(80)◇ 誰にも渡さない(アルフォンス視点)(31)
「アルフォンス様!あちらに珍しい鳥がいますわ!」
「リリアンヌ王女、急に走ると危ない」
「も、申し訳ございません、私、嬉しくて……」
「ロッシュ子爵様、姫様は一ヶ月ぶりにお会い出来るこの日を、それはそれは楽しみに待ち焦がれて、ついはしゃいでおられるのです」
「エマ!もう、いいから!」
「はい、姫様。ふふっ。でも、お二人様は本当にお似合いでございます!同じ漆黒の美しい御髪に」
「エマ!」
「リリアンヌ王女、少し肌寒くなってきました。風邪を引いてはいけません。そろそろ城の中に戻りましょう」
「………もう少し、駄目ですか?やっとアルフォンス様にお会いできたのに……」
「………分かりました。では、あともう少しだけ。エマ殿、何かリリアンヌ王女に羽織るものがあれば」
「はい、こちらに。ロッシュ子爵様は本当に良く気が付かれてなんてお優しい御方でしょう!ブラーム国の男性は優しくて素敵な殿方ばかりで」
「エマ!おしゃべりはもういいから!アルフォンス様、あちらにお見せしたい美しい花が咲いていますの。ご案内いたしますわ。参りましょう!」
「………わかりました」
仮婚約後、自分は頻繁にマキシム国を訪れていた。
グスタフ共和国に向けて婚約を周知させ、両国の和平条約を早期に締結する為に水面下で動いていた。
それにはリリアンヌ王女と会い、手っ取り早く周りに仲の良さを見せつけて噂を広めろと、我が国の国王陛下に命じられた。
心底不本意で、クリスにの耳に入るのも時間の問題だと思うと悔しく、それでも抗うことはできなかった。
リリアンヌ王女は自分に会うといつも嬉しそうにしている。
初めて会った時のぎこちない笑顔は消え、今は素直な笑顔で楽しそうだった。
この澄んだ目で熱く見つめられたら、どんな鈍感な男でもわかる。
リリアンヌ王女は自分に好意を持っていた。




