表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/12

父親と娘

今日の客は、不動産屋の紹介で、父親と娘の関係だ。


今回の問題は大学進学で引越していた娘が帰省。娘の結婚をめぐり、父が相手を否定したみたいだな。


まぁなんだか……面倒そうな父親だな。


俺はいつものように、体を鍛え、銭湯に行き、追加の具材を買っておく。


こないだの刺青を入れた女が飼っていた犬がいた。

俺に気が付き、めっちゃしっぽを振ってくる。


リードをひいていたのは、近所の愛犬家だ。

「これ、お宅のワンちゃんじゃないのでは?」

と俺が聞くと、


「そうなんですよ。最近引き取ることになったんです」

と言っていた。


あぁそういう事か。だいたい察することができたので、突っ込んだ質問はよしておいた。

俺は犬に(よかったな。いい飼い主に変わって)と目で言った。

すると犬はしっぽを振りながら

「ワン」

と吠えて、

新しい飼い主と共に行った。


スーパーで、うどんが安かったので、買う事にした。


20:18、客がうちのアパートの前に来る。窓をあけ、2階まで来るように窓から言う。



「べぇさん?」


俺がうなずくと、


「はじめまして、本日はお世話になります」

父親らしき男と、娘らしき女の子が挨拶する。


「おぅ。まぁ上がってくれ

えっと、悪いんだけどな。

俺は人の名前を覚えるのが苦手なんだ。

だから、父親と娘って呼ぶけどいいか?」


と俺は言った。


2人ともうなづいた。


「で……、具材はなんだ?」

と言うと、2人は俺に具材を手渡した。

肉:牛しゃぶ、ブリ、鶏もも

野菜:水菜、長ネギ、エリンギ



なるほどなぁ……。

俺はしばし沈黙する。

いや……このミックスはさすがにないだろう。

別方向で行こう。


「さすがに組み合わせムリですよね」

と娘が言った。


「無理に組み合わせる必要もないんだよ」

と俺は言った。


「じゃあ鍋の準備するぞ」

と俺は、


牛しゃぶ、ブリはそのまま出す。

鶏ももはぶつ切りに。

水菜は根を落とす。

長ネギはみじん切りに

エリンギは石づきを落とし、縦に割く。


鍋に水を入れスイッチを入れ。


まぁテーブルに座ってくれとちゃぶ台に案内する。


「今日はしゃぶしゃぶだ。まず牛しゃぶ⇒ぶりシャブ⇒最後に鳥もも肉を食べる」


そう言った。


さて酒でも飲もうか?


父親は日本酒冷や、

娘はビールだった。


グラスを渡し、乾杯をする。


そして3人とも酒を飲みだす。


3口ほど飲んだところで、

俺は話を切り出した。


「で……どういう状況なんだい?」

俺がそう言うと、


「私の人生なんだから、私が決めたい」

と娘は言った。


「まぁそうだな」

と俺は同意する。


「お前が幸せになれる相手じゃない気がする」

と父親は言った。


俺は話を整理する。

「幸せになれる相手じゃない気がするって、なぜなんだ」

そう言うと、父親は俺に耳打ちをした。


ほうほう、若手の動画配信者なのか。それで将来性とか、そういうのを心配しているんだな。


「娘は将来なんの仕事をするつもりだ」

と俺は娘に話しをふった。


「データサイエンティストです」

と娘は言った。


「あれか。売れるまで彼氏を支えるみたいなつもりなのか?」

と俺は言った。


娘はうなづく。


父親はえ~っという感じの顔をしている。


なんか話が終わった気もするが、

そうこうしているうちにお湯が沸いた。

俺は粉末出汁とショウガを鍋に入れる。


お椀にポン酢を入れ、刻みネギを入れる。


「わかっていると思うが、こうやって食べる」

と俺はしゃぶしゃぶの食べ方を披露する。


5分ほどして、牛しゃぶは食べ終わった。

俺は鍋をさっと洗い、ふたたび水を張り、スイッチを入れる。


お椀を回収して、軽く洗い、ふたたびポン酢を入れ、刻みネギを入れる。


「人生ってこの鍋みたいなものだと思うのだ。まずは牛しゃぶ。これは娘が稼いで、夫を支える時間。そして次はぶりしゃぶ。これは夫のほうが稼ぐ時間」

と俺は言った。


二人ともなんか納得している様子。

よかった。


「一緒に稼ぐ時間っていうのが、必ずしも必要ではない。交代してもいいんだよ」

俺はそう言った。


「そうか……」

と父親はつぶやいた。


「なぁ父親。あんたはあと15年くらいで引退かな。これまでは日本の経済を一生懸命引っ張ってきただろう。これがな。永遠に死ぬまで引っ張り続けるのってどうだ?」

俺はそういった。


「さすがに交代したいですよね」

と父親は言った。


「そうだろ。そうやって、経済を支えるプレイヤーが適時変わるのが、この社会なんだ。あんたが一番知っているのではないか?」

と俺は言った。


「わかりました。そうですね。娘を信じます」

と父親は言った。


娘はガッツポーズをした。


お湯が沸いている。

俺たちはぶりシャブを食べる。


「美味いですね」

と父親は言った。


「本当だね」

と娘は言った。


その二人の間には緊張はなく、ただほのかな信頼感が残っていた。


それから鶏むねの水炊きになり、最後はうどんをポン酢で食べた。


二人ともほんのり酔って、笑顔で帰っていった。


後日、2人は彼氏の動画のオリジナルTシャツを持参して、うちにやってきた。


まったく知らないし、興味がなかったが、笑顔で貰っておいた。


警備の仕事のインナーのTシャツとして使わせてもらっている。

その後、同僚の若い奴に、

「先輩もこのチャンネルのファンなんすか。このチャンネル最高にオモシロイっすよね」

と声をかけられた。


まともに話をしたのは、始めてだったので、驚いた。


チャンネルを見ると、そこそこ人気のチャンネルだったようだ。

ただ内容がまったく理解できなかった。

俺は思った。

これ下調べしてたら、やめとけって言っていたかもしれないな。

よかった……。

と今は情報化社会だから、知ることが武器とされることも多い。

それはそうだと思うが、知り過ぎると、判断を誤ることもある。

人はどうしても、自分の価値観でしか、モノを見られないからだ。

父親の場合は、チャンネルをみて、理解できなかったのだろう。

それを伝えてしまったから、こんな事態に陥った。

こういう場合は、ヘタに判断せずに、自分の娘の判断を信じるのが吉かもしれない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ