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違法な出待ちと身代わり主人公


「おい、ここで間違いないんだろうな?」

「ああ、確かにこの前ここから声優が出てくるのを見たんだ」


ここは都会のどこかにあるスタジオのビル前。

この中では沢山の声優さんが集まりアニメのアフレコというものを行っている。

それはヲタにとっては決して入れない楽園であり、声優さんにとってはファンの皆の為に作品を作るため戦う戦場である。


そんな場所の入り口近くに2人の男が隠れていた。


「おい、あれ川中ゆいじゃねぇ?いきなり、上ランク来たぞ!」


セミロングヘアの子供っぽい雰囲気を持った彼女は川中ゆい。

まだ新人声優ながらも色んなアニメに出演していて、これからが期待されている女性声優さんである。


「でも、スタジオからじゃなくて向こうの道から来たぞ?」

「今からスタジオ入りなんだろ」

「こんな遅い時間にか?」


既に時刻は夜の9時である。

ゆいはスタジオから出てきたのではなく、スタジオに向かってる途中の様だ。

時刻は不自然だが、彼らは違法な出待ちではなく、違法な入待ちになったようだ。


「なんでもいいって!目の前にいるんだからよ。それより、抜かるなよ」

「ああ、分かってるって」


2人の男はそう言うと、いきなり物陰からゆいの後ろに回り、クロロホルム入りのハンカチを嗅がせた。


「え!?やだ!ちょっと……」


いつもアニメでよく聞く可愛らしい声。

だが、今その声で再生されるのは、何者かに襲われ、意識を失うセリフ。


「へへ、やったぜ。よし、連れていこう」

「うはぁ、やっぱり間近でみると可愛いなぁ」


二人組の男は声優さんを中心に犯罪を行う違法グループである。

といっても今日がその初仕事。

とりあえず第1の犯罪である誘拐は上手くいったようである。

そして場面は変わり、公園の掃除用具倉庫に3人はいた。



ゆいは壁にもたれ掛かって眠ったままで、

男の1人がニヤニヤとした顔でその全身を見ている。


「可愛い寝顔だな。いつもネット動画とかで見てるこいつを独占してるのかと思うとたまんねぇな」

「おい、楽しんだら俺にも早く代われよ」


二人組の男は片方が入り口で見張りをして、もう片方がゆいとお楽しみをするという算段らしい。

この公園の倉庫は管理もいい加減で鍵もかかってない事も多いくらいなので、わざわざこんな遅い時間に人が来ることもないと思われるが、念のためのようだ。


「分かってるっての!だからちゃんと見張ってろよ。こんな事やってるのバレたら大変だからな」


ゆいの前にいた男も入り口に立って外の景色を見る。

ここは人通りの少ない場所の公園なので、今は外には誰も居なかった。

その光景を見て、男の中の万が一の感覚も無くなり、安堵したようだ。


「へっ、こういう時正義のヒーロー的なやつが現れんのがお約束なんだがな」

「お前、お約束な展開嫌いだもんな」

「おうよ、そういうベタな展開は見飽きてるからよ」

「だよな、俺もお前ら二人には同感でい」

「だろう?」


今の会話の後半に何か違和感を感じた二人組。

途中で明らかに自分達に対する3人目の返事があった。

その違和感のある声のする方はさっきまでゆいが眠っていた壁の方だった。

二人組がそちらを見ると。


「はぁ!?」


そこにはゆいの姿が消えて、黒髪でクセっ毛だらけのボサボサ頭な少年がいた。


「お、お前なにもんだ!?ていうかどっから!?入り口はここしかないのに!?」


慌てふためく男。

それもそのはず、唯一の出入り口に二人で立ってたはずがまんまと中に入られ、バッチリと犯行現場を見られたのだから。


「お前らみたいなクズに名乗る名前は持ち合わせてないんでなぁ。天桜寺カブキ、よろしく頼まぁ」

「名乗ってるだろ!」


名乗る必要はないといいながら挨拶まで済ませた彼は天桜寺歌舞伎(てんおうじ カブキ)

1話目にはいなかった、この物語の主人公。

ようやく登場である。


「で、もうひとつの質問なぁ。どっから入ってきたってやつ。俺は今入ってきたんじゃなくて、お前らが連れて来たんでい」

「はあ?お前なんか知らねぇよ!俺達が連れてきたのは、川中ゆいで」


入り口を見張っていた二人組の男の片方がある事に気づく。

さっきまでいたゆいの姿が消えて、入れ替わる様に現れた謎の変わった男。

そして、その足元に散らばるゆいがさっき来ていた衣服。

これらの情報を総合すると。


「ま、まさか!俺達が誘拐してた川中ゆいは!?」


どうやら女装したカブキというこの男だったようだ。


「う、嘘だろ!?さっき眠らせた時に出た声は完璧に女だったぞ!」

「知ってるかい?歌舞伎ってなぁ、男の人でも女の人の役やるもんなんでい」


いきなりドヤ顔をするカブキ。

さっきまでクールで無表情だったが、突然の豹変である。


「それがどうし……うぶ!?」


セリフにツッコミを入れようとした、その瞬間男の頬を右手で掴むカブキ。


「俺はお前らみたいな声優さんを狙った犯罪者が大嫌いでなぁ。いつもこうやって変装しては犯人誘きだしては退治する身代わり屋をやってんでい」


もの凄い力で男の顔を掴み、ミシミシと骨が軋む音がする。


「が……あがぁ……」


顔を捕まれてた男は気を失い、カブキによってその場にそっと下ろされた。


(投げ捨てないのか……)


その光景を見てたもう1人の男が心の中でそっとツッコむ。


「おい、アンタ!」

「はい!?」


突然カブキがその男に向き直り話しかける。


「わ、分かった!二度とこんな事しないから命だけは!」


そう怯える男の頬に手を伸ばすカブキ。


「ひぃ!?」

「怖いかい?でも俺が身代わりやってなかったら、お前さんがあの声優さんを怖い目に会わせてたんだ」


カブキは人を殺しそうな目でそのまま男を睨み付ける。


「忘れんなよ。俺は声優さんの身代わりもやったが、お前らが犯罪者になるのも止めたって事をよぉ。よかったね……!」


よかったねの部分に強いアクセントを付けたカブキは男の頬を掴む手を緩める。

腰を抜かした男は同じ様にアイアンクローを受ける事はなかったが、強い恐怖を心に刻まれた。

もう犯罪を犯す事はないだろう。

カブキは着ていた上着を直して一息つく。


「ふぅ。これで俺の舞台は」


カブキはそこまで言いかけて、後は無言で去っていった。


(言わないのかよ……決め台詞的なの……)


声に出してツッコミたかったが、さっきの恐怖からか言えなかったようである。



場面は変わり、カブキはさっき自分がわざと誘拐されたスタジオの近くを通りがかっていた。

帰り道の途中の様だ。


「もう少しで決め台詞的なものを言うところだった。危ない危ない。ん?あれは」


カブキの目に マネージャーさんと予定の打ち合わせをしている本物の川中ゆいが映る。


「じゃあ明日はレコーディングからだから」

「はい、分かりました!」

「……」


その様子を見ていたカブキ。

だが、彼はそっとその場を後にする。


「あれ?誰か今いた気がするけど?」


気配を感じ、ゆいが見た方向に既にカブキはいなかった。



カブキは声優さんが好きだが、基本的にはイベント等の会える機会があってもあまり喋らないようにしている。

それは彼なりの声優さんを守る為のポリシーだからなのだ。

という事ではない。



「はぁぁぁぁ……!緊張したぁ……!」


人気のない所で胸を押さえてるカブキ。


「やっぱ、いざ本物が目の前にいるとダメだぁ……」


彼は声優さんに対しては超人見知りなのであった。

そしてさっきと違い慣れない喋り方から普通の喋り方になったカブキ。

こっちが彼の素なのである。

高鳴り続ける心臓を押さえる様に座りこみ、

せっかくの声優さんと話せるチャンスを自ら棒にふった彼の携帯に一通のメールが届いた。


「なんだよ、また迷惑メールか?

今月12件くらい来てるからな。メルアド変えるか?これが迷惑メールだったら変えよう」


メールの内容を見るカブキ。

以下がメールの内容である。


『おめでとうございます!

あなたは全国のヲタクの中から好きな声優さんと1年間一緒に過ごせる権利を得た50人の内の一人である49人目に選ばれました。1年を共に過ごしたい声優さんのお名前を入力して送信してください』


「アドレス変えよう」


まだ続きがあったが、その部分も読まずにカブキはメールを削除した。

だが彼は、いずれまたこのメールと真剣に向き合う様になる。

カブキも、声優さんと命懸けで過ごす一年間を経験する者の1人なのだから。





密かに身代わり屋という仕事を(勝手に)する主人公。天桜寺カブキ。

彼が10人目の参加者。君待イヌコロと出会うのはまだ先の話。


読みにくい文章で申し訳ありません。

日々勉強しながら書いていけたらなと思ってます。

ひっそり頑張りたいと思いますので、よろしくお願いします。

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