、マリエットが軽く笑い声をあげた。

「パトリス。

 アニバールの通貨を駆逐せよと、王は申されているのだ。

 アニバールからの輸入に対し、支払う対価はゼルンバスの貨幣のみでよい。

 そして、アニバールの王族を刻した貨幣はもはや作られることがなければ、彼の地に流通するアニバール貨幣はその価値を減じ、遠からずすべてゼルンバスの貨幣に取って代わる。

 これは、ゼルンバス以外の国にはできぬことぞ」


 それを聞いたパトリスは、思案顔になった。

「ただ、貨幣とはその国に根ざすものにして、愛着があるもの。

 ゼルンバスの貨幣がなだれ込むことが、そのままゼルンバスへの反感を呼ぶものとならなければよいが……」

「それこそ、宣撫の隊の出番であろう」

 と、再びフィリベールが声を上げた。


「密かに両替商に手を廻し、貨幣の価値を固定にしてしまえばよい。

 明らかにゼルンバスの貨幣の方に価値があれば、市井の民はあっという間に愛着など捨ててしまうものよ。

 悪君の顔の刻された貨幣が、叩き潰されて流通するのだからな。愛着など、目に見える実利と天秤にかけさせられれば、結果は見えておる」

「なるほど、それには一言もござらぬ」


 ここで再びマリエットが言を引き継いだ。

「彼の地でゼルンバスの貨幣が流通しておれば、先々アニバールを併合する大きな理由となりましょう。

 まぁ話を戻せば、乱暴な論ではありますが、市井の規模が倍になれば貨幣量も倍でよいかと。物の値が上がりすぎる心配は不要ではないかな、と」

「なるほど。

 非才の身にも、ようやくわかり申しました。

 王が、魔素の吸集・反射炉の新設をお約束されるわけだ。

 先々、全て戻ってくるのでございますからな。

 となると、さきほどの海を挟んだ南の国、カリーズに対する魔素の吸集・反射炉の新設も……」

「そこまでは言うまいよ」

 パトリスを制し、発した王の言葉に玉座の間は軽い笑いに包まれた。


「司法省ルイゾン。

 これらのこと、従来の法にそって、整理をしておけ。

 足らなければ、新法による裏付けが必要となろう。その準備を急げ。

 さらに、我がゼルンバスの法とアニバールの法を比較検討し、こちらの考えから付け入る隙があるか、これから行われるであろう裁判で下される判例の予想も作り、確認しておけ」

「御意。

 ゼルンバスの法とアニバールの法の比較表は、すでに完成しております。

 マルーラの法学院で、すり合わせも始まっておりますれば、近日中にご報告できることもあろうかと思います」

「こいつめ、余の心を先回りして読んでいたな」

「もともと、学友でございますれば」

 再び、玉座の間は笑いに包まれる。


「パトリス、まずは必要な経費につき、国庫だけではなく、王室からの出費を認めよう。

 10年の総計で返してもらえれば良い」

「ははっ!」

 パトリスは王の言葉に頷き、後ろにいた2人の書記は大車輪でペンを動かし続けている。

 この深夜に別件で集められたのに、ここまでの仕事を背負い込むとは思っても見なかったであろう。


「だが、まぁ、先走っても始まらぬ。

 とはいえ、天からの敵、他の星からの敵を想定することとなれば、この星も一つにならねばならぬ。そうでなければ、星の世界の戦に生き延びていくことはできまい。

 皆、これからも頼むぞ」

「身命を賭しても」

 大将軍フィリベールが答え、皆が唱和した。


「まぁ、なんとしても、受けた()は返さねばだからの。

 なんとしても、だ」

 王の口元を歪めての皮肉の言葉は、迫力に満ちていた。

「御心のままに」

 各省の長が、さらにそう唱和した。


 王は再び口を開く。

「では、これで後顧の憂いは減ったものとできよう。

 ならば……。

 モイーズ伯に伝えよ。

 コリタスの都市、バーニアへの天の大岩を防ぐことにつき、変更はないと」

「ははっ」

「そして、今の話の概要もモイーズ伯に伝えよ。

 コリタスの王に対し、上手く働いてくれるであろう。また天眼通アベルの弟子に、大岩につき念入りに見ておけと伝えよ。

 アベルにこれ以上荷を背負わしてはならぬからな」

「御意」


 夜が白々と明け始める中、王の命令書はモイーズ伯の泊まる宿に送られていった。

誰も、負けたときのことは口にしないのです。

いや、できないのです。

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