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高等魔法防衛戦術理論 Ⅲ―1

 その日の講義には、まるで人形のように小さな魔女がいた。


 開講五分前のことだ。


 立ち入ったのはB棟の第三十六教室。小さな教室の席はまばらに埋められており、学生たちの喧騒(けんそう)に包まれている。


 教室の入口で数秒足が止まる。まばらに埋められているだけに、自分だけで好き勝手にできそうな席が見当たらなかったのだ。


 顔見知りでもない誰かと隣り合わせで座るのはなんとなく嫌だ。しかし、こうなると避けようがない。仕方が無いので条件を緩めて座れそうな席を探す。


 日当たりの悪い廊下側を見つめながら教室の通路を上がる。


 すると、教室の中ほどで足が止まった。


 大きな黒い傘が目に入ったからだ。


 室内で傘とは。変人揃いの弊校でもこれは異色だ、と思った。が、よくよく見てみるとどうやら傘ではないらしい。


 それは帽子だった。


 童話の中に登場する、悪役の魔女が被っているような、黒くて大きなとんがり帽。


 帽子のつばが隣の席にまで伸びていて、誰かが隣に座ることを拒むような障壁として作用している。実際、三人掛けの机には帽子の主以外は誰も座っていなかった。


 帽子の主は壁側に座っている。真ん中は帽子のせいで座れない。空いているのは通路側の、自分に一番近い席のみ。


「……」


 もう一度ぐるりと室内を見回してみた。どの席も誰かしらと共に座っている。


「……ふぅ」


 ひとつ溜息を吐き、意を決して席に腰を下ろした。


 座ってみると、案外どうということはなかった。帽子の主が、なにか小言を言うわけでもなく、立ち上がってどこか別の席へ移動してくような素振りも見られなかった。


 強いて言うなら、鼻を何度かスンスンと鳴らしていたくらいだろうか。


 それが何となく気になり、帽子のつばに隠れていた顔をそっと覗いてみた。


「ぁ……」


 何の気なしに覗いたせいもあるが、自分でも驚くほどに視線が固定された。


 その顔を直線的に表現をするのなら、物憂げで気怠げな表情を浮かべた文学少女だった。


 遠くで燃えるような夕闇色の髪は、ふんわりとウェーブが掛かっている。その毛先を弄りながら机の上に開かれた本へと視線を落としていた。

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