最初
「さあっ! あなたの選択は……どっち!??」
気がつくと解答台に立たされていた。
司会者のような男が、威勢よく解答を迫ってくる。白くてデカいいかにもなハットを被って、真っ赤なスーツを纏った胡散臭いいで立ち。
薄暗い会場のど真ん中、自分だけがそこかしこの照明に照らされて、ビカビカと眩しい。
周囲の観客らしき人達の注目が集まる。ジロジロ、ザワザワ、ニヤニヤと、いろんな目で見て来る。
「もう時間が無いですよ!? 急いで下さい!! 残り5秒前!! 4…3…2…1……!」
カウントダウンが始まり司会者に急かされる。けたたましい音楽とドラムロールの音が会場に鳴り響く。
ドコドコドコドコドコドンドンドンドン!!!!
「うわああああああああ!!!」
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ガバッッ !!!
叫んで起きた。
悪夢を見た。
ハアハアと息が上がり、不快な気分と共に、体中にべっとりと汗を発していた。
嫌な夢を見た。
妙にリアリティのある、不快な夢。
昔の思い出だろうか。
夢というものは臨場感がある故に、楽しいものを見た時のエキサイティングさは素晴らしいが、嫌な夢を見たときの不快感は嘔心ものだ。
ただ、ここまで心のままに豪快にありありと発声できるのは夢の中でくらいだから、存外気分が発散されたような、そんな気持ち良さもある。夢の中の記憶を反芻すると、なおもゾッとするような思いは変わらないが。
「あああああ!」
もう一度叫んで気分を発散しようとするが、中途半端な鳴き声になり、意識がある中だと上手くはいかない。
「気分が悪いなぁ。」
わかりきった事を口にして、気分を紛らわす。どんな夢だったかを思い返しながらも、ベットの中で体を動かしていくうちに徐々にいつもの意識と現実感がはっきりしていく。
「もう2時か。」
寝ているそばにあるデジタル時計を探り手にして、時間を確認する。昨日は何時に寝たんだっけ。まためちゃくちゃな睡眠を取ってしまった。最近は寝落ちでしか寝れなくて、長々と起きて、また寝落ちをして…そんなことの繰り返しだ。夜に寝なきゃいけないのはわかっているが、そう簡単に眠りにつけるはずもないのだ。
「次はちゃんと寝なきゃな…。」
そうして解決することもなく自分を諌めるように、一人で思考を巡らせていると、もうどうでもよくなってきた。
なんだか今日はいつもと違う様だ。
イライラする。何で俺ばっかり。クソ面倒臭えわ。もう無理。ふざけんな。何なんだろう。行動しなきゃ。やってやるわ。飛び出したい。もう全部捨てたい。
今日こそ出来るような気がした。
今日は、いつもと違う感じがした。赤いマグマのような興奮や衝動性が、身の中にふつふつと湧き上がってくる様だった。
ずっと前から計画していた、家出をしようと思った。計画と言えど、長らくしたいと思っていただけだが。
そうと決まれば、行動しなければならない。
僕は寝床から起き上がって、物を拾い集める。まずは携帯。それから大きめのリュック。イヤホン,薬,上着,タオル,充電器,歯ブラシ,ポケットティッシュ…あとはお金だ。数万円ほどのお金の入った財布をカバンの中に突っ込む。いかにも子供っぽいデザインで、もっと大人用のものに買い替えようと決めていたがそれはもう何年前だったっけか。不備の無いように念入りに確認しながら持っていくものを選んでいく。親は寝ているようだ。10分程経つと、外に出る準備が出来た。部屋を行ったり来たりもした。これで完璧なはず。
興奮してザワザワと騒ぐ心の中とは裏腹に、音を立てないよう静かに、廊下を移動する。
玄関に到着した。歩きやすいようなシューズを選ぶ。不安な気持ちでいっぱいだった。どうしよう。行かないべきか。でも、一度決めた事だ、やるしかない。やらなきゃ変わらない。どうしようもない。正しい理由を探して、自分を奮い立たせる。まずは出るしか無いんだ。それしか無いんだ。そう思ってきただろ。
想いに想いを重ね、急いで靴を履き、重い扉を開ける。
そうして僕は、独り家を出ることに成功した。




