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追放された“ログ係”は、世界の裏設定を読めるようになりました  作者: トワイライト
第3章:再会 ――勇者対立編

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第27話:勇者パーティーの現状

 王都の夕暮れは、遠くの城壁に沈む陽光が街全体を赤く染め、窓枠の影を長く引き伸ばしていた。宿屋の一室は決して豪華ではないが、小綺麗に整えられた木製の机と椅子、それに柔らかい光を落とすランプが温かみを与えている。だが、今この部屋に満ちる空気は、その温かさとは裏腹に、張りつめた緊張を孕んでいた。


 レインとフィアは机を挟んで向かい合って座り、もう一つの席にはセレナ・ルミエールが静かに腰掛けていた。フィアはレインの横で、両手を膝の上に揃えて軽く握りしめ、どこか心配げに二人の様子を見守っている。一方レインは、正面に座るセレナに意識を集中させ、彼女の一挙手一投足を見逃すまいとするように、静かに息を整えていた。


 窓の外では、馬車の通る音や商人たちが店じまいする気配がゆっくりと薄れていき、夜の王都が近づいていた。そんな外の喧騒が遠くへ押しやられるほど、室内の空気は重い――それほどに、今からセレナが語ろうとしている内容は重大なものだと、レインもフィアも肌で感じ取っていた。


「……レイン」


 沈黙を破ったのは、セレナの小さな声だった。

 彼女は一度視線を伏せ、再び顔を上げると、その瞳には揺らぎと覚悟が同居していた。


「……勇者カイルは、以前よりも……はるかに強くなりました」


 静かながら、言葉に込められた重みは強烈だった。

 レインは眉をわずかに動かし、セレナの表情を読み取ろうとする。


「剣の腕も……魔法の扱いも……あの頃の比じゃありません。

 まるで……自分の限界を全部壊してしまったかのように、強く……速く……そして鋭くなっている」


 机の上で、セレナの手が小さく震えるのが見えた。

 その震えが、彼女の言葉が単なる誇張ではなく、現実の恐怖として刻まれたものだと示している。


 だが、彼女の報告はそこでは終わらなかった。


「……でも……強くなったのは、力だけじゃないんです」


 セレナは息を吸い、苦しげに視線を伏せる。


「……カイルは、冷酷に……なりました。

 以前のように弱者に手を差し伸べるような……あの優しさは、もうありません」


 言葉の一つ一つが、レインの胸に鋭く突き刺さる。

 かつての勇者の姿を知っているだけに、その変化の重さが、より明確に伝わってくる。


「パーティー内で逆らう者は……排除されます。

 強さを求めるあまり、余計な者は必要ない……そんな雰囲気が漂っています」


 レインは目を細め、わずかに唇を噛む。

 胸の奥底から、ゆっくりと寒気が這い上がってくるような感覚。


(……やはり、あの未来ログは……本物だ)


 勇者カイルの《深層ログ》に浮かんだ“世界破壊確定”という未来分岐。

 その脅威が、現実のものとして形を帯び始めている――そう悟らざるを得なかった。


 セレナは、震える声をなんとか抑えながら続けた。


「昔のカイルは、確かに強かったけど……仲間を支えてくれた。

 私たちの力が足りないときも、優しく声を掛けてくれた。

 “皆で強くなる”って、そう言って……」


 困ったように微笑むが、その笑顔には痛みが宿っていた。


「……でも、今のカイルは違います。

 強さのためなら、人を踏み台にすることも……ためらわない」


 レインの胸が強く締め付けられる。

 その変化は、単なる“性格の変化”ではなく、未来へ向かう道筋を決定的に狂わせるものだと感じた。


(未来が……その通りに進んでいる……

 勇者が、世界を壊す方向に……)


 頭に浮かぶのは、第6話で見た勇者の深層ログ――

 《未来分岐:世界破壊確定》。

 その未来の“起点”が、いま目の前にある現実だ。


 そして、セレナ自身の変化もまた、レインの目には明確に映っていた。

 彼女の肩は細かく震え、唇はかすかに噛まれている。後悔と不安が体全体に滲み出ていた。


 レインはゆっくりと《ワールド・ログ》を起動し、セレナに目を向けた。


 薄い光が走り、彼女の頭上にいくつかの文字列が浮かぶ。


【後悔:強】

【不安:中】


 どちらも赤く脈打つように表示され、隠しようのない事実として突きつけてくる。

 レインを追放した日の後悔と、勇者の行動が世界に及ぼす影響への恐れ――その両方が、彼女を蝕んでいるのが一目でわかった。


(セレナ……お前も、苦しんでるんだな)


 その事実に、レインは静かに胸の痛みを覚えつつも、冷静に言葉を選ぶ。


「セレナ。

 話してくれてありがとう。

 勇者の現状がどうなっているか、知る必要があった」


 セレナは目を伏せ、小さく頷く。


「……本当は、もっと早く伝えたかった。

 でも、あなたに会う勇気がなくて……」


 その言葉に、フィアがそっとレインの袖をつまむ。

 フィアの青い瞳には、セレナへの同情と心配が浮かんでいた。


「レイン……」


 その小さな呼びかけは、レインの冷静さを保つ助けになった。


 レインはゆっくりと立ち上がり、窓の外に視線を向ける。

 夜の帳が王都を包み始め、遠くの城壁には灯火がともり始めていた。


(強くなった勇者……

 そして、冷酷になった勇者……

 だが、このまま放っておけば……未来は破滅に向かう)


 深く息を吸い、静かに決意を固める。


(俺は止める。

 この力で、必ず――未来を変える)


 ゆっくりと振り返ると、セレナは不安げにレインを見つめていた。

 その目に宿る後悔も、迷いも、すべてがレインの胸に刺さる。しかし、それでもレインは揺らぐことなく告げる。


「セレナ。

 勇者のこと……まだ何かあったら教えてくれ。

 お前の知る情報は、絶対に無駄にしない」


 セレナは驚きと安堵の入り混ざった表情を見せ、胸の前で手を握り締める。


「……うん……。

 レインなら……きっと……」


 その声は小さく震えていたが、確かに信頼が宿っていた。


 レインはフィアに目を向ける。

 フィアは小さな身体でしっかりと頷き、レインの決意を支えるように微笑んだ。


(これから勇者と向き合うことになる……

 そして、世界の未来と真正面からぶつかることになる)


 宿屋の窓から吹き込む夜風が、レインの頬をそっと撫でる。

 その冷たさは、これから始まる激しい運命の渦を知らせる前触れのように感じられた。


(でも……俺は逃げない。

 この“ログの力”がある限り)


 王都の夜が静かに深まっていく中、レインの心には一つの明確な覚悟が宿っていた。


 ――勇者との再会。

 ――世界の未来に対する反逆。

 ――そして、仲間の後悔を断ち切る真実の旅。


 物語は、決意と緊張を孕んだ新たな章へと進み始めていた。

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