はじめて
「彼は本当にひまわりちゃんのこと好きなの?」
そう誠人に言われた日からモヤモヤが消えない。
なんでそんなこと誠人に言われなきゃならないの?
こんな気持ちになるのも誠人のせいだ。
自分に言い聞かせる。
我ながら最低だ。
そんな時、
「日向、今日放課後映画でも行かない?」
冬樹君からのデートのお誘い。
「行きたい!…でも部活は?」
「今日は休み。付き合ってからまともに出掛けてないからさ。」
確かにそうだ。冬樹君からデートに誘ってくれる。
付き合う前より何倍も嬉しかった。
「え?!2人とも付き合ってたの?!」
「まじ?」
冬樹君の言葉を聞いていたクラスメイト達が私達が付き合っていることを知って騒ぎ始めた。
「いつから?!」
「なんで言わなかったのー!」
騒がれるのは悪くない。むしろ嬉しい…。
「別に内緒にしてた訳じゃないんだけどわざわざ言うことでもないかなーって。」
「いやいや、私達葵がずっと冬樹君のこと好きだったの知ってたからめっちゃ嬉しいのに!」
「え?知ってたの!?」
バレてたんだ…そんなに分かりやすいかな私…。
「恋する乙女はオーラが違うんだよ。」
「ハート飛び散ってたもんな。」
そんな飛ばしてた??
「恥ずかしいっ!」
冬樹君は私が赤面する姿を優しく微笑んで見ていてくれる。この人が私の彼氏なんだ…。
自分が今どれだけ幸せか、実感した気がした。
「あれ、でも冬樹君と付き合ってるならこの間見た男子は彼氏じゃなかったのかー。」
その一言で一瞬騒がしかった教室がしんっと静まり返った。
「なにそれ詳しく!」
近くの女子が興味深々に話に食いついた。
嫌な予感。
「私がバイト向かってる途中にあるひまり総合病院の前で男子と楽しそうに話してるのを見たの。しかも楽しそうに話してると思ったら突然見つめだして…」
もしかして、この間冬樹君のことで逃げた時の事かな…。
「見つめだして…!?」
「私まで恥ずかしくなっちゃって逃げちゃったから続きはわかんなーい。」
えぇぇ!?とブーイングがあがる。
それにしてもまさかあの出来事を見られていたなんて、しかも勘違いまでされていたとは。
「葵、その人はなんなの?」
ちらっと冬樹君を見ると、視線を外された。
もしかして…ヤキモチ妬いてる?
「なんなのって言うか…普通に友達だし、その日は友達のお見舞いに一緒に行っててそれで…。」
「でも見つめあってたんでしょ?」
「見つめあってたんじゃなくて…ちょっと喧嘩っぽくなっただけ!」
「なぁーんだ!ちょっと中島!紛らわしいこと言わないでよね!!」
「ごめーーん!」
気がつけばいつの間にか冬樹君は居なくなっていた。
「あれ、冬樹君は?」
その言葉に皆は知らないと首をふる。
とりあえず探しに行こう。私は騒がしい教室をこっそり抜け出すと、冬樹君の行きそうなところへ向かった。
屋上、購買、最寄りの男子トイレ、どこにも冬樹君はいない。
そこで私もさすがに不安になる。
もしかしたら勘違いをさせてしまっているかもしれない。呆れられてたら?
心拍数が早くなるのを感じた。
その時、
「日向?」
後ろから聞こえる声、この声はよく知っている。
「冬樹君!!」
冬樹君は笑って私に手を振ってきた。
その姿にさっきまでの不安は嘘のように消え去った。
「そんな息切らせてどうしたの。」
「冬樹君が急にいなくなっちゃうから…怒らせちゃったのかと思って。」
「なんで俺が怒るの?まぁ少し嫉妬はしたけど、怒りはしないよ。」
嫉妬してくれてたんだ…
「良かったー、あれはほんとに中島の勘違いだから!何でもないんだよ?」
「分かってるよ。友達だろ?でも入院してる友達なんていたんだね。あまり良くないの?」
遥花ちゃんのことに触れてきてドキッとする。
入院しているのが貴方の好きだった人なんて今更言えるわけない。
たとえ今は私の彼氏だったとしても。
「あー、、うん。ちょっと難しい病気で。でも、元気だよ!」
「なんか今日の日向少し変。熱でもある?」
「そ、そうかな?普通だよー。」
動揺しているのがバレてしまった。話題を変えよう。
「それよりさ、今日の放課後楽しみだなぁ!」
「そうだね。俺も楽しみ。」
そう冬樹君は笑ってくれた。
放課後、冬樹君は席を立つと「じゃあ行こうか。」
それを聞いたクラスメイトはニヤニヤしながら見送ってくれた。
「もうクラス公認だな。」
「あんなに騒がれるとは思ってもなかったよ…。」
「はは、俺も。」
いつもの会話ができている。この調子!
「なんかいい映画やってるかなぁ。」
「俺、あのー、なんだっけ。ほら、主人公の少女が動物に変身して悪いヤツ倒すー…」
「アニマルウーマン!!私もそれ見たかったのー!」
「それそれ!俺もそれ観たかったんだよ!」
「迷うことなかったね!即決定!」
そう笑い合う。前よりずっと、近づいてる。
こんなに笑い合えることも少し前まではなかったんだから。
「あ、ひまわりちゃん!」
後ろから声をかけられて反射的に振り返る。
そこにいたのは
「誠人…。」