五王会最弱
雑兵祭の強制参加を学校の最高権力、『五王会』に命じられ、渋々承諾した忍。彼はそこで友人たちに迷惑をかけてしまい、ならば親友たち以外に友人はいらないと自らの残虐性を誇示し、生徒たちに宣言した。「自らはこれほどまでに極悪非道である」と。しかし、彼らは認めた。過去の彼ではなく、現在の彼を肯定した。そんなある日、忍は一人の生徒の声を聞く。
ここは、忍の夢の中。しかし、希が入り込んできた時とは違い、忍が立っている場所は、中華風の宮殿の廊下だ。
「……俺が能力を使おうとしたとき、能力自体を忘れていた。その原因はお前なのか?」
紫色の外套を羽織った小さなその影は、口を開く。
「さぁな?そのちっぽけな脳で考えてみるんじゃな。」
「いつもそうやってはぐらかす!いい加減何でもいいから教えてくれよ!」
「何でもかんでも人に聞いて、そんなことでは進歩できないぞ?」
呵呵と笑い、小さな影は廊下の奥へと消えていく。忍は、夢の中でため息をついた。
どこからか、生徒の声が聞こえた。五王会のひとりが、他生徒と決闘しようとしていると。下校途中だった忍と希、桜、将真は、幾人もの生徒が走って行くその先へ、進行方向を変える。人混みをかき分け目的地にたどり着くと、そこは巴桜の中にある緑地の池の畔。ひとりの女子生徒と複数の男子生徒が対峙していた。
「おい、あれ『黒狼組』じゃねえか?」
人混みのどこかにいる生徒が口にする。
「こくろうぐみ?」
「シノブ、おまん知らへんのか?ほんま学校情勢に疎いのぉ。」
「ほっとけ。」
「黒狼組っていうのは、狼の能力者の中でも新聞部に入ることを拒んで、独自のルールを築いてのさばっている不良集団だよ。」
桜の解説の補足をするとするならば、この日本で最も多い能力は、『狼』と『雀』の能力者だ。その多さから、この巴桜に入学した狼、または雀の能力者は新聞部に勧誘される。しかし、個性がないがために自己嫌悪に陥り、その反動で不良と化するものも少なくない。そんな者たちが呼ぶとも呼ばれず集まったグループのうち、狼の能力者たちのグループが、『黒狼組』というわけだ。ちなみに雀の場合は『朱雀組』だ。
「つまりは個性がないからって逃げてるワケか。」
「そう……とも、言える。」
その黒狼組の数人が、何をしでかしたのか、五王会に目をつけられ、仁王立ちする女子生徒に警告を受けているということらしい。
「もう一度言うがな、ここはあんたらの根城じゃないんだよ。たむろしたいってんなら、もうちょっと影らしい影見つけてたむろしな。そのままのさばるなら、あたいとしても不服だが、五王会の責務として排除させてもらうよ?」
忍は妹の腕を肘でつつき、囁く。
「……あれ、誰だ?」
「はいはい知らないのね。あれは指宿ヘレン先輩。五王会最弱クイーンの駒の保持者で、巴桜自警団の団長だよ。」
「へぇ……。」
「うっせぇ!ごちゃごちゃ言ってるんじゃねぇ!さっさとこっから消えろ!」
ヘレンの言葉を無視し、男子生徒たちがそれぞれの能力を解放させる。その手に握られるのは、ひとつひとつ拵えの違う日本刀。
「個性……あるじゃん。」
忍の呟きも聞こえない男子生徒たちが、鞘を払い、ヘレンに飛びかかる。
「はぁ……めんどくさいなぁ!」
ヘレンもクイーンの駒を取り出し、真っ先に迫ってきた生徒の額向かって大きく振りかぶって投げ、まずひとり気絶させる。
「クイーン、解放!……あんたら程度ならガントレットで十分さね!」
鉄鋼でできた籠手で飛び込んでくる生徒をちぎっては投げ、ちぎっては投げする。しかし、ひとりの生徒が振るった刃がヘレンの煌めく金髪のポニーテールを少しそぎ落としたとき、ヘレンの目つきが変わった。
「……てめぇ。」
ぶん、と大きく腕を振り、一撃の拳が髪をそいだ男子生徒の鳩尾にめり込む。と、その生徒はおろか、生徒の後ろに待機していた別の生徒までもが吹き飛び、盛大な水しぶきと轟音、悲鳴を上げて池に落ちていった。それを見ていた将真は一言。
「チートやん……。」
桜も一言。
「あれが五王会最弱……!? 一体五王会ってなんなの?」
「せ、せやけど、あれくらいやったらマレちゃんでも倒せへん? ……マレちゃん?」
「既に夢の中だ」
忍がすやすやと寝息を立てる希の襟首を掴んで持ち上げる。そうこうしているうちに、一振り一振りで十数人の不良を吹き飛ばす『女王』は、さっぱりした顔で池に浮かぶリーダーらしき男子生徒に言い放った。
「言わんこっちゃないだろう? これからは緑地を不当に占拠したりしないようにね。」
しかし、リーダー格はにやりと笑い、ヘレンにつばを吐きかける。
「知るか!こっちにはまだ奥の手があるんだ!鬼怒さんにかかりゃお前なんて……!」
しかしその脅迫にヘレンは後頭部をボリボリと掻きながら返答する。
「鬼怒? あぁー、鬼怒浩太朗のことかい。あいつならあたいが昨日折檻しておいたよ。」
「……へっ?」
戸惑うリーダー格の表情を見て、ヘレンはケラケラと笑っていた。
忍が希を抱えて部屋に戻ってきた時、既に辺りは真っ暗だった。忍は手短に自分と希の着替えを済ませ、台所に向かう。今日の夕飯は鯖の味噌煮と根菜の煮物だ。少し味が濃くなってしまうが、冷蔵庫の在庫整理をしなくてはならない。そして忍が夕飯を盆にのせて居間に来てみると、先程までかわいらしい顔で眠っていた希が起きていて、何やらノートに真面目な顔で記入していた。その目を見て、忍は盆を台所に置き、希がその作業を終えるまで待っていた。夕飯を済ませ、希を風呂に入らせ、寝落ちした希の体を拭いて髪を乾かし、ベッドに運んでから、忍は希が書いていたノートを見た。きれいな書体で『研究ノート』と書かれたそれの中身には、忍も目を疑った。
「これ……マレが今まで戦ってきた生徒たちのデータ!しかも今日の日付の所にあの金髪女王の名前が……なになに?“圧倒的パワー”、“推進力”、“能力はイノシシかサイ”……あいつ、ただ天才ってワケじゃなかったのか……。」
忍は、自分が醜く思えた。今まで希を守る守ると豪語してきた彼だが、それでいて何一つ彼は希のことを知らなかった。知らなくても守れると、そう自分を過信する自分がいた。そして、そうこう考えているうちに、忍は一つの言葉を見つけた。それは赤ペンでぐるぐると囲まれ、重要性を示していた。
「“今の私たちに必要なもの”……。“情報屋”……?」
「あー!誰か来ないっスかねぇ……。退屈っスよ!女の子は退屈になると死んじゃうんスよ?たっとえっばー……。」
少女は、PCのモニターを見て呟く。
「この炎使いのセンパイとか♪」




