エピソード3 ありがたく腹痛を味わうがいい
前世で「若いうちに努力しないと、
のちの人生で死ぬほど後悔する」
という強烈なトラウマを刻み込まれた
主人公・カイ。
彼の目標はただ一つ、
「35歳で悠々自適な不労所得生活」…
はずだったのですが、なぜか手に入れた
「収納スキル」と「掛け合わせ魔法」で
うっかり国を建てるハメに…
ファング・ボアの巨体を泥沼から
引き揚げた瞬間から、開拓地は
大解体作業場と化していた。
「おいダン、足を引っ張れ!
レイ、水魔法で血抜きしながら洗え!
鮮度が落ちたら肉の価値も、
素材の売り値も下がるんだよ!
俺のボーナスが…ゲホン、ゲホン」
「口だけ動かしてないで手も動かせカイ!
こんなデカいバケモノの解体、普通は専門
の解体屋が数人がかりでやる仕事やぞ!」
「文句を言うな!
高級な肉とお宝が目の前に転がっている
んだぞ! エマ、大鍋の準備はいいか?」
「うん、お湯もたっぷり沸いてるよ―
香草も野菜も切って準備万端!」
カイの怒号のような指示のもと、ダンが
土魔法で巨体を持ち上げ、レイが水魔法で
血と泥を洗い流し、カイ自身も風魔法で
気流を作り出して皮を引き裂いていく。
さっきまで震えていた若者たちも、
カイの図々しい覇気に引っ張られ、
骨から肉を削ぎ落していった。
削ぎ落された肉の山。
丁寧に剥ぎ取られた硬質の皮。
青白く光る2本の巨大な牙。
「フフフ… ハハハハ!
見ろ! この見事な皮と牙を!」
カイは血と泥に汚れながら、
剥ぎ取られたばかりの毛皮をなでまわし
怪しい笑みを浮かべていた。
悪い顔である…
「ファング・ボアの毛皮は、
高級な防具や冬物のコートになる
この太い牙は、高級な装飾品の素材だ
街の商会に持ち込めば、足元を見られた
としても金貨二百枚… いや…
うまく交渉すれば三百枚は下らないぞ!」
「さ、三百枚?金貨三百枚って言ったら
俺たちが一ヵ月暮らせる大金やないか!」
ダンが目を丸くして叫び、
レイもビックリした顔で額を抑えた。
「おいカイ、まさかその金で豪遊する
つもりじゃないだろうな?」
「馬鹿言え! 豪遊なんて一瞬で消える
無駄金に使うかよ! 開拓用の鉄製農具を
買って、隣町から腹をすかせた労働者を
大量に買い叩く…ゲホン
手厚い待遇で雇い入れるんだ!」
「本音がダダ漏れなんだよなぁ…」
♦
夜の開拓地には煌々と燃え上がる
おおきな篝火がいくつも焚かれていた。
「なんだこの柔らかい肉は?」
「脂が甘いぞ! うまい! うまい!
噛むと旨味が口いっぱいに広がる!」
若者たちが焼極上肉にかぶりついている。
大鍋からは濃厚な肉骨汁の匂いが漂い、
エマがレイの横でお玉を振るっていた。
「みんな、どんどん食べてね!
お肉はまだまだ山ほどあるから!」
「お―! エマちゃん最高―!」
「やれやれ、品のない食い方だな。
まるで野蛮な獣の群れだ」
「ですね、監督官 食い意地だけは
一丁前で、見ていて胸が悪くなります」
匂いに釣られて現れたのは、
ブデンガと護衛の騎士二人だった。
せっかくの宴の雰囲気が、
冷ややかな空気に包まれる。
(……あ? なんだこいつら
盛り上がりに水を差しやがって……!)
カイはコメカミをピクつかせ、
フッ冷めた微笑みを浮かべた。
(ふふふ……ちょうどいい
四日前に毒キノコであたって悶絶した
『激烈な腹痛』、たっぷり味あわせてやる!)
カイはこっそり自身の収納から『腹痛』を取り
出し、三人の背中に向けてそっと放出した。
(ほれっ!)
「……ぶっっ!? ぐぅっ……!?」
ブデンガの顔面が真っ青になり、
腹を抱えてくの字に折り曲がる。
「なっ、なんだ……!? 急に腹が……! 」
「ぐっ、ぐぅぅ……! 痛い、痛いぞ――っ!?」
護衛の騎士たちも、悶え苦しみ始める。
苦悶の表情を浮かべ、脂汗をダラダラと
流しながら、絶叫する。
「ま、待て……! 便所はどこだ――っ!?」
「わ、わしが先じゃ! 道をあけろ――っ!」
「ぎえええぇ、もう漏れる――っ!!!」
三人は尻を押さえながら、闇夜へと消えていく
(お前らに食わせる肉は一欠片もねぇよ!
せいぜい便所で反省しやがれ!)
「ふん、邪魔者はいなくなったぞ―――!
気を取り直して、食え! 食え! 食え―!
明日も朝からガンガン働いてもらうからな!
タダ飯だと思うなよ!」
「一言余計や! お前は……」
ダンがすでに腹をパンパンに膨らませて、
幸せそうに地べたに転がっていた。
♦
宴の喧騒から少し離れた丸太…
レイがカイの隣に腰掛ける。
「しかし… ファング・ボアの肉が、
これほど美味いとはな―
頭を一撃で仕留めたおかげだ」
篝火の爆ぜる炎の向こう側…
そして自分の手元をふと見つめた。
その視線には、浮かれた空気とは違う
深い疑問と警戒が混ざり合っている。
「なぁ、カイ…
宴の最中に野暮なこと聞くけど…
昼間のあの魔法、雷みたいなやつ…
あれはいったい何だったんだ?」
「ん? ボア焼きの仕込みだが?」
「そういう冗談を聞いてるんじゃない
この世界じゃ、光魔法以外の四属性、
火、水、土、風なんて誰にでも使える…
俺だってダンだって使える」
レイの目が真剣みを帯びる。
「魔法は火魔法なら火、水魔法なら水、
一つずつ単体で放出するのが理だ
お前は二つの魔法を同時に発動して
掛け合わせていないか?
そんな芸当できる奴は、この世に一人も
いねぇ 掛け合わせることが出来た
としても、どうなるかわかりゃしねぇ
昼間、いったい何をしたんだ?」
レイの言葉に、カイは肉を噛む手を止め
夜空を見上げた。
「何をした、ねぇ…」
パチパチと篝火の弾ける音を聞きながら
カイの意識は幼少期へと巻き戻っていく。
(8歳の時だったか…)
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