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童話「かあさんあのね」が、生まれた背景  作者: 琴乃夕月
第2章 現実に見えていたものと、そこで感じたもの・・
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ナシリアにて・・保健センターの赤ちゃんたち

カルバラを出て、ナシリアに到着・・そこでグループがいったん分かれて行動した時があった。

私はもちろん保健センターに向かった。南部の粉ミルク工場は、「軍事目標」としてピンポイント攻撃によって破壊されており、この施設では粉ミルクを手渡すことになっていた。

そして、南部でのコレラ感染の状況をもう少し詳しく聞きたかったこともあり、そこのセンター長と必要なものについて話を伺うのが目的だったのだが、ちょっと見ていって下さいと病室に案内された。


病室のベッドに横たえられた赤ちゃんは、1つのベッドに二人はまだいいほうで、小さい子だと3人並んで寝かされている・・もちろん眠ってはいない・・

赤ちゃんの中で一番太い血管があるところ・・頭に大人用の点滴針をずぶりと刺されて、一日の命をつないでいた。


経済封鎖のために、子供用の点滴針は手に入らない・・でもこの子たちを助けたい・・だからこうするしかないのです・・・・と。

私達が、自費を工面して持ち込んだ薬や米・粉ミルク・水などは、このセンターに収容されている子供たちの命を、たった一日引き延ばすだけしかない・・


(もし、ここに、戦争を起こすために私たちがアメリカを中心とした多国籍軍のために出した130億ドルがあったなら、イラク全土の大きな病院に収容されていた子供たちすべての命を救うことができたかもしれない。そして、南部にばらまかれた劣化ウラン弾の影響で、後に多発することになる白血病や甲状腺がんの患者に対する抗がん剤を含めたさまざまな治療を施すことも可能になっただろう・・残ったお金を使って、クラッター爆弾の不発弾を取り除く作業費用や、その犠牲となった子供たちの義手・義足を作る費用ともなっただろう・・)


生まれてきた以上、人のみならずすべての生き物は、いつか死を迎える。

でも、その死は、こんなふうにどこかの国の一存で、いきなり訪れていいものなのか?

イラクを回りながら感じたこと・・ずっとテレビや新聞で報道されてきた「クリーンな戦争」という言葉の一般国民に向けたイメージ操作・・戦争という命を奪う行為に、クリーンなものは存在しないという事実が、目の前にあった。これは、戦争という言葉でごまかした、大量殺戮に過ぎない。


粉ミルクを渡しても、これを溶かす水がちゃんと手に入るのかどうかわからないが、この保健センターにいる限り、きちんと煮沸した水を使ってくれるだろう・・若いお母さんが、涙を流して「ショコラン(ありがとう)」と粉ミルクを受け取るのだが、「アフワン(どういたしまして)」と返すことができなかった。

センターの中で、うつろな目で天井を見上げている赤ちゃんを見ながら、怒りと哀しみが同時にこみあげてきて、自分が何もできないちっぽけな存在であることを痛切に感じていた。

この子たちをこんな目に合わせたのは、私達なんだ・・

いつの間にか、私はひざまずいて、頭に針を突き立てた赤ちゃんの手を握り、子守唄を歌っていた。

せめて安らかに逝かせてあげたかった・・


するとどうだろう・・その子の顔から苦悶の表情が消えて眠りについたのを皮切りに、子供を抱いたお母さんたちが次々と自分の子を私に抱かせてくれた。この子にも・・そう言っているような気がした。

私は子守唄を歌い続け、同じ病室にいたほかの子供たちも安心したような寝顔を見せてくれた。

私は、この子たちに勇気をもらうことができた・・

オペラ歌手を目指して声楽家になったけど、甲状腺腫瘍切除で喉を切り、さらに2年たたずにお腹を切ることになり、せっかく声を残してもらえたのに舞台を降りなくてはならなかった自分の役目とは、こういうことだったのかな・・


私が歌うことで、一人でも多くの人がほんの一瞬でも救われるなら、歌い続けよう・・そして喉が嗄れたならそれも運命だから・・

この時の経験が、前出の「がれきの中の天使たち」になりました。

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