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有罪愛  作者: 臣 桜


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目を逸らすな!

「その結果、母はあのマンションで首を吊って死にました。家主なんですから、その顛末ぐらい聞いたでしょう? どう思ったんです? 当時、ベビーベッドが空だったと聞いたはずなのに、あなたは捜索願いを出さなかった。『これで問題が片付いてせいせいした』と思ったんじゃないですか?」


「ち……っ、違う……っ、私は……っ」


「ならどうして、俺が連絡するまで探す素振りすら見せなかったんだよ。俺がずっと瀧沢冬夜として育てられた事が、何よりの証拠だろうが!」


 迸るような樹の怒りを浴びせられ、三神は呼吸を荒げて視線を泳がせている。


「……あぁ、それともアレか? 俺を見ればお前が殺した北條優那を嫌でも思い出すから、会いたくなかったのか? 中條(なかじょう)製薬のお嬢様に、婚外子がいるって話もしてないだろうしな? お前、二十三歳と二十二歳の息子、二十歳の娘がいるんだっけ。娘は大学のミスコンで優勝した美人だって? 〝大好きなパパ〟に婚外子がいて、相手の女を捨てて殺したって知ったら、皆どう思うだろうな?」


「わ……っ、私を脅すつもりか……っ」


 三神は顔色を悪くしながらも、樹を睨む。


「脅すも何も、すべてお前が撒いた種だろうが。色欲に負けて女の運命を狂わせただけに留まらず、その子供がどんな地獄を味わおうが構わず、天上人の自分たちは悠々自適に暮らしていた? ふざけるんじゃねぇよ!」


 樹が怒りを叩きつけたあと、シン……と座敷に沈黙が落ちる。


「俺は北條優那の元から連れ去られ、その男の元で育てられた。そいつは心の底から北條優那愛し、盲信していて、何も分からない無垢な子供に自分が愛した女への歪んだ愛を向けた。そいつにとっての女神……命に替えても構わないぐらい愛した女は、顔がいいだけのクズに弄ばれ、首を吊って死んだ。その男は、その絶望と伝わらなかった想いを、北條優那そっくりのツラを持つガキにぶつけたんだよ。……俺は育ての父親から、性的虐待を受けた。……それもこれも、お前がきちんと責任をとっていれば、起こらなかった悲劇だ」


 三神は怖れの混じった目で樹を見てから、さり気なくその目を逸らす。


 ――が。


「目を逸らすな! お前の前にいる俺こそ、お前のしでかした罪の結晶なんだ! 髪を伸ばして女物の服を着せられて育てられ、父親と思っている男に掘られた俺が! お前の息子なんだよ!」


 ギュッと唇を引き結んだ春佳は、膝の上で激しく震えている樹の拳に気づき、そっと彼の手を握る。


「……わ、悪かった。謝る」


 三神が言ったあと、秘書が畳の上に置いてあったジュラルミンケースをテーブルの上に載せ、開けた。その中にはぎっしりと札束が詰まっている。


「……い、一億入っている……。……これで許してくれないか……?」


「はっ」


 その金額を聞いた瞬間、樹は鼻で嗤っていた。


「カネで解決できると思っているのは、さすがメガバンクの社長サマだな? それで? 俺の二十四年間の苦悩が、一億ごときで解消できると思っているのも流石だ」


 そう言われ、三神は言葉に窮している。


「強請ってる訳じゃない。ただ、DNA鑑定を受ければ俺たちは事実上の親子だと世間に証明できる。勿論、三神家の財産分与にも関わる事になる。……でもそんなゴタゴタには巻き込まれたくないし、お前の子供たちの恨みも買いたくない。……けどこれできちんと片づけたいと思うなら、誠意を見せろよ。俺と母親の人生を台無しにした事を詫びて、人間二人分の人生がかかったと思わせる金額を提示しろ。そうしたら、今後いっさいお前に関わらないと誓約書でも何でも書いてやる。その時は、お互い弁護士を立てて正式な話をする」


 金目当てではないとはいえ、この状況を割り切るにはそうするしかない。


 謝罪を受けたとしても、心ない「申し訳なかった」を受けて許し、三神がそのあとも恵まれた家族たちと幸せに暮すと思うと、腸が煮えくりかえって堪らない。


 ならば相応の金額をもらって、手打ちにしたほうがずっとマシだ。


 三神としても、今後いつ家族やマスコミにバラされるか分からない恐怖を抱え続けるより、そこそこ「痛い損失」と思うぐらいの金を出し、〝約束〟を取り付けられたほうがいいだろう。


「示談金という体で五億出せ。この一億と足して六億だ。年収で億単位もらっているメガバンクの社長なら、無理じゃないだろう」


 その形にしたのは、示談金にすれば税金は掛からないからだ。


「親子関係があると分かったら相続税をとられるから、あくまで他人として、適当な理由をつけておけ。その内容についてはそちらの弁護士に任せる。だがこちらも代理人を立てるから、誓約書に変な要求をつけたらすぐバレるものと思え。交渉決裂になったら、すぐさまリークだ」

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