(10)
お読みください!
リドヴィナの声が初めて弱々しくなった。
僕の狙い通り、狼狽しているようだ。すかさず、言葉をかぶせた。
「だろう! だからさ、君はあと一週間後においで。
今、そら豆を月光に当てて血液をつくる実験をしているところなんだ。
君も悪魔なら、黒魔術は知っているな。
僕も慣れていなくて、なかなかうまくつくれないんだが、今度こそうまくいくはずだ。
だって、今夜から向こう一週間は晴れ間がつづくとあのYahoo!の天気予報が言ってるからね。
だから、今度こそ血液を製造してみせる。
そして、僕は妹にたっぷりと輸血をするよ。
冷たい肌はあたたかくなり、頬は林檎のように艶を帯びて輝く。
そういう処女を死体にしたほうが、栄養価も高いし、サタンさまも喜ぶだろうよ」
「そッ、そッ、そら豆の術は、あたいも聞いたことがある。
一週間なら、ギリギリではあるが、サバドにも間に合う……ッ!」
「だろう。
それに、僕は今あまり精液が溜まっていないんだよ。
まさか、こんな魅力的な小悪魔に今夜出会うとは思わなかったからね。
君だって、どうせ楽しむなら、薄味のザーメンじゃつまらないだろう。
濃い精を、たっぷり搾り取りたいんじゃないのか?」
じゅるり!
涎を啜る卑しい音が闇のしじまに響いた。
リドヴィナの顔色は見えないが、きっと興奮しているはずだ。
腹筋が悦びにピクピク痙攣し、その一方、乳房はやわらかく震えている。
これも書物にあった通り。
女の悪魔は、無類の精液好きなのだ。
好きが高じて、精液搾りに特化した悪魔――サキュバス――に変態する女悪魔もいるくらいだ。
「血液に満ちたジューシーな処女が献上できるうえに、君自身もクリーミーな体液をたっぷりと飲むことができる。
一週間我慢すれば、いいことしかない」
リドヴィナは、空中を勢いよくでんぐり返りした。
同時に埃が立ち上り、その中から再び女児が現れた。
幼体のリドヴィナはその小さな握り拳を、天井に向けて力いっぱい突き上げた。
「うおーーーーーッ! 血潮滴る処女の死体ッ!
濃くてたっぷりのザーメンッ!
わかった、あ、あ、あたい、また一週間後に、ここ来るぞーーーーッ!」
そして、妹の部屋を出て行った。
僕は、彼女の後ろ姿――背中には、小さな羽があった――を追った。
暗い廊下を通り抜け、僕の部屋にするりと入ると、ベランダの窓の隙間をくぐり抜け満月の方角へと飛び立つ。
やはりここから入ってきたのだ。
悪魔が消えた後には、よく言えば花の蜜、悪く言うなら腐敗した果物のような、甘やかさと不潔さが複雑に合わさった香りが漂っていた。
さきほどまでの姦しさは息を潜め、再び深夜ならではの漆色の静寂が家の中を満たしていた。
続きます^_^




