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あゝ憎むべき紅炎の騎士  作者: 和泉キョーカ
校内大会編
7/24

情報屋

 五王会の力の一端を見た希は、今の自分たちに必要なものにたどり着く。それは、生徒たちの特徴を教えてくれる、『情報屋』だった――。

 それは、ただぶつかっただけとも言える。叩かれたとも言える。軽く後頭部に衝撃を受けたとき、彼は彼でなくなった。的確に打ち込まれた指は、その場所に。とあるものの封じられた、その場所の真上に響き、悪意の下、狙い通り、暴発させた。


 休日の、二千人の人が集まる、ショッピングモールで。


「天城って知ってるか?」

「天城さん?うん、知ってるよ。エンペラーでしょ?」

「あぁ。そして、俺の能力を暴走させた張本人だ。」

「え……?」

 忍は銀色に輝く月の下、草原に寝転がった。ここは、忍の夢の中である。

「どうしてそんなひとがこの学校のトップに……。」

 現実とは打って変わって饒舌な希が、体育座りのまま忍を見下ろし、尋ねる。

「まさか、また忍を狙って……? また……あぁなっちゃうの?忍。」

「……。」

 むくりと起き上がると、忍は月を眺めて少し黙った。月に手をかざし、開閉する。だがその手を降ろすと、反対の手で希の髪を優しく撫で、彼女に笑いかけた。

「ならねぇよ。俺は強くなったんだ。だろ?俺の素敵なお姫様マイ・マーベラス・プリンセス。」

「……うん。そだね。きっと……そうだよ。私の孤独な騎士さんマイ・ロンリー・ナイト。」

 希も、はにかみながら笑ってそう答えた。


 次の日、忍は授業の移動教室のため、希と共にHR棟四階の一年B組教室から、理科棟二階の物理室に急いでいた。

「あと何分だ?」

「……んぅ。知らない……ふぁ。」

 忍の頭上から眠たげな返事が返ってくる。なぜなら、眠気に襲われてスピードダウンした希を、忍がおぶっているからだ。身長・体重共にライト級の希を背負っていても、鍛え抜かれた忍が疲れることはないが、しかしそれでも総合的に速度は落ちる。

「せっかく学校に来たんだからせめて一日起きたままで――……ってあれ? マレさん?」

「すぅ……すぅ……。」

 希・撃沈。

「うぉう……くっそ、寂しくなるじゃねぇの……だぁあーーっ!」

 意味もなく叫びながら、廊下を走っていく(校則違反)。と、近道である第三予備棟の薄暗い廊下を走っていたとき、忍は声をかけられた。

「そこにいるは誰ぞ?」

「は?」

 声を出したのが何か、がわからない。薄暗いばかりの廊下には、忍と眠る希以外、いないのだ。何だか妙に聞き覚えのある話し方のその声は、だが確かに肉声だった。すなわち、同じ話し方の別人。

「……急いでるんだが。」

「……あぁーっ、そっちすかパイセン!賭け失敗だわー。」

 その話し方も、一瞬のうちに崩壊した。

「は?」

「いえいえお気になさらず。ワタクシ――。」

 ぴょこっ、と忍の隣に、いつの間にか少女が立っていた。

「こういうものでして。」

 べしっ。

「ひだいっ!?」

 悲鳴通り、少女の額に忍の強烈な裏拳が決まった。

「何スか! 何スかパイセン! パイセンは女の子を見たらとりあえず殴るんスか! マサイ族っスか!」

「そのパイセンってやめろ。あとお前誰だ。」

「えー。でしたらセンパイ?」

「……いやお前アヤメのバッジじゃねぇか。タメだろ。」

 巴桜には学年ごとに花の記章があり、生徒はその花がかたどられた何かを身につけていなければならない。現高校一年生はアヤメの花であり、忍はタイ止めに、希はヘアピンに、それぞれアヤメのシンボルをつけている。そして忍の目の前の少女が着ているブレザーの胸元にも、アヤメのバッジが光っていた。

「いやん。センパイそんな私のおムネを凝視しないでください……。」

 顔を赤らめ、くねくねと体を動かす少女。忍はそんな彼女と接しているのが馬鹿らしくなり、その場を去ろうとした。

「あぁッ! 待ってくださいすみません! ココを人が通るの久しぶりなものでつい……!」

「んだよ。急いでるんだけど。」

 メガネに白衣の少女は、走り出しそうな忍を引き留め、まずは、と名乗った。

「初めまして。私三鷹台伊予理みたかだいいよりと申します。イヨリと呼んでください。」

「おう。俺のことは知ってるだろ。言うまでもねぇ。」

「いえ知りません。あなたの姿や能力は見たことありますが。あぁ、あなたがあの炎使いのセンパイでしたか。」

「は!?」

「むぇ……。」

 いきなり忍が叫んだので、背中の希がもぞりと動いたが、すぐにまた眠り始める。

「私はこの学校とその生徒に興味がありません。興味があるのはこの廊下を好き好んで通る人と、えっちなことです。」

「興味がないって……じゃあ何でここに? それに……好き好んで?」

「センパイ質問多いっスね。まじヤベーっス。まるでバカっス。……私は、小学校の頃少しいじめられてまして。避難場所を探していたのですよ。……ですが悲しいかな、人間の本質は場所を変えた所で何も変わりませんでした。」

 寂しげな眼でぽつ、ぽつ、とそう語ると、白衣を翻し、背後にあった教室の戸を開ける。

「ですので、私は逃げました。隠れました。ハイドアンドエスケープです。大脱走です。この教室で……私の能力を使って、世の中を観察しています。」

 忍も後に続いて入ると、HR棟教室の四分の一ほどしかないような狭い空間の隅に、コンピューターがずらりと並んでいた。モニターは全部で四基。ぐにゃぐにゃと絡まるコードが、あらゆる機材に繋がっている。真っ暗な部屋の中で、画面のブルーライトだけが、光源だった。そこに映し出されていたのは、HR棟やグラウンド、体育館、食堂、闘技場、ありとあらゆる場所に配置された、防犯カメラの映像だった。

「私の能力は……アルターゴゾ・エルバッキー・ムニューダー。アンドロメダ銀河からやってきた、情報解析特化のUMAの能力者です。」

「マレと同じ……宇宙の……地球外生命体の能力者……か。」

「ま、それでいつからか、この第三予備棟には出る・・ってウワサが広まりまして。誰にも来てほしくない私としては都合がいいのですが……。つか、来たらさっきみたいに追い返してます。」

 忍は先程の大仰な言い回しの誰何の言葉を思い出した。あれは、幽霊の真似だったようだ。

「それでもここまで来た人は、私の興味の対象になるわけですよ。……んでー。センパイ? 他に質問は?」

 モニターの映像に見とれていた忍は、はっとして、伊予理に向き直った。

「センパイって、何でだ? お前タメじゃないのか?」

「フフン。私、実はまだ十四歳なんスよ。飛び級っス!」

「え、マジか。」

「マジっス。能力使えば成績なんてどうとでもなりますし。」

「不正か。」

「不正っス。」


 べしっ。


「とわいずっ!?」

 悲鳴通り、二回目の折檻である。

「いてぇっスー……人を人とも思ってねぇっス。鬼っス。そんなかわいいおにゃのこ連れてんのにー。」

「何だろうな。お前を見ていると、お前が女の子であることを忘れてしまうよ。」

「あらま、何だかエロい言い方。いいっスね、もっかい言ってもらいっでええぇ!!!」

 軽めのパンチが、伊予理の顎に炸裂する。伊予理は顎をさすりながら、逆に質問する。

「さっきセンパイ『俺のことは知ってるだろ』って言いましたよね。有名人っスか?」

「……わるい、方の。」

「あらま。おにゃのこ起きちゃった。」

 忍の背で眠りこけていた希が、もぞもぞと動いてそのまま忍の首に跨がる。いわゆる肩車だ。

「俺は今川忍。こいつは鹿毛井希。まぁ、黒駒だ。」

「あれ、具体的に言ってくださいよ。」

「……条件がある。それがのめたら。」

「了解っス。」

 忍は希の太股をぺちと叩いた。希はできる限り大きな声で条件を告げた。

「私たちふたりの。……サポーター兼、オペレーターに、なって。」

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