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彼等とは、混ざるな危険のレッテルが。  作者: 夕暮 瑞樹
第一章 まだ知る世界 side長船
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第十九話 僕等の夢

「浦井君、大丈夫なの?」

「…ぇ?」

ボーッとしていた所為か、一瞬島田さんが何を言っているのか分からなかった。

「浦井君だよ。パニック障害って記事に載ってあったけど、?」

「あぁ、浦井か。あいつは今…、家で安静にしてるよ。」

「そう?なら良いんだが…?」

島田さんは、敢えて僕の棒読みの回答には突っ込まず、いそいそと自分の話題に切り替えた。だらしなくコンビニの制服を着崩しながら、自分のロッカーをゴソゴソと漁る。

「実はさ、俺遂にバンド組む事になったんだよ。バンド名も決まって、『ランドアウト』って言うんだ。」

「えぇ⁉︎凄いじゃないですか、おめでとうございます‼︎」

「凄いだろ?ほら、」

そう言ってロッカーから取り出したのは、僕にとっては懐かしい、ランドアウトの結成記念写真だった。田島さんが着ているジャケットが凄くお洒落で、丁度この頃僕の父が愛用していたジャケットと柄が似ていたがために、長船家は近所で一時有名になった。

「こいつら凄ぇ良い奴等でさ、俺もう着いていくって決めたんだ。だからさ、俺もうバイト辞めるんだわ。」

「えっ、」

僕はふと島田さんを見上げると、自然と奥のロッカーの様子が目に入ってくる。其処にはもう、島田さんの私物は無かった。

「俺、お前等に追いついてやるって言ってたじゃん?あの約束必ず守ってみせるから、お前等も早く浦井の体調治して戻ってこいよ。」

「…うん。」

僕が俯いて返事をすると、元気だせよと肩を叩かれた。

「浦井は大丈夫だって、絶対治るから。」

な?と僕の顔を覗き込む島田さん‥だけど、そういうんじゃないんだよ、僕が求めているのは。

 自分の汚れた靴を見ながら僕は重たいため息をつく。浦井の病気は悪化していくばかりで、本人にはもう治す気はないらしい。そうと分かっていても、ちょっとでも良くなればと願ってしまう僕。我ながら、今の状況が馬鹿らしかった。





 家に帰り部屋に戻ると、相変わらず電気も付けずに椅子に座ったっきりの浦井がいる。パニック障害では無いものの、マスコミの影響と過激なカスタムイエローを支持するファン達の影響で半年も外出をしていない彼は、かなりの鬱症状に陥っていた。

「なぁ哲ちゃん…最近さ、夢を見るんだよ。俺等全員が楽しそうに芸能活動をやって、カスタムイエローさんと楽しく話す夢。…結局、それが俺の理想なんだよ。」

浦井はふとそういうと、此方を見てもいないくせに疲れただろと声を掛けられた。

 僕はうんそうだねと何度目か分からない何時もの返事を返すと、取り敢えず荷物をしまいに洗濯機のある手洗い場まで向かう。

 その途中で、すれ違い際に誰かに袖を引っ張られた。

「浦井君、本当に大丈夫なの?ずっと彼処から動かないし、話し掛けても何の返答もない。」

振り替えれば、心配そうに眉を寄せた富岳少年が立っている。この家にいる時間が長い分彼を気にする時間は自然と多くなり、特に富岳少年は週に一度は浦井少年と遊んでいる。そしてこの少年と将来の僕等が繋がっていることを知っている彼にとっては、今の浦井はまるで人が変わったように見えているんだろう。

「ねぇ、大丈夫なの?浦井君おかしくならない?」

質問を繰り返す富岳少年に、僕は何も言えなかった。もうとっくにおかしいよと言うべきか、誤魔化すべきか。兎も角、浦井の問題を早く解消せねばと対策を練る必要がある事は自覚させられた。

 そうとなれば、僕は荷物を置いて直ぐに部屋に掛け戻る。


「浦井っ!」

と言って部屋の襖をバッと開けてやれば、流石の浦井も反応せざるを得なかった。

「俺等ってさ、バンドをする為に死んでまでして此処に来たんだよな?」

「え、ぁ、うん?」

その迷いに一瞬だけ見えた本来の浦井を、僕は逃がす訳にはいかない。

「やろう、バンド。」

「…?でも俺等音楽業界出禁状態だぞ?」

「出禁とか関係ない。やろう、バンド。」

「はぁ?ちょっと待てよ、」

戸惑う浦井を置いて、浦井の鞄からかつて業務用だった携帯電話を取り出す。その間も待て待てと肩を引かれていたが、僕はお構いなく何時もの音楽スタジオに電話を繋げた。




ツ、ツ、ツ、ーーーー……//もしもし此方浦井スタジオです


もしもし?ニュートラルの、(ちょ、何してんだよ)長船です


あぁ、ニュートラルさん!連絡が途絶えて心配していたんですよ。事務所からも何のメールも来ないし、新聞には浦井君がご病気で休業って書いてあるし


えぇえぇ、そうなんですよ。そうなんですけど、ちょっと用事が変わりまして、(ほんと何して、あっ)えーと、ライブ機材一式をお借りしたいんですよ(ちょっと何聞いてないっぎゃっt)だから来週の夜、其方の都合が合う日を教えて欲しいんですけども?


…なんか、大丈夫ですか?浦井君の声がちょいちょい聞こえる気がするんですけど、


全然大丈夫です、それだけ元気になったって事なんで気にしないで下さい


あっ、成る程?まぁ、元気ならなによりですが…じゃあ一旦スケジュール確認して来ますね


…………(おい)(何?)、(何勝手にライブ機材なんか)(良いから良いから)………


えーと来週の夜ですね…一応火曜と木曜が空いてますが、もし八時までにすむなら月曜も貸せますよ?


んー、多分終わりそうにないんで火曜の夜で良いですか?


了解です。あの、事務所とかって


大丈夫です、気にしないで下さい。では失礼します


…了解です、失礼します…//……ーーーー、ツ、ツ、ツ




「哲ちゃんどういう心算?俺正直怒ってるよ。」

「怒れ怒れ、その方が感情豊かで浦井らしい。」

「…なんだそれ。」

浦井は拗ねたように椅子へ戻っていくが、実際今の抵抗する姿が、此処数ヶ月間の中で一番浦井らしかった。

「で、どうすんだよ。ライブして、また炎上して?事務所にも怒られて、で正式に解散が目的か?」

くるくると椅子を回しながら、浦井はふてくされる。

「ううん、勿論違うよ。」

「じゃあ何?カスタムイエローさん達に土下座して曲譲って貰うのか?」

「ううんそれも違う。」

「じゃあ何、また死んで時間戻すの?」


「それは、強ち間違ってない。」


「…え?」


僕は、浦井と目を合わせながらニコッと微笑んだ。一方浦井は、何か恐ろしいものを見るような目で僕を見る。

「…本気?」

「うん、本気。」

「…。」

浦井は黙ったまま椅子を回すスピードを早めた。悩んでいるのか呆れているのか分からない様な顔をしながら、ウェーと声にならない呻き声をあげている。


 どうせバンドが出来ないなら、どうせ浦井が鬱で伏せてしまうなら、それならまた時間を戻してしまえばいい。何故だか、今死んでも死ねる気がしなかった。また時間を戻され、僕等の存在は古いものになる。その方が、カスタムイエローさんもいないし、自由な音楽活動が出来る。その方が、少なくとも今よりかは楽しくいられるだろう。


 それが、僕がたった今導いた、答えだった。

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