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【6/5完結】就職先が倒産したので牧場を継いだら、俺だけ馬の声が聞こえるようになりました  作者: 萩原詩荻
第三章 サクライルドルフ

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第七十八話 たしかに勝ったやつには喜ぶ権利があるけど、限度があると思わない?

 ――終わるのが惜しいと感じてしまった。


 その時点で、負けていたのかもしれない。


 でも。


 だからと言って。


「俺様の勝ちだあああああああああああああああああ!!!!」


 うるさい!


「これが!これこそが!!ゴールドファームの総力を結集した黄金の結晶!!ゴールデンビール様の実力だああああああああ!!」


 ゴールデンビールが、ありえないくらいでかい声で吠えていた。


 うるさすぎる!


「俺様の!勝ち!!!」


 喜ぶ権利はあるけど限度あるだろ!!!


 しかも、ビールの背中の騎手が「よくやった!!」って首筋叩いてるから、余計に調子に乗ってる。


 でも、俺は何も言えなかった。


 まだ、理解が追い付いてないのもある。


 一着、ゴールデンビール。


 二着、サクライルドルフ。


 三着、ダンシングトニー。


 しかも。


 ハナ。

 ハナ。

 全部ハナ差。


 そんなことある?


 そんなこと、ある?


 いや、競馬だからあるんだろうけど。


 悔しい。


 普通に悔しい。


 めちゃくちゃ悔しい。


 無敗が止まったからとか。


 秋古馬三冠取れなかったとか。


 そういうのも、もちろんある。


 でも、それ以上に。


 よりによって、ビールに負けたのが悔しい。


 だって絶対この先ずっと言うもん、この馬。


 春になっても言うし、夏でも言うし、なんなら老後まで言う。


 孫ができても「昔ジャパンカップで俺様がな」って始めるタイプだ。


 最低だ。


「なあなあ今どんな気持ち!?無敗の皇帝さんに、初黒星ついちゃった気持ちはどう!?!?」


 この野郎!!!


 その時、観客席の方からさらに大きな歓声が上がった。


 ビールの騎手が、軽くガッツポーズしたからだろう。


 ビールはその気配だけでますます調子に乗る。


「見たか!!見たか見たか見たか!!」


「見てますよ」


「俺様の騎手も最高だろ!?最高の騎乗と最高の馬の奇跡の合体だ!!」


「今日のビール、だいぶ感じ悪いですね」


「勝者の余裕だ!!」


「余裕っていうのはもう少し静かです」


「違うね!!本当に強い勝者はうるさいんだよ!!」


「どこの文化圏ですか、それ」


「ゴールドファームだ!!」


「ローカルルールすぎる……」


 横で、ダンシングトニーが、ぴくりとも動かずに前を見ていた。


 だが、わかる。


 怒ってる。


 あれはもう、欧州の気品とか格式とかそういうものを、ギリギリ理性で支えてる怒りの立ち方だ。


「おやおや!?二着と三着、プルプルしてんじゃねぇか!?」


 くそ、調子に乗ってやがる。


「悔しいのか!?そりゃ悔しいよなぁ!!なにせ一着は俺様だからなあああああああ!!!」


 うるさい!


 勝ったやつが一番うるさいの、たぶんルール違反だと思う!!!


 必死に外面を取り繕う俺の隣で、トニーがついにキレた。


「ビール、貴様……」


 低い声だった。


 かなり低い。


 欧州の深い森から亡霊が出てきそうな声だ。


「我は貴様を認めてやってもいいと思っていた」


「うん?」


「だが、考えを改めよう」


「へえ?」


「今すぐ欧州へ連れて行って、芝二千四百を十回走らせて十回捻り潰したい」


 うわ、「屋上に来いよ」の「凱旋門賞に来いよ」版だ。


 コイツにしか許されない呼び出しだろ。


 だが、そんなトニーの静かな怒りもなんのその、ビール、絶好調である。


「いやあ、それにしても最高だな!!」


「何がです」


「強いやつぶっ倒して勝つの、超気持ちいいな!!!」


 最低である。


 最低だが、少しだけわかるのがさらに腹立つ。


「トニーもヤバかったし!!」


「……ふん」


「あの末脚なんだよ、凱旋門の時も思ったが、おかしいだろ。ルール守れよ」


 それは俺も思った。


 トニーが、わずかに目を細める。


「我の末脚だからな、当然だ」


 すると今度は、ビールがこっちを見る。


「で、お前もだ」


「なんですか」


「最後までしぶてぇんだよ!!」


 わりと本気の声音だった。


「なんであそこからまだ来んだよ!!皐月賞とダービーの時も思ったけど、いい加減止まれ!!」


「止まったら負けるじゃないですか」


「でも勝ったの俺様!!最高!!!」


 ぶっ飛ばすぞ。


 そこでトニーが、ふっと鼻を鳴らした。


「結局、貴様ら二頭とも、我が思っていたよりずっとマシだったということだ」


「ほほう?」


「最後まで逃げなかった。並ばれても折れなかった。……まあ、ぎりぎり及第点だ」


 その言葉は、怪物なりの最大級の賛辞なのだろう。


 だが、今のビールが殊勝に受けとるはずもなかった。


「三着のくせに上からだな!!」


「三着と呼ぶなァ!!!」


 ついにトニーが怒鳴った。


 なんかちょっと面白いな。


 周囲の他の馬たちも、ちょっと引いた感じでざわざわしている。


「うわぁ……」

「ジャパンカップ終わった直後に喧嘩してる……」

「欧州にいた時、あんなトニー見たことないぞ」

「というかアイツら全力で走った後に元気すぎるだろ」

「ビールが一番うるさいな」

「いや、ルドルフも大概だぞ」

「トニーは普通に怖い」

「結論:全員関わりたくない」


 おい。


 最後のやつ誰だ。


 ちょっと傷つくぞ。


 だが、ビールは気にしない。


 今のこいつは無敵だ。


「いやあ、勝つっていいなあ!!」


 ――よし、決めた。


 ビールは有馬記念で絶対絶対絶対泣かす。


 泣くまでやる。


 泣いてもやる。


 いや泣いたら許してやる。


 ……たぶん。

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― 新着の感想 ―
まあ、有馬が楽しみだねえ トニーも種牡馬入りを撤回して出るのかな? ゴールドファームとしては出したいだろうがw そういや、ルドルフとビールは来年5歳。そろそろ種牡馬入りか ルドルフにはその前に海外…
とうとうルドルフの成績に黒星が付きましたね。馬主側としても悔しい気持ちと無敗維持といつ重りをやっと下ろせる安堵が両方ありそう。先輩馬主の人達は強い次世代馬主の誕生を喜びつつも今度こそうちの馬が!って火…
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