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握手会という名の戦いの始まり

2014年から動いてなかった小説ですが、久しぶりに少しづつ書いていこうと思い、1話目も一新しました。

ヘタな内容ですが、記憶の片隅に置いて頂けると幸いです。

どこかの時代で誰かが言った。

「ねぇ、声優さんと結婚出来る人ってどういう人?」


この物語はその答えを胸に声優さんの隣で戦ったヲタ達の戦いの記録である。





声優さん。

それは全ヲタ達にとって超憧れの存在。


人類が決して踏みいる事が出来ない、

二次元の世界のキャラに命と心を吹き込む方々。


彼ら彼女達に会うという事は、

この現実世界で二次元のキャラの心を最も強く内包している方を目の前に出来る事に等しい。


しかし、雲の上の存在の声優さんと接触出来る機会などあるのか?

一つある。



握手会。

普段は手の届かない存在と一瞬の間だけ繋がる事が出来る特別な時間。


アニメが大好きなヲタ達にとって、

最も天使や騎士を間近で見れる時間、

それが握手会なのである!



いつかの時代。

今このアニメショップの地下スペースを使っての会場には150人近くのヲタ達が集まっている。


トークも終わりいよいよ新人女性声優、

雛野ココネと手を繋ぐ事が出来る時間が始まった。


(あーヤバいな。もう僕の番が近づいて来てる……え?もう階段上がるの?じゃああと3人!?)


彼の名は君待(きみまつ) 犬頃(イヌコロ)

変わった名の通りまるで髪型が犬耳の様な形になってる茶髪をした気弱そうな少年である。


彼はココネの大ファンであり、今日この握手会に来る前日も彼女が出演した作品を改めて全て視聴し、話す話題を考えていたのだが。


(どうしよう……何話せばいいか分かんないよ……)


彼女の出演作品の一挙上映から会場に着くまでの電車の中、そして本人を前にしてのトークショーと散々時間があったにも関わらず彼は話す話題に困っていた。


正確に言うと言いたい事がありすぎてまとまらないのだ。

声優さんと握手して話せる時間はせいぜい30秒程、長くても1分だ。

その時間を過ぎると後ろにいる進行係の人に列から剥がされてしまう。

その短い時間で彼女に言いたい事を数ある話題から選ばなければならない。


ここにいるヲタの皆はそのたった30秒の声優さんと話せる夢の世界を堪能するために集まっており、イヌコロも例外ではない。


そんなイヌコロが話題を考えられる時間はあと前の人3人分。

既にステージに上がる階段も上がり終え、気づけばあとラスト1人。

いよいよイヌコロの番である。

前の人の会話が聞こえてくる。


「あの、何を話せばいいか分からないです……」


どうやらココネさんを目の前にして話す事を忘れたらしい。

無理もない話だ。イヌコロも今この僅かな時間で言いたい事をまとめないといけないのにまだ話題が決まってないからだ。


「そっかー緊張しちゃったんだねー」


ココネさんの優しい声がすぐそばで聞こえて心臓が言葉一つ発せられる度に高まる。

今この人が話してる時間がもっと長ければまだ話題を考える時間が伸びるのに。


「はい、時間でーす」


無慈悲にも後ろの進行係の人によりココネさんの目の前から剥がされる前の人。


「あ、あの応援してます!」

「うん、ありがとうー!」


なんとか絞りだした言葉をココネさんに伝え、彼は会場を去っていった。


(いや、本当に早すぎるよ!)


あの時間内では、台本があっても伝えきれないだろう。

なのに、台本どころか未だ喋る事がまとまらないイヌコロは心の中で大いに叫んだ。


「はい、次の人お願いしまーす」

(うわぁー!きたぁー!)


さっき列から人を剥がしてた人が今度は列に並ぶ様に促してくる。

本当に無慈悲だ。


そして結局言うことが決まらないままココネさんの前に立ったイヌコロ。

どれだけ時間があっても夏休みの宿題を31日まで手を着けない普段の自分を呪った瞬間である。


イヌコロが緊張と言葉探しでとうとう白目を向いた時。


「こんにちは~」


ココネさんの方から話しかけてきてくれた。

その声を間近で聞いた事により、イヌコロの思考が戻り白目だった目も帰ってきた。


黒髪のロングヘアーにクリッとした可愛い目、そしてピンクのカーディガンを羽織った制服姿の天使がいる光景が帰って来た目に映る。



「あ、あの!今日初めて握手会に来ました!」

「そうなんだー!ありがとうー!」

「あの!その!ずっとココネさんの大ファンで、アニメもラジオも聞いてて、曲もあの!あ、新曲のメトロノームファンタジー最高でした!」

「凄い、詳しいねー!」

「そ、それはもう!あの!その!」


もはや考えてた言葉はどうでもいい台本無しのアドリブトーク。

彼は何回あの、そのを繰り返すのか。

そして、ついにイヌコロの背中に進行係の人の手がまわった。


(ああ、ここまでか……でも十分話せたよ。

ありがとうございます、ココネさん)


イヌコロが進行係の人に剥がされる前に自分から去ろうとした時だった。


「はーい、君はまだ続けていいですよー」


はい?


何を言われたのか全く理解出来ないイヌコロ。

あの何十人と人を列から剥がして来た進行係の人が列にいてもいいと言って来たのだ。


いや、そんなバカな話があるか。

言い間違いだろ?と思って周りを見ると、他の列を進行させてるスタッフの人も、会場を貸してるアニメショップの店員さんも、そしてココネさんのマネージャーらしき人もニッコリ笑ってどうぞという感じで手を前に出してくる。


いやいや、流石に他のお客さんが怒るだろうと思ったイヌコロだったが、さっきから会場がやけに静かになっていたのにようやく気がつく。


後ろを見るとこの握手会を待っているお客さんが全員時間が止まった様に固まっている。

まるで今動いてるイヌコロ達が時間の外にいる感じだった。


そして前を向くと、にっこり笑ってるココネさん。

一瞬また白目を向いたイヌコロだったが、意識をなんとか留めて話始める。


「あの、これって何が起こってるんですか?」

「あ、立ちっぱなしもなんだし座ろっか」

「え?いやいやそんな」

「お水でも飲む?ジュースがいい?」

「いやいやそんな !!」


2人がそんな会話をすると周りのスタッフさんがイヌコロとココネさんの分の椅子を持ってきてくれて、2人分の水とオレンジジュースも用意してくれた。


いつも会場全体の進行に忙しいスタッフの皆さんが2人がゆっくり話をする為に動いてくれているのだ。

本来ならあり得ないその事実に縮こまるイヌコロであった。



そしてそれから1時間後。


「あはは、君って本当に私の事なんでも知ってくれてるんだね。嬉しいなー」

「あーそりゃもうココネさんの一番のファンですから、なんちゃって!」


流石に1時間も連続で話せば慣れてきたのか、スラスラと言いたい事も言えて、冗談も交えた会話も出来る様になったイヌコロ。

他のファンが見れば羨ましい限りの状況であろう。


「ってそうじゃなーい!あの、こんな嬉しい思いさせてもらってなんですけど、これ一体どういう事なんですか!?」


さんざんいい思いをしたイヌコロが今更状況に対して突っ込む。

そしてその言葉を無視するかの様にさっきまで2人を見守っていた男性であるココネさんのマネージャーが間に入ってきた。


「この子でいいのか?」


そうココネさんに耳打ちすると、

ココネさんもまた、こくんと頷いて答えた。


一体何の話だろうか?

そんな2人のやりとりを見ていると、ココネさんが改まって話しかけてきた。


「君は本当に私の事をよく知ってくれてるんだね」

「え?はい、それはもうさっきから話してる通りです」

「うん……!マネージャー決めました。私、

この子と契約したいです!」


契約?


「そうか、分かった。」


こっちはさっぱり分からない。


「君はココネが好きか?」

「はい!」


その答えならはっきりと分かる。

突然マネージャーからふられた質問に答えるイヌコロ。


「また会いたいと思うか?」

「はい!」

「顔を覚えてもらいたいか?」

「はい!」


立て続けにマネージャーさんから出される質問に答えるイヌコロ。

まぁ、声優さんのファンなら当然の答えだろう。


「では、最後に聞く。君はココネを命懸けで守れるか!?」

「い、命!?」


最後の質問だけ強い調子で問うマネージャー。

その質問内容と迫力に少しびくついたが、

イヌコロはマネージャーの目を見てはっきりと答えた。


「守れます!」


パチパチパチパチパチパチ!


突然の効果音。

イヌコロの答えに周りのスタッフさん達から拍手に包まれる3人。


「ええ!?いや、どうもどうも……?」


イヌコロはそんな凄い答えだったのか?と思いながら、頭をかく。

そしてその答えが凄いかどうか、間もなく彼は知ることになる。

マネージャーはイヌコロに向かって宣言した。


「では、おめでとう!これから君を10人目の、『ボイスアクターゲーム』のプレイヤーとして、招待する!」

(ボイスあく……?えーと、聞いた事ないゲームだな。あ、新しいスマホゲームか何かのテストプレイって事かな?)


マネージャーさんの謎の宣言をそう分析したイヌコロ。

すると自分の手が暖かいものに包まれた。

ココネさんが手を握ってくれていたのである。


「ありがとう!君の言葉嬉しかったよ!」

「うわぁ!いやこちらこそ、どうも!

あ!ココネさんと握手してる!僕!」


そういえば、今日は握手会だった。

さっきからココネさんとの夢の1時間トークタイムや未だ事情を聞かされてない周りの時間が止まってる事等ですっかり忘れていた。


(ああー、今日は幸せ過ぎる……。こんなに長い間声優さんと一緒にいられたのは初めてだ)

「それじゃごめん。ここにサインをもらえるかな?」


イヌコロがこの時間を少しでも長く味わっていると、

ココネさんがそう言って一枚の紙を差し出してきた。


「へ?サイン?僕がですか?」


サインって普通もらう方が逆ではないだろうか?

声優さんがファンの書くサインなんてもらってどうするというのだろうか?

その疑問は紙に書いてある一行の文章を読むと解決した。


「えーと……あの……これ何かの間違いでしょうか……?この紙って……!」


ココネさんから手渡された紙を見て手が震えるイヌコロ。


「うん。婚姻届だよ!」

「ええぇぇぇ!?」





この日起きた出来事は、決してほのぼのとした日常の始まりではない。

選ばれた50人のヲタの内の1人、

君松イヌコロ。

彼の声優さんと命懸けで過ごす一年間の始まりであった。

そして彼が主人公の天桜寺カブキ(てんおうじ カブキ)と出会うのはまだ先の話である。





まだまだ下手な文章で申し訳ないです。

内容自体は2014年掲載から大分代わり、今回は主人公と別視点からのスタートとなりました。

当時は1話目だけ投稿したっきり書けなかったのですが、今回から少しづつ書きたい事を書けたらなと思います。

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