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魔石クラフター2~ダンジョンのおくすり屋さん  作者: 高瀬あずみ


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6.藤川ダンジョン 三日目


「そういえば、これから私のお小遣いってどうなるの?」


 無事帰宅してから家族で囲む食卓。本日の料理担当は父。そして父が作るのはいつだって和食と決まっている。(さわら)の西京焼き、美味しいです。母がリクエストした茶碗蒸し付き。


「そうね。高校生になるから少し上がるわね」

 茶碗蒸しを一口味わって、満足そうな顔で母が答える。好みの味だったようだ。つられて私もぱくり。味付けは濃すぎもせず薄すぎもせず、ちょうどいい。あ、鶏肉入ってた。海老じゃないんだ今日は。


「そうじゃなくてさ。ほら私もDDになって、自力の収入ができるじゃない? なのに貰っていいのかなって」

 食べ始めてまだ間もないのに、もうご飯のおかわりに走っていた兄の後ろ姿に視線をやって、父はそっとほうれん草のおしたしを兄の小鉢に追加していく。

天良(たから)にもずっと渡してたんだから、もちろん璃乃にも渡すぞ?」


「え、お(にぃ)、お小遣いもらってたんだ!?」

 高校生活をダンジョンに捧げたに等しい兄は、一般的な高校生に比べて高給取りだ。それなのに小遣い貰ってたんだと驚いた。

「おう。日常で使うのは貰った小遣い。ダンジョンで稼いだ分は装備とかに回すからな。命賭ける装備ともなるとそれなりに掛かるぞ」

「あー。分けてるんだぁ」

 ほうれん草のおしたしはポン酢でさっぱり。おじゃことかつおぶしのトッピング付き。

「そうよ? 怪我とかしても自己責任なんだから、ポーションももちろん天良が自分で買わないといけないでしょう? だからダンジョンで使う分に関しては天良。それ以外の学校関係とかは親の領分ってことね。——お父さん、これ本当においしいわ。また作ってね」

 母に茶碗蒸しを絶賛されて機嫌のよい父は、母のグラスにもビールを注ぐ。うちの両親はそんなにお酒を飲む方ではないけれど、晩酌は欠かさないのだ。

「だから璃乃も安心しなさい。父さんにはそれくらいの甲斐性はあるから」

「お母さんにもね」

 両親の年収とかは知らないけれど、金銭的に不自由した覚えもないから、きっとそれなり。現在は会社にお勤めしているけれど、未だ休日にAランクダンジョンに潜るような夫婦だし。


「そっちの心配はしてない。ただ私、装備とかにお金掛からないから。ポーションも自分で作るし買わないしさ。テントとかテーブルセットもひーちゃんから貰っちゃったし」

「あら、翡翠(ひすい)がくれたんなら貰っておけばいいのよ。あの子、すぐに新しいの買うから」


 ひーちゃんこと翡翠(ひすい)さんは、母の妹でつまり叔母。結婚はしないと宣言して、収入のすべてを趣味に注ぎ込んでいる人だ。ここ数年はソロ・キャンプに嵌っていたらしく、

「新しいの欲しかったのよねー! 好きなの持ってってちょうだい!」

 と、気前よく色々くれた。ただ押し付けるんじゃなくて、ちゃんと私の好みかどうか聞いてくれるから、貰って困ったことはない。むしろ貰いすぎでないかと心配になるくらい。


「まあ璃乃は『創造職(クラフター)』だから、我々『戦士職(ウォリアー)』とは違うのだろうけれど、DDとして使わないなら貯めておけばいい」

「そうよ。璃乃は今、一層しか行ってないから余計に出費もないんでしょうけれど、今後何があるのか分からないのだもの」


 結局、両親から引き続き小遣いは貰うことになった。ただこれまで都度、買ってもらっていた服とかは自分で出そう。でもダンジョンに潜ってたら、そっちもあんまり必要ではなさそうなんだけどね。





 というわけで。藤川ダンジョン三日目である。今日は祝日ということもあって、いきなり人が多くてちょっと戸惑う。Cランクダンジョン以上ならば十層毎に一層入り口に戻って来られるゲートがあるんだけれど、十層しかない藤川Dダンジョンにはそんなものはなく。目当ての層が何層であっても、地道に一層から進むしかない。

 なので、私のすぐ横をものすごい勢いで次々と人が走り去っていく。身体強化を大抵が持っている『戦士職(ウォリアー)』も。魔法で推進力にしているらしい『魔法職(ウィザード)』も。あの勢いならば、二層入り口まで道ができそうだなあ、なんて思いながら、私は二層入り口方面を避けて歩き出した。横を人が走ってるような場所じゃ、落ち着いて作業もできないしね。



 今日目指すのはギョーゴという薬草の群生地だ。群生地の中で、そこが一番二層への道から遠かったから。二層入り口を北とすると、西南あたりになるかな?

 これで取り扱う薬草は三種類目。正直、鑑定がなかったらどれも雑草に見えて見過ごしていたと思う。ダンジョンの外にも普通に生えてそうな草ばっかりだから。低級ポーションで使う薬草は、どれもそんな感じらしい。中級ポーションの材料からいきなりファンタジーぽくなるとも聞いた。それを自力採取する日なんてきっと来ない。


 ちょっと白いふわふわの毛が生えているような草で、それは葉も茎もだ。用があるのは葉だけで。しかもどの葉でも良い。……んだけど、なんとなく、柔らかい少し色が薄い上の方の葉だけを積んでみた。食べられそうな気がする。鑑定したら食べられるみたい。


「でも使い方って、よもぎ餅みたいな草餅にするしか思い浮かばないな。うーん、和菓子かぁ」

 お菓子作りは趣味だけど、洋菓子ばっかり作ってきた。せいぜい、フルーツ寒天とか白玉くらいで、餡子は市販品を使う。

「お餅は……、うん、ホームベーカリーで餅つきできたはず。よし、挑戦してみるか」

 とりあえず、ポーション用以外にも柔らかい葉を摘んではアイテムボックスに。

「ひーちゃん、和菓子好きみたいだったし、テントのお礼に持っていこう。そうしよう」



 三回目ともなると作業も少し慣れて。あと疲労度も最初ほどではない気がする。でもまだ、一度に作れる量が増えるまではいかない。地道にレベルあげていくしかないだろう。

「おいしくなぁれ」

 午前中のノルマである二十本ができあがると、いそいそお昼の用意である。なんか食べることばっかり考えている気もするけど、気のせいということにしておこう。ポーション作ると妙にお腹がすくのだ。


 本日のお昼ごはんはお好み焼きと焼きそば! 炭水化物と炭水化物のコラボレーション。さすがにごはんは付けない。兄なら付けているところだ。

 両方に共通の具材ということで、シーフードミックスをたっぷり投入。焼きそばにはオイスターソースも使う。イカにエビの甘さと食感。そしてたっぷりのキャベツ。ざくりと大きく切り分けて、誰も見ていないのを良いことに齧り付く。アイテムボックスに作りたてを入れるのだけれど、ソースが焼ける匂いに何度もつまみ食いしそうになった。ダンジョン第一層の草原にソースの匂いという暴力が広がる。飲み物は自家製生姜シロップの炭酸割り、つまりはジンジャーエール。あっつあつのお好み焼きで火傷しそうになった口をさわやかに冷やしてくれる。完璧では?


 よそのお家ではどうか知らないけれど、我が家ではお好み焼きとなると、一人で二枚食べるのが普通。今日は焼きそばもつけたので一枚だけ。振りかけずに持ってきたかつおぶしがまだ踊っている。アイテムボックス様様。

 ダンジョン内に電化製品持ち込めるなら、その場でホットプレートで焼くんだけど。あ、カセットコンロなら持ち込んで使える、のか? コンロが電池使ってるとダメそうなんだよね。じゃあ固形燃料持ち込んで火をつける? 鉄板やフライパンを乗せる五徳がいる?

「なんかますますキャンプっぽくなるね?」

 これはひーちゃんに相談案件かもしれない。いっそ飯盒炊飯で定番のカレーもあり?

 とりあえず今はお昼を堪能するのだ。あ、マヨ忘れてた。なくても美味しいけどあったら嬉しい。



 私が思っていたよりも。匂いは広がっていたらしい。ポーションの納品に行ったとき、そこかしこで

「お好み焼き、食っていこうぜ」

「なんか、妙にお好み焼きが食べたくなってさあ」


 ……私のせい?

 本日はがんばって四十五本納品した。午後にもう一回回数を増やしたのだ。ああ、おなかすいた!


 


なんかこの話、メインは食べ物かもしれない。「璃乃の次のごはん、どうしよう?」決まったら書くみたいな。


ほうれん草のおしたし。おひたしとも言う。正式には浸すから「おひたし」らしいけれど、「おしたし」でも良いらしい。家では「おしたし」呼びだった。ゲシュタルト崩壊しそうになる。


最初、三日目は土曜日にするつもりでしたが、そうなると前日の晩御飯が金曜日だから兄カレーでないとおかしいとなり、祝日に変更。春分の日があって良かった。璃乃はダンジョンを出てスーパーに寄って買い物しようとしてお彼岸だと気が付いたので、帰宅してからおはぎを作ることに変更しました。関西では通年でおはぎと呼ぶ。あんまりぼたもち呼びはしない。


ひーちゃんこと翡翠さんは、瑠美お母さんと少し年齢が離れています。何かするときには道具を揃えてからなタイプ。今後出てくるかどうかは未定。


ちょっと遡って職業表記「」から『』に変更します。

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