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追放された“ログ係”は、世界の裏設定を読めるようになりました  作者: トワイライト
第4章:真実 ――世界の正体編

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第45話:世界終了フラグ

 世界の書の前に立つと、空間全体が静かに沈んでいくような感覚に包まれた。光の粒子がゆっくりと天へ昇り、それが消えるたびに淡い波紋となって周囲へ広がっていく。大気の流れはないのに、光だけが生きているように脈動し、まるで空間そのものが心臓の鼓動を持っているかのようだった。レインはその中心に立ちながら、書物が放つ微細な圧を全身で感じ取っていた。


 《深層ログ閲覧》を起動すると、光の線が静かに形を変え、書物のページが近づいてくる。眼前に浮かぶ文字列はいつも以上に複雑で、どれも意味の深さを感じさせた。レインは目を凝らし、慎重にその情報を読み解こうとする。世界の裏側に触れるために必要な覚悟はすでに固めていた。だからこそ、今はただ冷静に前を見据えようと努めていた。


 フィアはレインの後方で、かすかに息を吸う音を立てた。緊張が伝わってくる。だが、それでも逃げようとはしていない。その小さな背中には、レインと共に進むという意志が確かに宿っていた。


 光の書が一瞬揺らいだ――その瞬間だった。


 赤い輝きが書物の中心から溢れ、瞬く間に視界を塗りつぶすように広がっていった。レインは思わず身構え、光に目を細める。喉が乾き、胸が締め付けられるような圧力が全身へとのしかかる。


 そして、赤い光の中心から、ひとつの警告が浮かび上がった。


 


【重要】

世界終了予定:残り3年


 


 その文字が空間全体に反響するように広がり、壁も床も天井も存在しないこの空間の隅々まで赤い光が染み渡っていく。文字の形が揺らぎ、しかし消えない。まるで空間そのものがその警告を“刻み込んでいる”かのようだ。


 レインの心臓が大きく跳ねた。血の気が引き、足元の感覚が急に遠くなる。胸に重い石を押し込まれたような苦しさが走り、思わず後退した。


 足がわずかにもつれ、膝をつきそうになる。


【モノローグ/レイン】

 「……残り……3年……?

  ……この世界は……もう……終わる……?」


 声にならない震えが喉元に走り、呼吸が苦しくなる。

 深層ログは何度も世界がリセットされていた過去を見せた。だが「今」がいつ終わるのかを見たのは初めてだった。書物の赤い光は、終末を告げる鐘の音のように空気へ重く響き渡る。


 フィアはレインの動揺を敏感に感じ取ったのか、すぐに駆け寄り、震える手でレインの腕を掴んだ。彼女の手は冷え切っていた。


「……レインさん……っ……?」


 フィアの瞳が青ざめていた。

 その瞳には恐怖だけでなく、レインを支えようとする必死さが宿っている。


 空間全体が静まり返った。

 書物の光はゆっくりと揺れ続けているのに、音は一切ない。

 ただ、空気の重さだけが肌へとのしかかり、息を吸うたび胸へ刺さるような痛みが生まれる。


 レインは震える手で床へ触れ、深く息を吐いた。

 冷たい空気が肺へ入り込み、頭の中を少しだけ冷静に戻していく。


 だが、心はまだ追いつかない。

 世界が終わる――たった3年で。

 それは命の重みではなく、世界そのものの終焉を意味する。


 この空間で何を見ても驚かなくなったと思っていた。

 だが、この事実は違った。

 魂そのものを揺さぶるほどの衝撃だった。


 それでも、レインはゆっくりと顔を上げた。

 その瞳はまだ揺れていたが、やがてほんのわずかに光を取り戻していく。


【モノローグ/レイン】

 「……まだ終わらせはしない……!

  この3年で……必ず……止める……!」


 震えは恐怖だけではなかった。

 胸の奥に灯った強い火が、恐怖を押し返し始めていた。

 怒りと決意が混ざり合い、やがて揺るぎない一点へと収束していく。


 フィアはレインの肩に手を置き、その手に力を込めた。


「……わたしも……一緒に……止めます……っ」


 その声は小さく震えていたが、確かな意志が込められていた。

 レインは軽く頷き、彼女の手に自分の手を重ねる。


 赤い警告表示はまだ消えず、空間の奥で淡く脈動している。

 その脈動は、世界の残された寿命の心音のように重く響いていた。


 レインはゆっくりと立ち上がり、再び世界の書へ向き直った。

 光の粒子が頬へ触れ、冷たさと温かさが入り混じった奇妙な感覚を残していく。


 ログの表示は続く。


【深層ログ:状態異常】

世界存続限界:3年

原因:隠しフラグ多重破損/均衡装置不全

管理者修正:未実行

対象:要観察(Irregular 介入確認済)


 レインはその全てを胸の内で読み取り、深く息をつく。

 絶望を与えるための数字ではなく、“向き合うべき時間”として刻まれているように感じた。


 3年。

 短すぎる。

 だが、残された最後の猶予。


 世界の仕組みがどうであれ、管理者がどうであれ、誰かが作った周期がどうであれ――その終わりを受け入れるつもりはなかった。


 深層ログは世界の終わりを警告している。

 しかし、その先に書かれていない部分がある。

 “どう行動すべきか”は、レインの自由だ。


 書物の光が揺れ、風のない空間にかすかな波紋が広がった。

 その揺らぎのひとつひとつが、レインの決意を後押しするように見えた。


 一歩、前へ。


 レインは震える心を押さえつけ、世界の書の中心へ手を伸ばした。

 赤い光の残滓が指先に触れ、かすかな痛みとともに熱が伝わる。


【モノローグ/レイン】

 「……3年もあれば……

  運命だって、世界だって……変えられる……!」


 その言葉は空間へ吸い込まれ、光の書へ届いたかのように淡い輝きが広がる。


 フィアは静かにレインの隣へ並び立ち、震える手を胸へ当てながら深い呼吸をした。


「……レインさん……一緒に、変えましょう……」


 レインはその言葉に力をもらい、強く頷いた。


 世界終了まで、残り3年。

 それは絶望ではなく、挑むべき期限。

 ここから始まる戦いは、世界そのものに抗う戦い。


 レインの決意が光となって胸に沈み込み、空間の光がそれに呼応して脈動した。


 世界の書は静かに揺れ、次なる未来を待ち望むように、光を放ち続けていた。

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