【番外編】その時世界は壊れて
ボクの名前は蒲田万寿秀。
テレビでよく見たことあるだろ?そう、先週もアサナマに出たし、≪そこまで語らせて委員の会≫や≪隊列のできる相談所≫にもよく呼ばれるよ。
永田町のプリンスだとか、日本民政党のホープだとか、よく言ってくれるさ。そうそう、あの政界のハニカミ皇子だよ。ありがとう。サインならあとでするよ。うん。ははは。
ボクは27歳から衆院議員をやっててね、去年の総選挙で5回目の当選をしたんだ。で10年前に恩田総理の娘を嫁にもらった縁もあって恩田政権の3回目の改造内閣で筆頭官房副長官になったんだ。まさに出世コース。ドンピシャだ。
次の総裁選で恩田総裁再選ってなれば間違いなく次は大臣ポストだ。だったんだよ、そう。だったんだ。
あれが起こるまではね。
まずはボクの日記を見てよ。
3月30日(金)17:00
参院予算委員会の今日の質疑が終わる。
先週から財務省の公文書改ざん問題が表面化して内閣支持率は急落し、野党はさらに攻勢を強めている。
こりゃかなりヤバイことになった。
絶対、あの志破田さんの策略だと思ってる。次の総裁選に出る気まんまんだしね。
ボクは「官僚組織の建て直し、自浄作用をしっかり官房副長官の私の責務としてね。果たしていきたい」ってコメントしたんだ。自分に火の粉が飛んでくる前に他人事にしちゃう。これは政治家の鉄則だよね。
その日のニュースの1面は予算委員会での集中審議の様子。そして全国的に新型のインフルエンザに似た症状の疾病が流行の兆しを見せていることが夕方のニュースの4番目に報道されたんだ。
31日(土)未明
スマホがウィーンウィーンと震えている。丹羽官房長官からだった。
「蒲田くん、今どこにいる?」
「都内某所です。」
まさか愛人と赤坂のホテルにいるなんて言えない。
「まあいい、緊急の会見をするから官邸に入るように」
なんて知らせなもんだから、内閣総辞職かと思って心底あせったよ。
官邸では普段あまり見ない厚生労働省の職員と官邸付きの職員がワタワタ忙しそうにしていて、そうこうしてたら、河東厚生労働大臣が首相官邸に入ってきた。
緊急の総理・官邸・厚労の三者で、「突然変異のインフルエンザ」についての会議がはじまった。オレは総理と官房長官の後ろひかえている。スーツでホテルに入っててよかったよ。ホント。
インフルエンザと類似した症状を見せていた患者が相次いで重篤な症状を見せていることが報告された。すでに死者は150人を超えたらしい。
また併せて一部では高熱を発したのちに急に自己抑制がきかなくなり噛みつきなどの異常行動がみられるとの報告もなされた。
-ようするに熱で頭がおかしくなっちゃって暴れるってことだね。
恩田信明内閣総理大臣は河東厚生労働大臣を部長とする「緊急対策チーム」を創設を了承した。ボクは対策チームの事務局次長になるから記者会見とかにも出るらしい。これでボクのマスコミ注目度はうなぎ登りだね!
31日(土)9:00
恩田総理大臣は緊急閣僚会議を招集。世界同時多発的にインフルエンザとの類似の症状の拡大がなされWHOも緊急対策チームの設置の動きがある事が厚生労働省佐々木健康局長より報告された。
政府は蒲田官房副長官が会見を行い、国内においても全国各地の救急指定病院にて同疾病の疑いがある患者が急増していることを受け、『厳重警戒』の発表を行うことを決めたことが報告された。
ちょっとしか寝させてくれなかったよ。
眠たいよ。だけどね、記者会見、バッチシカッコよく決めちゃうよ。
記者が「今回の感染症はインフルエンザのようなウィルスでは無く回虫によるものであるとする研究機関がありますが」なんて質問されたけど、そんなのわかんねーよ。
「現在厚生労働省健康局が中心として原因究明に全力をあげております」
って答えといた。
同 12:00 WHOは同疾病『かみつき症』を―重症急性回虫型脳症(Severe Acute Ascaridida Encephalopathy)であると発表。
同13:00 丹羽官房長官が緊急記者会見を行う。SAAEに対し『厳重警戒』を発表。厚労相名において、疾病発病の疑いがある患者は、指定医療機関以外での受診を禁止すると発表。記者会見では首相夫人の学校法人に対する国有地売却に関する質問が多く出されるが、長官は「重症急性回虫型脳症の流行を受け緊急に対応しなければならない」ことを理由に質問には答えなかった。
やっぱり回虫だったんだ…。怖いねえ。体の中で一気に増殖するんだって。気持ち悪いねえ…。
しかしWHOが発表しちゃったことで丹羽官房長官に株を奪われてしまった。オレの陰が薄くなってる気がする。
同14:28 林副総理兼財務大臣が「かみつき病がでたからね。公有地売却問題は棚上げだよ。今は病気の方がなにより大切だからね」と発言し、政権延命のためにSAAEを利用するかの失言に批判が集中した。最大野党民望党 竹田代表は「内閣不信任に値する」と反発した。
またこの財務大臣はよく口を滑らす人だなあ。また支持率下がっちゃうよ。野党にも付け入るスキを自分から与えちゃって。これで最大派閥のトップだから切っちゃうと政権自体も命取りになってしまう。
ボクもこの派閥とは仲良くしなきゃ。これからの長い政治家人生を生きなきゃいけない。
「今は世界的な人類の危機。一致団結して乗り越えていこうという大臣の固い決意の現れではないか」
と記者には言っておいた。
1日(日)0:00 恩田首相はシャワーを浴び、着替えを持って直ちに官邸へ戻る。全閣僚が防災服に着替え閣僚会議に臨む。一部SAAE感染者の暴徒化が起っていること。自衛隊内、国内米軍基地内においても感染が大きく広がっていることを受け、緊急声明を発表することを閣議決定した。
同 1:25 WHOが治療法が存在しないか不十分で、公衆衛生上のリスクがある最新の感染症リストに加えると発表。
同 1:30 アメリカ合衆国はメキシコ国境においてSAAE感染者の集団が暴徒化し国境にせまっていることを受け、軍を配備。一部では衝突が起こっているとの報道もある。
防災服ってカッコ悪いよね。そして、極めて無意味な格好だと思う。行政の人間は、災害や震災があると反射的に防災服に着替える。だって単なる作業着だもん。一種のパフォーマンス。本気でやってます!ってね。
同 06:00
日本政府はSAAE(かみつき症・重症急性回虫型脳症)の急速な国内での感染拡大を受け、原則として無期限の我が国への出入国を禁止する措置を講じることを発表した。
そして国交省は抵抗したが、総理判断で都営、JR、私鉄等の全線を運行禁止にすることを決定した。
SAAEは空気による感染はせず、感染した唾液や血液が体内に混入すると高い確率で感染するといわれており、感染した人は意識を失ったのち自己抑制が効かず無意識のうちに他者への噛みつきなどの異常行動が見られる。
厚労省は「できるだけ不要不急の外出を控え、感染者を発見した場合も近づかず、冷静に対応すること」を呼び掛けている。
病気の名前が決まってまだ数時間なのにすでに政府が機能不全に陥ってるところもある。
結局ほとんど寝ずに対応に終われて官邸に張り付いたこの2日。
すでに中国、韓国、インドなどアジア諸国では軍と暴徒化した感染者集団とのあいだで衝突が頻発している聞く。
ロシアではチェルノブイリのときのように街ごと封じ込めて一ヶ所に隔離する政策をとっている。大使館からは空軍が出動して街ごと空爆したって噂も流れてるって連絡があったらしい。
でもハワイは感染症が無いってネットでは噂になっていて、羽田には人が殺到し、大混乱になっているそうだ。
同 07:00
大変なことになった。
マスコミ対応をしていた丹羽官房長官が記者に噛まれた。首筋に噛みつかれて、動脈から鮮やかな血が勢いよく噴出していた。ワイシャツが赤黒く染まっていったのがスローモーションの様に見えた。
丹羽長官は直ちに国立病院に運ばれたけど、その後の安否はわならない。
同 08:00
緊急の閣僚会議。
だけど、財務大臣、外務大臣、文科大臣、行革大臣の姿が見えない。
林財務大臣と佐久間外務大臣は政府専用機で国外に脱出しようと試みたみたいだが、東京国際空港を離陸した直後になぜか墜落。富士山麓で消息を絶ったようだ。
明地文科大臣と滝川行革大臣は感染して病院に運ばれたそうだ。
まるで葬式のような閣議。
その閣議をうけてボクは官房長官代理として記者会見を行った。
「すでに報道もされております通り、世界各国において、SAAEという回虫性の伝染病が爆発的に流行しております。現在、総理そして厚労大臣、専門家をまじえて、状況の把握と分析、対応に全力であたっているところでございます。まずは感染患者およびそれに類する方々の隔離によって感染源の遮断を行われるべきと考えております。現在政府が把握している感染者の数は120万人となっており、想定される数値の範囲であるというふうに考えております。
今後隔離による感染源の遮断が奏功しましたらこの数値は減少に転ずるものと考えます。
現在、政府、厚生労働省、健康局、そして専門家による対策チームによって総力を挙げて万全の対応につとめておりますので、落ち着いて対応をしていただきますようお願いを申し上げます。
感染を疑われる方は政府所定の医療機関にて受診をお願いいたします。また集団感染を防止するため避難所等は設けておりません。不要不急の外出を控え、特に駅やショッピングセンター等、人がたくさん集まる施設には近づかないようお願いを申し上げます」
不要不急の外出を禁止するって言ったって、企業は休まない。休ませなんてしない。ことの重大性に社会がおいついていないんだ。駅には出勤・通学の人があふれていて、あちこちでかまれた患者が続出している。そしてその患者が他の人間を噛みつく。悪循環が特に都心部・人口が多い地域で起きている。
こんな記者会見。まったくの子供だましだと知りながら、白々しくもっともらしく語りかける。
テレビの数も、記者の数も減ったな。
感染防止のために、記者とボクの間には気休め程度のささやかな柵がつくらていた。
この国、本当に持つのか不安になってきた。




