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第22話

 まだ秋の終わりだというのに、そこはもう雪景色だった。純白の着物をまとった低い山の中腹に神社の紅い鳥居が見えた。足を踏み出すと新雪がさくりと音を立てる。真咲は手に持った紙と住居表示を見比べ、しばらく逡巡しゅんじゅんした後で歩き始めた。

 戸籍謄本に記載された雪絵の実家は、真咲の家からは遠く離れた北国にあった。連絡はしていない。自宅のどこを探しても、連絡先なんてものは出てこないだろう。住所だけが頼りだった。引っ越しているかもしれない。もう誰も住んでいないのかも知れない。そう思いながらも、真咲は何かにみちびかれるように列車に乗り、バスを乗り継いでここまで来た。

 同じ苗字みょうじの表札ばかりが並ぶ家々、どこだろう。どれが祖父母の家なのだろう。足元の影が薄くなり、辺りは次第に薄暗くなってくる。


 祖父母の家を訪ねてみたい。丞玖にそう話した時、気は確かかと言われた。電話番号も分からない。そもそも、そこに住んでいるかも不明だ。「生きているかどうか……」と言いかけて、丞玖は口をつぐんだ。

 せめて手紙を出してからにしたらどうかと言われたが、真咲は待てなかった。母についての真実を知りたかった。いや違う。母に、会いたかった。

 一緒に行くと言う丞玖を断って、今朝早く家を出てきた。麻美には何も言わずに。


 ある古い日本家屋の前に立ち止まったとき、納屋のように見える建物から出てきた老人と目が合った。道を尋ねようとした真咲は躊躇ちゅうちょした。老人の顔には深いしわが刻まれ、とても気難しそうに見えたから。

「……あの」

 怒鳴どなられたら走って逃げよう。子供のようなことを考えながら、真咲は恐る恐る声を掛けた。老人が顔を上げ、真咲の顔を見据みすえる。白いまゆの下の眼が、大きく見開かれるのが見えた。

「ゆき……」

 そう言いかけた老人は、こちらに歩み寄り、真咲の腕をつかんだ。

「真咲か?」

 掠れた声でそう聞かれ、真咲は黙って頷いた。老人の顔には怒りに似たけわしさが見えた。

「なんで戻って来た」

 掴まれた腕の痛みと老人の険しい表情が、真咲を打ちのめした。走って逃げたかったが、ショックのあまり脚が動かない。連絡もなしに訪れたことで、歓迎されないかも知れないとは思っていたが、これほどまでに拒絶されるとは思わなかった。真咲は項垂うなだれ、唇を噛んだ。

 手の甲にポツリとしずくが落ちた。こんなところで泣くなんてみっともない。涙を拭おうとして、真咲は自分の頬が濡れていないことに気付いた。

 顔を上げると、目の前に眼を赤くした老人の顔があった。しわ深い目尻を涙が伝う。

「よう来た。……よう帰って来んさった」

 老人はむせぶように言って、真咲を抱き寄せた。

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