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公爵様は見る目がない!  作者: 猫森まりも
第二部 夫婦、初心者から始めます
33/44

悪女に断罪を

いつもよりちょっと長くなりました

『獅子頭の悪魔』。レオニス・フォン・ローゼンベルク公爵が戦場に於いて敵国の兵から恐れられてつけられた渾名。アグリシオ王子の名代で先陣を切って黒馬を駆って敵陣に向かい、必ず戻ってくる姿から、味方からは英雄として称えられていたという。


そんな彼に睨まれて平然といられる令嬢がどれ程いるだろうか。アデラも取巻きの令嬢達も青い顔を通り越して顔面を蒼白にさせ、何なら今にも気絶してしまいそうな程に怯えきっている。



「私の妻に対しての無礼な振舞いが目に余る。家の力で潰すとか言ったな。やれるものならやってみるがいい」



私ですら聞いたことがない、絶対零度の声色で言い渡す様に周囲の温度が一気に下がるような感覚に陥る。計画通りだと言うのに、旦那様は意外な程お怒りのようだ。このままではこちらが追及する前に終わってしまう。



「…旦那様、あの、少しやり過ぎでは…」


「これでもまだ足りないくらいだ。あれ程酷いとは知らなかった」



声を潜めて話しかける。絶対零度の温度が少しだけマシになったが、相変わらず眼光は鋭いままである。思えば、最初から無関心のように振る舞われてはいたが、今のような冷たい目を向けられたことは一度もなかった。もしかすると、初めから嫌われてはいなかったのかもしれない。私も貴族令嬢なのに、何故?



「…何でアンタなんかが…。適当に下位貴族の後妻にでもしてしまえばいいと思って家門から追い出したのに…公爵夫人ですって…?」



決して大きくはなかったが、怨嗟の篭った低い声が耳に届いた。聞き覚えのあるその声に自然と顔を向けると、怒りと憎しみを浮かべた義母、デボラの姿があった。


アデラと同じ髪と瞳の色。派手ながらも美しい顔立ちだったが、今は見る影もない程に歪んでいる。扇が折れそうな程強く握り込まれた手はぷるぷると震えて白くなっている。



「…お久しぶりですわ、夫人。今日は、父はご一緒ではありませんの?」



近くに父の姿はない。本当に操られているのなら、社交の場には出られないだろうとは思っていた。事実、これまでにもほとんど姿を見せていないらしい。今日も、もしかしたら、くらいには思っていたが、やはり楽観的過ぎたか。


デボラの様子を窺うが、ただただこちらを睨み付けている。旦那様の眼光による威圧もまるで眼中にないせいか、影響を受けていないようだ。



「貴女はもう私達の家族ではないのだから、あの人を父と呼ぶのは正しくなくてよ。…どうやってローゼンベルク公爵に取り入ったのか知らないけれど、貴女なんかが釣り合うお方ではないのだから、早々に身を引くべきよ。それこそ、貴女より優れた淑女であるアデラに譲るとか、ね?」



デボラは先程までの怒りと憎しみを包み隠して、取り繕ったような貴婦人の仮面を被る。見事な変わり身だと感心しないでもないが、言っていることは何と図々しいことか。たった今名前の挙がったアデラへ視線を向けると、既に立っているのがやっとといった様子で、それどころではなさそう。旦那様は口出しこそしないものの、怒りだけは収めないつもりのようなので、アデラと取巻き達は凍りついたままだ。



「貴女とアデラが家族ではないのはその通りですが、父は違います。私は先代マクワイア伯爵であるアミエラ・マクワイアと婿養子であるハロルドの実子、嫡子相続のマクワイア家に於いて唯一の正統なる後継者、エリーナ・マクワイア。現マクワイア伯爵にして、ローゼンベルク公爵夫人でもあります。…貴女のお名前をお聞きしてもよろしいかしら?」



ふうと一呼吸を置いて、気持ちを切り替える。今は淑女としてではなく、貴族として。毅然とした態度で迎え討つ。私は貴女を許してあげない。



「なっ…、何をっ…!わ、私はマクワイア伯爵夫人で…」


「当家に伯爵夫人はおりません。先代伯爵は母。父は爵位継承をしたのではなく、未成年である私の後見として名代を務めていただけ。私が二十歳になるか婚姻するまでという限定的なものであり、父と婚姻したからといって貴女が伯爵夫人を名乗れるわけではありません」



デボラは明らかな動揺と焦りと見せ始めた。流石の彼女も何を言われているのか理解し始めたのだろう。



「アデラにしてもそうです。彼女は貴女が連れてきた娘、父との親子関係を理由に婚姻を迫ったそうですが、私との歳の差は僅か一歳。そもそも父の娘ではありえません。取るべき責任が存在しないということだけでも詐欺は成立していますが…」



目を細めて、微かな侮蔑を込めて視線を送る。後ろめたさのためか、デボラは冷や汗を流している。



「そもそも貴女は貴族ではありませんわよね?この国では貴族と平民の婚姻は認められておりません。私はマクワイア伯爵として、父ハロルドと貴女の婚姻は認めない。婚姻関係を白紙に戻させていただきます」


「…っ!」



広げていた扇をぴしゃりと閉じて言い放つ。婚姻関係の白紙。つまり、婚姻の事実をなかったことにするということ。


デボラは悔しそうな表情を浮かべながらも、息を飲んだまま何も言えなくなっており、やがてへたりとその場に膝をついて座り込んだ。



言うだけ言ってやった。貴族らしい態度を崩さないために、デボラに反論の隙は与えなかった。言い合うような形になってしまったら、毅然とした対応を続けられるか自信がなかったから。


もともと希薄な関係性でしかなかった。デボラ達は初めから私を煙たがった。推測でしかないが、貴族に対して歪んで偏った羨望を抱えていたのではないかと思う。だからこそ、生まれながらに貴族だった私が憎たらしかったのだろう。けれど、先刻見せた強い悪感情を抱くまでになったのは何故なのかが分からない。相互理解など望んではいないけれど、胸の内には淀みが残っていた。



ざまぁ弱めでしたかね

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