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スケープゴートの逆襲  作者: おにすずめ
3/24

迎撃

ガチャ・・・

施錠された扉を難なく通り抜け、リタスは館へと侵入する。

「さて・・・」

ここからだ。深くリタスが息をつく。

そして同時に、

「別に姿を潜めなくても構わんが」

明かりのついていないホールで、そう呟く。

ハァ

すると闇の向こうで溜息が一つ。

パチン!

そして指が鳴り、明かりが付いた。

ズラッ!

そこには、二階からボウガンを構えたメイドの一隊が並ぶ。

その真ん中には、指揮を取るマルクの姿があった。

「こうも早く侵入が露呈するとはな」

「うちの門番の根性を舐めてたみたいだな。連絡なら既に信号弾で伝わっているぜ」

「・・・フン」

リタスがトンファーを構えようとする。

「おっと待った。アンタこの状況分かってる?わざわざ言葉にしなくても、伝えたいことは分かると思うんだけどな」

「『動けば撃つ』」

「ご名答」

「では、そうしてみろ」

カッ、カッ・・・

警告などまるで無かったかのように、リタスはマルクに向かって歩みを進める。

「マルク様・・・」

ボウガンに指を掛けたメイドが問う頃には、

「撃て」

既に命は下されていた。

ヒュヒュヒュン!

矢の雨がリタスに降り注ぐ。

キンキンキン!

それをリタスはトンファーで弾いた。

「マジか!?」

「・・・温い」

フワッ・・・

軽やかにホールから二階の手摺、マルクの目の前にリタスは飛び移る。

「マルク様!」

ヒュヒュン!

メイド達が二発目を撃ち込む。

「鬱陶しい・・・!」

キキン!

リタスは今度はそれらを弾き『返した』。

「ぐぅっ・・・!」

弾き返された矢は、メイド達の肩に刺さる。

「次」

トンファーが、マルクに迫る。

「なろぉ!」

ガキィ!

右からの一撃を防ぐと、

「そりゃぁ!」

「何っ!?」

流れるように、突きを繰り出す。

「くっ!」

回避、それと同時に後方に一回転しながら、リタスは二階から一階へと移る。

「マルク様!」

「何やってる、撃ち込め!」

「は、はいっ!」

ヒュン、ヒュン!

態勢を立て直したメイドから、ボウガンを撃ち込む。

「この程度・・・!」

キン、キン!

まばらに放たれる矢を、リタスは難なくトンファーで撃ち落とす。

だが、足は止まっていた。

「そりゃぁあ!」

それを好機と見、二階から飛び降りる形でマルクが斬りかかった。

「小癪な・・・!」

ギィン!!

トンファーをクロスさせ、その一撃をリタスは受け止める。

「はぁっ!」

「どわっ!?」

そのまま押し返し、マルクの身体は床を転がった。

「あいたた・・・そう簡単にはいかねぇってか」

「この俺に防御をさせた事は褒めてやる」

「指南役のメイドが中々鬼でね」

「だが、俺と対等に渡り合うには遠すぎるな」

「へへ、そうかい・・・」

カッ、カッ・・・

ニヤリとマルクが笑うと同時に、足音が近づいて来る。

「ん?」

「それじゃあ、真打登場と行こうじゃないか」

カッ!

ホールにその足音を響かせて、槍を構えたルフィヤが姿を現す。

「・・・何だ、貴様も兵を務めるメイドか」

「初めまして。フォルツァ家メイド長を務めます、ルフィヤ・ディナールと申します」

「そうか。俺は・・・」

「いえ、結構です」

リタスの名乗りを、ルフィヤは聞かなかった。

「何?」

「貴方は、私の主を泣かせた。名など、聞く気もありません」

「・・・そうか。上等ではないか」

トンファーをクルリと回すと、リタスは攻撃態勢に移る。

「ならばそれもいいだろう。全力で相手を・・・」

カラン・・・!

それと、トンファーが床に落ちたのはほぼ同時。

「な・・・に・・・?」

強い手の痺れと、状況を理解するのに少々時間を要した。

しかし、すぐに理解する。

「(弾・・・かれただと!?馬鹿な!全く見え・・・)」

理解と同時に、混乱する。

「どうしました?」

そこに、恐怖を塗す声。

「早く拾いなさい。早く。死にますよ?」

「ぐっ・・・うおぉ!」

叫ぶと同時に、リタスが動く。床に転がったトンファーを拾うと、

ギィン!

ルフィヤに容赦なく殴りかかる。

「そらぁ!」

上方から繰り出されるトンファーを、

ギン!

ルフィヤは槍を横にし、受ける。

「(今だ!)」

ヒュン!

それを見て、リタスはルフィヤの足を殴りに行く。

だが、

フワッ・・・

繰り出したトンファーは空を切り、ルフィヤは宙に『浮いて』いた。

ドゴォ!

直後、リタスの左頬に蹴りが入る。

「ぐぉっ・・・」

怯んだ所に、

ヒュン!

槍。

「くそっ!」

ギン!

槍、槍、槍。

「(付いて行けない・・・!一太刀交わすごとに、確実に差が開くっ・・・!)」

刃と石突が交互に襲い、リタスの余裕を確実に削っていく。

「はぁっ・・・このっ、調子に・・・!」

防御から、リタスは攻撃に移ろうとする。

ヒュン!

しかし、同時に槍が脇の下を潜り抜けた。

「うっ・・・!」

そして彼は固まってしまった。

「(違う・・・!外れたのではない・・・!俺は、今・・・!)」

そう、自分は今『死んだ』。そして分かった。

「(俺では・・・勝てない・・・!)」

それが分かれば、することは一つだ。

「くそっ!」

プシュゥゥゥ・・・!

スプレー缶を投げつけ、煙幕を発生させると

「(一時撤退だ・・・!)」

窓を開き、庭へとリタスは逃走した。

「・・・逃げられると思わないことです」

ブォン!

槍を一回転させて煙幕を晴らすと、ルフィヤもその後を追った。


***


フォルツァ邸、庭園。

「ヒャッハァ!」

エリーとドブラの戦いは、一進一退だった。

ガキィン!

「このっ・・・!」

「おっと」

突き出されたナイフをドブラは余裕で避ける。

「ヒャハ!」

避けると同時に攻撃に移る事も忘れない。

「そんな単調な攻撃・・・!」

上からの振り下ろしをエリーは難なく避けた。

ピッ!

「うっ!?」

しかし、返しの爪は完全に避けることは能わなかった。エリーの顔に薄らと傷がつく。

「・・・」

「オラオラ、どうした嬢ちゃんよぉ!」

「・・・」

ギン、キィン!

「受け身なだけじゃ、いつまでたっても勝てないぜぇ!?」

「・・・糞が」

「あぁ?」

「そんなに死にたいなら、お望み通りにして差し上げますわ!」

ドン!

足に強化を回し、エリーは思い切り地面を踏んだ。

ベコッ!

衝撃で石畳が捲れ上がり、

「のわっ!?」

てこの原理でドブラの身体が宙に浮く。

「シィッ!」

その身体目がけて、エリーがナイフを投げつける。

「舐めるなってんだよぉ!」

キキン!

鉤爪でドブラはそれらを弾く。

そこをエリーは見越していた。

「なあっ!?」

捲れた石畳を台にして、態勢が崩れた所に、身体を滑り込ませる。

「可哀想に。お馬鹿ですわね」

「・・・ぃ!」

ドゴォン!

強化された拳がクリーンヒットし、石造りの門にドブラは身体を叩きつけられた。

「ゴホァ!」

壁から剥がれると、ドブラは石畳に血を吐いた。

カッ、カッ・・・

「あぁ・・・?」

そこへ、一歩一歩、エリーが歩み寄っていく。

「もう終わりなどと、そんな事は仰りませんわよね?」

「へっ、へへ・・・当ったり前だろうがよ、お嬢ちゃん」

「ならば、立ちなさい。私の心は、まだ燃え始めたばかりですことよ」

ベロリと、エリーの舌が唇を一舐めする。

「・・・」

「立ちなさい、早く。早く!この腕が、身体が、貴方の内臓をドロドロのシェイクにして差し上げたいと、唸りをあげて仕方がないのですから!」

バチィ!!

「(何だぁ、今のは!?)」

見えた。一瞬だが、ドブラには見えた。

エリーの『全身』に、赤い閃光が走った。

「ドブラ!」

それと、こちらへと走って来るリタスの姿がドブラの目に映ったのは同時。

「あ、兄貴?」

「一旦撤退する!態勢を立て直すぞ!」

「はぁ?一体何で・・・」

「いいから撤退だ!このままでは・・・!」

ピタリ

そこまで言った所で、リタスの動きが急に止まった。

「ど、どうしたんだよ兄貴?」

しかし、リタスからは何も返事が返ってこない。文字通り、『止まって』いる。

咄嗟に、ドブラは目の前のエリーに噛みついた。

「おい、テメェか?兄貴に何しやがった?」

しかし、

「・・・いいえ、私ではありませんわ」

返って来たのは予想外の答え。エリーにも、一体何が起こっているのか理解が出来ていないのだ。

「お前じゃねぇってか?んじゃあ一体・・・」

コッ、コッ・・・

「誰・・・」

コッ

「が・・・」

そこまで言って、エリーとドブラはこの状況を創り出した者を目にした。

正門を潜り、庭へと入って来た一人の少女。幼い顔立ちと未発達な身体とは対照的に、月夜に照らされた白と紫の法衣が艶やかに光る。

左手に持っている本は余程重要な物なのか、鎖と鍵で厳重に閉じられている。

「あーらら♪任務を途中で放棄するなんて、とんだ三流ね」

スッ

女は甘ったるい声と共にリタスに手を翳すと、

―BLAST―

ドォン!

詠唱。瞬時にリタスは爆発した。

「あ、兄貴ィ!!」

「・・・何ですの、今のは・・・?」

叫ぶドブラと驚くエリー。

「アハハッ!何て雑魚。アルバは何を手こずっていたのかしら?」

そんな二人を無視し、女は月夜に高笑いを響かせる。

「テメェ!」

そこへ、怒りに身を任せたドブラが襲い掛かる。

―SHOOT―

ドォン!

しかし、触れることすら出来ないまま元居た場所へ弾き飛ばされた。

「何?アンタも死にたい訳ぇ?」

まるで子供のような笑顔を浮かべ、

キィィ・・・

指先に、何かの力を少女は収束させる。

「じゃ、死のっか」

そしてその力は、

「お待ち下さい」

解放されなかった。

館の方から現れたルフィヤの声が、それを留めたのだ。

「あら、メイド長さん。こんばんは」

「今晩は、リエル様。申し訳ありませんが、これ以上当家の庭で暴れないで頂けますでしょうか」

「えー、いいじゃない。そこに居る虫一匹殺すだけなんだから」

「そこの男には色々と聞く事がございます。処分はその後にこちらで致そうかと思っておりますので」

「・・・うーん」

シュン・・・

集めた力を発散させ、少女は水晶玉を取り出した。

「だってさ。どうする、ダラス?」

そして、水晶玉に話しかける。

ザザッ・・・

すると一瞬ノイズが入り、その後からダラスの声が届いた。

『構わんさ。目的は果たされた。向こう側が掃除してくれると言うのであれば、その方が楽だろう。・・・それとリエル』

「なあに?」

『お前はもう少し主人に対する態度というものを・・・』

ブツッ

そこで、リエルは通信を強制的に終了した。

「まぁ、そういう事だから。アンタ達に任せるわ」

「ご理解いただきありがとうございます」

「礼なんていいわ。ま、ちょっとした暇つぶしにはなったわよ。じゃあね♪」

シュン・・・

そう言い残し、リエルは闇に溶けて行った。

「な、何ですの、あの女は・・・?」

「リエル・エルメス。フロイト家に仕える魔術師です」

訝るエリーに、ルフィヤが答えた。

「魔術師・・・つまりあの女もあなた方が呼ぶ『異能者』ということですの?」

「いいえ。少し括りが違いますが・・・まぁ、今はよいでしょう。それよりも・・・」

視線が、倒れるドブラに向く。

「んあ?」

ドブラも、歩み寄るルフィヤに視線を向けた。そして開口一番、

「よぅ、エプロンババア」

ブスッ!

挑発。同時に太腿に槍が突き刺さる。

「だぁっ!痛え!!」

「軽口を叩く事は許しません」

「へっ、へへっ・・・殺しなよ。怒ってんだろ?」

「まだ殺しません。まだ。貴方には聞きたいことがありますので」

パチン!

指を鳴らすと、待機していたメイド達が姿を現す。

「この男を地下牢に。暴れたら腕を潰しなさい」

「・・・甘いねぇ、アンタら」

メイド達に縛られて、ドブラは館へと連れて行かれた。


***


「それで。館の方は問題なかったのね」

翌朝、自室のバルコニーで朝食をとりながら、フランはルフィヤより昨夜の報告を受けていた。

「はい。メイド達に負傷者が少々出ましたが、幸い大きな傷を負った者はおりません」

「ちゃんと手当してあげてね。彼女達一人一人が、この家の宝なのだから」

「存じております」

「そうだわ・・・エルフィールさんはどうしているのかしら。確か昨夜活躍なされたのでしょう?」

「はい。エリーは今マルク様の下におります」

「お兄様の?」

「はい。マルク様も昨夜の件で掠り傷程度ですが負傷を・・・」

ガタッ!

ルフィヤの言葉が終わる前に、フランは立ち上がっていた。

「何故それを先に言わないのルフィヤ!?」

「は、はい?」

「私もお兄様の部屋に行きます」

そして言い終わるより先に、身体を動かした。

「お、お待ち下さいフラン様!まだ朝食を・・・」

バタン!

聞かず、フランは部屋を出て行った。

ハァ・・・

「全く。世話の焼けます事・・・」

笑顔で、ルフィヤは朝食を片付けに掛かった。


***


「はぁ~あ、手緩いねぇ」

フォルツァ家地下牢。二百年前から使われているこの牢で、

「まぁこうやって毛布を上手く使えば、快適にはなるか」

ドブラは悠々と過ごしていた。片手を壁に繋がれてはいるものの、それなりに身体は自由に動かせる。

「尋問だって言うから歯の一本や二本ぶっこ抜かれるかと思いきや・・・五、六発鳩尾をぶん殴られるだけだったもんなぁ」

それに、ドブラからすればこの家の尋問は温いものだった。

「おまけに風雨がしのげる場所まで用意してくれちゃって・・・んで」

カッ、カッ・・・

地下牢に、何者かの足音が響く。

足音の主が何を目的に近づいて来るのか、彼には分かっていた。

「三食昼寝付と来たもんだ」

そこには余った食材で作られた粗食を持ったメイドが立っていた。

キィ・・・

鍵を開け、メイドが牢の中に入る。

「ほら。食事よ」

「へいへい、ありがとな。ん、嬢ちゃん?」

その顔に、ドブラは見覚えがあった。

「ん~っと・・・」

「何よ?」

「あ、思い出した。嬢ちゃんアレだろ、門番のー・・・俺が殴った方!」

手を叩いて、ドブラは笑顔を浮かべる。一方メイドの方は不快極まるといった表情だ。

「あのね。そんな雑な覚え方しないでくれる?私にはコルナ・シリングっていうちゃんとした名前があるの」

「へぇ。名前で呼んでいいんだ?」

「んなっ・・・そんな事言ってないでしょ!・・・これ、要らないの?」

手に持った食事をさしてコルナが脅す。

「あーはいはい。すみませんでした」

その脅しには素直にドブラは屈服した。

「ところでコルナちゃん?」

「・・・何よ?」

「男性経験はどれ位?」

パカーン!

良い音を響かせて、コルナはドブラに食器を投げつけた。

「痛てて・・・あ~あ、飯が台無しだぁ」

「最っ低!!」

そのまま憤慨し、コルナは牢を出て行く。

ズゾゾゾゾ・・・

だが、背後から聞こえた何かを啜る音が彼女の足を止める。

見れば床に零れたスープをドブラは啜っていたのだ。

ガッ、ガッ・・・

それが終わると、今度はシチューとパンを手で拾って口の中に突っ込んでいく。

「アンタ・・・何してんのよ・・・」

「ん?見ての通りお食事中さぁ。あんまり食い物を粗末にするんじゃないぜぇ?」

「・・・気持ち悪い」

吐き捨てて、コルナは地下牢を出て行った。

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