退学ー6
若干食い気味になってしまったベンクトの言葉に、メレンは流石に困惑を隠せないようだった。それを確認して、内心ほくそ笑む。
「弟子にしてくれっ!」
メレンの意向など完全に無視するつもりだったので、もう一度繰り返した。
「いや聞こえなかったわけじゃないが」
「弟子にしてくれっ!」
構わず押す。
「いやだ」
「弟子にしてくれっ!」
まだ押す。
「黙れ、無理だ」
「弟子にしてくれっ!」
「分かった、分かったからその『弟子にしてくれっ』て言うのを止めろ」
頭痛を覚えたのか、うんざりしたような表情を浮かべたメレンは額に手を当てた。
「良いのか?」
「どういう状況でそうなったのかさっぱりわからんが、とりあえず話だけ聞いてやる」
メレンが頭を抑えながら壁に寄りかかる。少々距離があったため近づこうとしたのだが、手で静止されてしまった。警戒心むき出しのジト目。ただでさえ論理的なやりとりをぶん投げたゴリ押しで話を聞いてもらっているのだから、これ以上の接近は色々な意味で危険だ。少女に言い寄っている変態にはなりたくない。
「それで、弟子にしてくれだって? 私の?」
「ああ」
この距離でも分かるほどの舌打ちが聞こえた。
「あ、そうだ。俺の名前は――」
「ベンクト・ゲーレルス。シャルロワ家執事、兼露払い。年齢17。特待クラス並みの知能を持ち合わせていながら、魔法技能の不出来が祟り、停滞クラスに転落。どこぞの女に弟子入りを願うような趣味の悪い男。だろ?」
「……調べたのか?」
名前ぐらいは知っていてもおかしくないとは思っていたが、ここまで知っているとは。ちょっと想定外だ。
「ああ、久しぶりに本気で調べたからな。お前がもっと嫌がるような情報まで持っているぞ。だから、まあ――質問にはしっかり答えろ」
メレンは、つまらなそうに毛先を弄りながら、天井からつり下がったシャンデリアを眺めている。
全てに興味がなさそうな目だ。それは実際そうなのだろう。興味がないし、つまらないし、面白くないし、退屈だ。なら何がそうさせるのか。一体何が。いや、分かる。単純明快だ。
知っているからだ。ただそれだけだ。
知っているものをわざわざ熱心に見る必要はない。だからあんな目をするようになる。見ているようで何も見ていないような目つきになる。空っぽになる。
「なんで私の弟子になりたい。別にここでだって知識は蓄えられるだろう。何故私なんだ」
横目でちらりとこちらを見てくる。
「お前に興味があるからだ」
「? 私のどこがお前の興味を引いた。まさかこんな体に欲情しているわけでもないだろう」
「知性」
「はっ、まさか昨日の講義で言い負かされたからってわけじゃないだろうな」
「そうだが?」
「はあ? 嘘をつけ」
「嘘じゃない」
本当だった。
あんな目をするには、それ相応の知識が必要になる。膨大な情報量だ。それをこんな小さな体に蓄えている。テラバイトか、ペタバイトか。エクサどころかゼタ――はたまたロナか。それほどまでに果てしないビッグデータの結果だ。
「全部が全部それが理由とは言わないが、大半はそうだ。メレンの持つ膨大な知識。何のためにそれほどの知識を求めるのか、それが気になった」
それを紐解けば、ベンクトの求めるものにきっと至れるはずだから。
誰にも負けない知識。力の終着点。
全能者に、きっと至れるはずだから。




